平成18年8月 第2243号(8月23日)
■繰越制度を利用しよう
科研費“不正使用”防止のために
「研究者の皆さん、科研費の繰越をどんどん活用して下さい」―文部科学省では、平成十八年四月に繰越事由が一層明確化した繰越明許制度の活用を呼びかけている。同制度の概要をまとめた。
科学研究費補助金の繰越制度とは、「交付決定時には予想し得なかった要因によるやむを得ない事由に基づき、年度内に事業完了が見込めないものについては、財務大臣の承認を得た上で、研究費を翌年度に繰り越して使用できる」制度である。
この制度は、二〇年以上にわたる研究者の悲願であった。また、年度内に使いきれなかった研究費を翌年度に繰越せないことが、研究費不正使用問題の原因との指摘もあり、経済財政諮問会議による「骨太の方針」や総合科学技術会議でも取上げられたことから、その機運が高まり平成十五年度に実現した。
しかしながら、ふたを開けてみると、およそ五万件の科研費採択件数に対して、繰越申請があったのは十五年度に二四件、十六年度は一〇件のみ。文部科学省は、これを受けて、制度の一層の利用を促進するため、平成十八年四月に「繰越し事由」の例示を大幅に増やした新たな通知を各機関に送付し、周知を図るべく対応している。
事由の例示は、「研究に際しての事前の調査」、「気象の関係」、「資材の入手難」などの具体事例が加筆された他に、次の二事例が画期的である。
・研究を実施中に、○○の事象が生じたことで当初予定していた成果が得られないことが判明したため、当初の研究計画を変更する必要が生じたことにより、その調整に予想外の日数を要したため年度内に完了が困難となった場合。
・研究の進展に伴い、当初予想し得なかった新たな知見が得られたことから、その知見を使用し十分な研究成果を得るために、当初の研究計画を変更する必要が生じたことにより、その調整に予想外の日数を要したため年度内に完了することが困難となった場合。
これらは、「研究が遅れてしまったり、思わぬ研究成果が得られた場合でも、繰越の必要性をきちんと説明すれば繰越しが可能」ということであり、これに照らし合わせれば、多くの事由が繰越しの対象になる。平成十五年度の繰越対象では、「外的な要因(地震、機器の故障など)」が発生し、やむを得ず翌年度まで延ばして研究を実施せざるを得ない場合に限定されていたものが、より具体化・明確化されて例示されている。
それでは、繰越明許制度を利用したい場合は、具体的にどうするのか。科研費の申請書にあるA4様式三枚に、繰越要求額はいくらなのか、繰越す理由は何か、今後の予定はどうなるのか、を例示に沿って記入し、大学を通じて文部科学省まで提出するだけである。
文部科学省の担当者は、「予想し得なかったことが生じ、繰越す必要があると感じたら、随時相談をして欲しい」と言う。勝手な判断で繰越すと不正使用になるからだ。相談の上、当該年度の三月三日までに申請様式に記入して提出すれば、財務省と協議の上、早ければ翌年度四月には繰越して使用できる。ただし、例示に沿って、客観的に繰越しが必要である事由を書かなければならない。それには、行政文書の作成に精通している大学の事務職員の協力が不可欠であろう。中には、ひたすら自分の想いを記入する研究者がいるが、繰越事由の説明になっていなければ財務省サイドの理解を得ることは難しい。「気付いたら経費不正使用」とされないためにも、研究者個人の問題としてではなく、大学組織として、研究費について検討し支援していく必要がある。
科研費の繰越についての相談は、研究振興局学術研究助成課(〇三-六七三四-四三一五)まで。