平成26年2月 第2554号(2月26日)
■地方私大からの政策提言
地方私大の新たな役割と統合政策
(1)時代の変動と課題
めまぐるしい時代の変遷の中、高等教育機関、特に地方における私大の存在意義及び役割も大きく変化し、改めてその在り方が問われている。国立大・公立大とは異なり、大部分の私学は、創設者の教育や人材育成に対する熱い思い、理念から設立された経緯を持つ。各大学で理念や目的は異なるが、共通するものは、これからの地域、更には世界を担う「人材の育成」ではないだろうか。
私学の設立時期は、明治から昭和初期のものが多く、現在までの約100年間で、世の中の状況や価値観、そして求められる人物像も大きく変化している。創設者の思いを継承しつつ、こうした時代の変動、何よりも地域社会や高校生の希望に対応した大学の在り方やその取組みを大胆に再構築すべく、真摯に、また早急に検討すべき時機が来ているのではないか。
私は、これまで主に国立大に勤務しており、地方の私大の学長としては未だ1年未満の経験しか持ち得ていない。国や企業等からの資金をベースとした国立大とは異なり、資金や人材が限られた条件下にある私大の学長として、人材育成や地域貢献など地方私大に課せられた極めて大きな役割を再認識するとともに、新たなミッションや今後の在り方について考察し、政策提言を行いたい。
(2)地方私大の役割再考と新たな取組み:四国大学の事例
昨今の地方私大の大きな課題は、少子高齢化に伴う18歳人口の減少や地方の疲弊等に起因して引き起こされている入学者数の減少と一部の定員割れに対して、その解決策が必ずしも容易に見つからないことである。一層厳しくなる地方私大を取り巻く状況の中で、その解決策はあるのであろうか。
社会において「有為な人材の育成」という大学の基本的な役割は普遍であろう。もちろん肝要なのはその中身であり、先にも述べたように、変遷する時代、そして社会が求める人材像に如何に対応していくかが経営的視点も含めて求められている。大学にはこうした社会的外的要因からその変革を迫られている面もあるが、ある意味では、改めて大学自身がその本質的なものを検証・変革できるチャンスでもある。地方私大がその基盤をより強固なものに、また“地域の活性化”の知の拠点としての役割をより積極的に担うなど、新たな大学像の形成を再考する機会として現在(いま)があるのではないか。
ここで、四国大学について簡単に述べる。本学は1925年佐藤カツ女史が専門職業人としての女性の自立を掲げて創設した徳島洋裁専門学校を前身とし、1961年に短期大学、1966年に女子大となり、1992年に共学の総合大学へと発展してきた歴史がある。近年は、少子化の影響を含め、多くの地方私大同様、入学志願者数が減少しており、現在、その対応策を講じているところである。入試制度の改善や奨学金制度の充実等、直近の策に加え、他大学にはない特色を出しつつ高校生の期待や社会の要請を的確に捉えた内容への変革、すなわち創設理念を継承しつつも大学の存在価値そのものを高めることが重要であるのではないかと考えている。
これらに鑑みて、本学では、現在取組んでいる事項が二つある。ひとつは、「教育プログラムの改革」とその運用実施組織となる「全学共通教育センター」の立ち上げである。それらの取組みの中で、建学の精神である「全人的自立」を現在の目で見直し、在学中に確実に身につけてほしいものとして「自己教育力」「社会人基礎力」「人間・社会関係力」の三つを「四国大学スタンダード」の主要項目として掲げ、平成26年度から実施する予定である。
もうひとつは、大学が地域の活性化の核となりうるための取組みである。地域の伝統文化を掘り起こし、食育・スポーツ・防災を含めた安心・安全、健康で経済的にも活発な街づくりに貢献し、学生の実習やインターンシップ、地域自治体との連携・共同研究などを通し、大学が地域の活性化に寄与しようとするものである。こうした取組みは、平成25年度、26年度に文部科学省が実施している「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」が目指すものに合致している。この事業については、全国各大学の関心も非常に高く、本紙面でも何度か取り上げられているものである。しかしながら、採択件数(率)が(特に、私大で)低く、事業の拡大・継続を望む声は多い。
(3)新たな役割を担う地方私大に対する施策
前項で述べたように、現在の地方私大が担い、また社会から期待されている事項はこれまでに比べ、より広範囲に、また地域社会との関係も格段に深くなってきている。こうした本質的な変化を先進的に捉えれば、地方私大に対する国や地元自治体の取りうるべき施策も変わるべきではないだろうか。例えば、前述のCOC事業は、大学における地域連携・貢献に関する教育改革が対象となっているが、その内容は、自治体や企業、また地域社会における生活や健康課題等にも関係しており、単に文部科学省だけでなく、経済産業省や厚生労働省、総務省等が所掌すべきと考えられるものもある。すなわち、省庁の縦割り事業ではなく、関連省庁連携の事業(統合政策)として、また地方の状況に応じた多様な取組みを可能とする支援・推進体制(予算も)を組むべきではないだろうか。
ところで、私大には、法人として保育所・幼稚園・小中高等学校等を併設しているものに加え、社会人・生涯教育を実施しているものも多い。更に近年、看護や介護、保育など保健衛生、福祉分野での人材育成が注目され、この分野の学部学科を設置する大学も増えている。大学の存在自体が、老齢化が進む地域において、多くの若者が集い生活する特異で価値ある場を形成しているのである。すなわち、これまでの主として若者を対象とした教育機関から、多様な年齢層が関与し、重要な社会・経済活動の場・推進機関として、その役割は広がり、存在価値が高くなっていると言える。
このように、大学が担う役割の拡大に伴い、教育関係者だけではなく、キャリア形成・就業支援、そして地域・自治体等との連携推進を担う専門スタッフも不可欠となっている。
こうした大学総体としての役割が拡大し大学が地域活性化を担う機関となりつつある今、その位置づけの再定義も含め、国や自治体との役割分担・連携政策も変化・統合化してもよいのではないだろうか。今後とも、学内外での活発な議論・検討を望みたい。
まつしげかずみ
福岡県出身。昭和50年米国ケース・ウエスタン・リザーブ大Ph.D.課程修了後九州大教授。平成5年京都大工学研究科教授、産学連携・知財担当副学長や国際融合創造センター長併任。平成25年度より現職。