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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.284
認証評価制度のこれから 第32回公開研究会の討論から

私学高等教育研究所主幹 瀧澤博三(帝京科学大学顧問)

 〈3歳になった認証評価〉
 平成16年4月施行の学校教育法改正によって認証評価制度が実施段階に入ってから既に3年になる。この間に大学の認証評価に関しては3つの評価機関が文部科学省の認証を得て評価活動を進めており、昨年度までに国公私合わせて138の大学が認証評価を受けた。
 対象となる全大学733校(平成18年度、募集停止中の大学等を除く)の認証評価を7年のサイクルでこなすことが果たして可能なのか、大きな不安を抱えたままの苦難の出発であったが、これまでの実績は、努力次第では可能という回答を示唆しているのではないだろうか。
 文部科学省の各大学へのアンケート調査によると、本年度は三評価機関合わせて132校が実施を予定しており、来年度はこの数が168校となり、この年がピークである。各機関ともこれに備えて評価体制の整備を図っていると思うが、今年度から来年度あたりが認証評価の成否をかけた正念場になるだろう。
 私学高等教育研究所では5月28日に「認証評価制度のこれから」をテーマとして第32回の公開研究会を開き、三機関をそれぞれ代表した講師の方々から認証評価の現状、実施上の問題点、将来展望等について語って頂いた。参加者の方々との質疑、討論も含めて、認証評価制度の今後の在り方を考える上で、多くの重要な示唆が得られた。研究会の討論から、認証評価制度の現状と「これから」について感じたところを述べてみたい。
 〈現状の問題意識〉
 三機関の現状についての問題意識には共通するものが多い。機関別の認証評価、分野別の専門職大学院評価、さらに国立の法人評価と、サイクルの異なる多重的な評価を受ける大学の負担の大きさや、評価員の負担、評価員の確保と事務体制の整備などは、当然ながら三機関共通の悩みである。このため、評価項目の精選や機関別評価におけるプログラム評価の位置づけの検討も俎上に上がっているようである。
 また、評価員の在り方について、「ピアー・レヴュー」は、専門分野別の評価にとっては重要な理念であるが、総合的評価である機関別評価にとっては「ピアー」より「エキスパート」と考えた方が良い、と言う指摘があったが、これは今後の評価体制の整備にとって重要な示唆だったと思う。
 もう一つの共通の悩みは、評価結果の公表の仕方である。大学の教育研究の状況についての社会への説明責任は、認証評価の目的の重要な項目であるが、現状はその責任に応えているとは言えないという認識がある。
 多様なステークホルダーに対して、どのような内容をどのような方法で発表するのが効果的であるのか。ジャーナリズムの受け止め方の問題もあり、中々適切な回答を得ることは難しいようである。
 問題意識は、このような現制度の実施上の問題だけでなく、制度の在り方にも及ぶ。二、三を挙げれば、事前評価としての設置審査と事後評価としての認証評価の関係はどのようにあるべきか。機関別評価と分野別評価の関係はどうか、大学の多様化に対応する評価基準のあり方はどうか、などの問題が指摘された。これらについて、事後では出来ない評価もあり、事前・事後の役割分担を明確にすべきだ、認証評価は機関別が基本であり、分野別のプログラム評価は「より望ましいもの」と考えるべきだ、などの発言があった。
 また、教育の達成度としてラーニング・アウトカムの評価を取り入れる考えはあるかとの質問に対しては、アウトカムをどのようにして評価するかの方法論が確立されていない、大学の自己点検評価報告書でもアウトカム評価はまだあまり行われていないなど、三機関とも現状では難しい問題があるとの見方のようだ。
 〈認証評価のこれから〉
 大きな不安を抱えつつ出発した認証評価であるが、制度となった以上、多大のエネルギーと資源を費やしても実施していかざるを得ない。しかし、その費用対効果に社会の納得と支持が得られるか、評価を受ける側と評価する側の多くの関係者が、達成感と自信を得、モラールを維持していけるだろうか、そのあたりの不安は依然として残る。
 この不安を除くためには、制度の在り方にも踏み込んだ改善の手直しが必要になってこよう。その際、現制度に残された目標、性格の曖昧さが検討の障害になってくるのではないかと懸念される。
 日本の大学評価制度はまだ歴史は浅いが、短い期間に既にいくつかの変遷を経てきた。その間、評価の目標についても性格についても異なった要素が複雑に混ざり合っており、そのことが現在の制度の目標・性格について多くの曖昧な問題点を残す結果となっている。
 大学評価が制度化されたのは、平成3年の設置基準の大綱化とセットで自己点検評価の努力義務が定められたことにはじまるが、この時の考え方は、大学基準協会の戦後の長い実績を踏まえてアメリカ型のアクレディテーションをモデルとしていたと思う。しかし、その後の大学評価制度の発展は必ずしも一本道ではなく、経済・社会の激しく変化する潮流の中でいくつかの揺れがあった。
 一つは行政改革、構造改革からの影響である。行革の立場からの問題提起であるから、中心的課題は国立大学の評価問題であるが、結果的には、私大も含めて大学評価への国の関与が表面化してきた。平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像」は、特に国立大学の運営の改善と説明責任に重点が置かれ、第三者評価に関しては、大学団体、学協会、大学基準協会等による多面的な評価に期待すると同時に、大学共同利用機関と同等の位置づけを持ち、評価に関する調査研究機能も備えた第三者機関の設置を提言した。
 この答申は、当時、政府、与党の中で高まってきていた国立大学民営化論の動向を意識していたと思われるが、この答申を受けて、大学評価・学位授与機構が生まれ、その評価結果は公的な資源配分にしっかりと反映されることとなった。大学コミュニティーによる自己規律、自己改善というこれまでの大学評価の性格に、さらに管理者、政策責任者による規律付けという性格が加わり、大学評価は当初のアメリカ型からヨーロッパ型へ傾いたように思える。
 もう一つは、規制改革からの影響である。今の認証評価制度は平成14年の中教審答申「質の保証のための新たなシステム」によって生まれたが、この中教審答申の背景にあったのが総合規制改革会議の第一次答申(平成13年12月)である。この第一次答申では、「事前規制から事後チェックへ」の筋書きに沿って、認証評価を「継続的な事後の監視体制」として整備する必要があるとし、更にその評価結果は、問題があれば法に基づく段階的是正措置に結び付けるべきだとしている。これは設置審査と一体となった権力的な質の維持装置であり、大学コミュニティーによる自律的な活動としてのアクレディテーションとはおよそ異質である。
 こうして、現在の認証評価制度の中には異質なDNAが混ざり合っている。そのため今後の発展の方向には色々な可能性が考えられ、見定めにくい。公開研究会で提起されたように、当面の問題は評価の質を維持しつつ、効率性を高めることであり、評価基準の明確化、簡素化、評価方法の改善などが必要となろうが、それを進めるためには、結局、設置審査との関係、機関別評価と分野別評価との関係、自己点検評価の扱い方などの基本的な問題にぶつからざるを得ない。
 認証評価制度の見直しは近い将来避けられないのではないだろうか。

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