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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.356
認証評価のこれから −自己点検・評価の実質化を−
(English Version:Future of Certified Evaluation and Accreditation:
            Toward a Substantial Self-Check and Evaluation System) [PDF]

 私学高等教育研究所主幹 瀧澤博三(帝京科学大学顧問)

 〈認証評価見直しの時〉
 認証評価制度が平成16年に始まってから既に5回目の実施をほぼ終え、ようやく半数を超える大学が認証評価の受審をすませた。あと2年で認証評価の第1回目の7年のサイクルが終わる。認証評価は次のサイクルの開始を目前にして、これまでの経験を踏まえ評価システムの点検・評価を行い、その見直しをしなければならない時期にきている。慌しく始まった認証評価制度には様々な悩み、課題が付きまとっている。
 7年間で全大学・短大の評価を行うだけの体制を構築できるのか、無理をして実施したとしても評価の質を維持できるのか。ユニバーサル化に伴う学生の多様化とグローバル化に伴う教育の質の高度化の要請という矛盾に富んだ課題に、認証評価はどう対応したらよいのか。現在3つある大学の認証評価機関は、多くの問題意識を抱えつつも、1回目のサイクルが終わるまでは混乱を避けるために大きな手直しは避けてきており、第2期目からの実施を目途に抜本的な改善の検討を始めているようである。
 現在の認証評価制度に関する問題意識の多くは次の2つの点に由来していると思われる。一つは、自己点検・評価と認証評価ともにその体制が整わないままに制度が先行してきたことである。2つには、制度の議論が熟さず、認証評価の目的・性格が十分明確にされないままに発足したことである。このことが、ひいては質保証システムの中での認証評価と他の要素―設置認可、自己点検・評価、行政的監督(段階的是正措置等)―との関係を不明確にしてきたと思われる。
 ここでは、とくに第2の点について問題の整理を試み、第2期に向けての認証価システム改善の手がかりを得たいと思う。
 〈認証評価と自己点検・評価との関係〉
 「大学評価の取り組みの基本は、各大学が自ら行う自己点検評価にある」(中教審「21世紀の大学像」答申より)「自主性・自律性」が教育研究を使命とする大学の本質である以上、教育の質の保証が第一義的に大学自身の責任であるべきは当然である。ところが、認証評価制度が始まり、その評価方法として「自己点検・評価の分析」が取り入れられて以来、自己点検・評価は認証評価を受けるために行うかのような色合いが強まり、自主的な自己研究、自己改善の活動という意識が育たなかったように思われる。
 平成16年に認証評価制度が発足したとき、自己点検・評価は法的に義務化されていたものの極めて未成熟な状況であった。大学の自己研究の体制もなくその意義への理解も少ないままに、自己点検・評価は認証評価の付属品となったことによって、独自の質保証としての成熟は止まってしまったように見える。自己点検・評価の成熟が止まれば、その分析を評価方法とする認証評価の進化も止まらざるを得ない。今必要なことは、自己点検・評価が質保証の主体として、真に自主的・自発的な活動として成熟していけるように、認証評価の目的・役割を見直すことであろう。
 現在各認証評価機関が表明している評価の目的を見ると、いずれも、大学の、あるいは大学の教育研究活動等の「質を保証すること」を挙げている。しかし、これは正確な表現だろうか。
 認証評価の方法は「自己点検・評価の分析」が主なのであって、大学の教育研究の実態に直接立ち入って調査するわけではない。自己点検・評価が自らの大学の教育の「質の保証」であるとすれば、認証評価は「自己点検・評価の質の保証」と考えるべきだろう。そのような観点から認証評価の目的を次のように考えることを提案したい。
 「認証評価の目的は、自己点検・評価の適切性と誠実性を評価することによって自己点検・評価の質を高めるとともに、そのことによって、教育研究の質の向上を支援し、社会に対する説明責任を果たしうるようにすることである」
 〈認証評価と設置認可制度との関係〉
 設置認可制度の目的の中心は、大学としての存立に不可欠な基本的要件(使命・目的、教育研究組織、教員組織、校地・校舎等)の具備をスタート時において確認することにあり、この役割は、性格上事後の評価で代替することはできない。
 一方、大学設置基準等による大学運営上の基準(教育課程の運営、学習支援、学習評価、FD、管理運営、自己点検・評価等)は運営の実態が評価対象であるから事前の評価にはなじまないものが多く、またこれらの評価は定性的な面が強く、主観性を持たざるを得ない。このため、これら運営上の事項は事前の評価または公的な評価にはなじまず、事後の「民」による評価に期待される面が多い。
 このように事前か事後かは、評価事項によるのであって、規制改革の原則とされている「事前規制から事後チェックへ」という画一的な考え方は大学教育の質保証システムには適合しない。質保証システムの見直しのためには、まずこのような、市場主義に偏し実態を踏まえない観念優先の原則を見直す必要がある。その上で、公的な事前評価である設置認可と「民」による事後の認証評価との役割分担の在り方を、高等教育の実態に即して検討し直す必要がある。
 〈大学設置基準等の法令遵守と認証評価の役割〉
 大学の法令遵守を直接的に監視することは認証評価の役割ではない。評価の過程で知り得た法令違反を指摘することはあっても、積極的に立ち入り調査をして摘発することを任務と考えることは不適切である。大学の法令違反に対しては、国が段階的に是正措置を取る権限を持つ以上、それは行政の役割である。認証評価は、大学コミュニティーの中での相互支援の活動であり、「民」の分野であるという基本的な性格を大事にしてこそ、その活動はうまく機能し得るはずである。
 その意味で、総合規制改革会議の第一次答申で、認証評価を「事後の監視体制」であるとしているのは、認証評価の本質への理解に欠けるものである。
 〈認証評価のこれから〉
 最後に、認証評価の見直しをする際の基本的な方向
を、改めて次の三点に整理しておきたい。
 一、質保証システムの成否は自己点検・評価の成否にかかっている。認証評価は自己点検・評価の質保証機能を高め、実質化することを第一の目的にするべきである。
 二、認証評価は「民」による柔軟性のあるシステムとして、公的なシステムとの役割の違いを明確にしておく必要がある。
 三、認証評価の目的を明確にして、評価項目をできるだけ焦点化するとともに、評価方法の合理化・効率化を図ることである。これは単に労力を省くということではなく、評価の質を維持し、高めるために不可欠な条件である。

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