平成25年9月 第2536号(9月11日)
■大学は往く
新しい学園像を求めて〈80〉
「先生になるなら、親和」定着
オンキャンパスとオフキャンパス教育 高い教員採用の実績
神戸親和女子大学
「先生になるなら、親和!」のキャッチフレーズが定着した。実践的な学びで保育士・教員採用に高い実績を誇る。昨年、創立125周年を迎えた神戸親和女子大学(三木四郎学長、兵庫県神戸市北区)は、女子教育に長い歴史と実績を持つ。「オンキャンパス教育とオフキャンパス教育の融合」が教育の柱。オンキャンパス(学内)で知識や技術を習得し、海外・社会・地域などのオフキャンパス(学外)での多彩な体験を通して、社会で役立つ力を養成する。高い教員採用実績はスクールサポーター制度やユニークな実習が裏打ちする。学生ボランティアのめざましい活躍は地域社会からの信頼も厚い。卒業生の女優、藤原紀香も在学中からボランンティア活動に関心を持ち、現在も女優を続けながら人道支援活動を行っている。「伝統を継承しながら、その時代時代にふさわしい女子教育を展開しています」と語る学長に、大学の歩みと現状、そしてこれからを聞いた。
(文中敬称略)
活発なボランティア活動 伝統継承、時代を映す
神戸親和女子大学は、1887年に神戸元町の善照寺内に設立された親和女学校が淵源である。いったん閉校された親和女学校だったが、1892年、校祖、友國晴子の熱意と独力によって再興された。
爾来、親和学園の歴史は、親和女学校が原点となっている。校祖である友國晴子が校訓とした「誠実(まことの心)、堅忍不抜(堪え忍ぶ心)、忠恕(ちゅうじょ)温和(思いやりの心)」は、今も引き継がれている。
1947年、親和中学校を設立、48年、親和高等女学校が親和女子高等学校に。66年、親和女子大学が文学部(国文学科、英文学科)の単科大学として開学。72年に児童教育学科を設置。94年、大学名を神戸親和女子大学に変えた。
大学の改革は2005年の発達教育学部の開設が嚆矢となった。文学部の国文学科、英文学科を統合して総合文化学科にし、発達教育学部に児童教育、心理、福祉臨床の三学科を設けた。
「大学として教員養成に特化したのは、05年の発達教育学部の設置からになります。それまでも文学部の児童教育学科から幼稚園や小学校の教員は出ており、現在、校長を務める卒業生も出ています」
06年には通信教育部を設置。08年には発達教育学部にジュニアスポーツ教育学科を設置した。「ジュニアスポーツの指導方法などを学び、中学校・高校の保健体育の教員を中心に、スポーツ関連施設・企業への就職をめざしています」
現在、2学部5学科に2000人が学ぶ。学長の三木が大学を語る。「建学の理念である国際社会で自立して活躍できる女性の育成をめざす教育を行い、教養を高め、学識を深め、総合的判断力を持ち社会に対応できる人材を育てています」
オンキャンパス教育とオフキャンパス教育の融合。「授業で学んだことを現場で応用し、現場で得た経験や疑問を大学の授業にフィードバック。問題・課題を教員と共に考え、再び現場に生かしていきます。ここでの学びは、他者と協働して得る学び、言い換えれば、『社会的な学び』です」
オフキャンパス教育では、「フィールドスタディ」に取り組む。「酒造会社に日本酒カクテルなどを提案、具現化したものも結構あります。学生には、多様な人と接し、コミュニケーション力、実践力が磨かれ、自信につながります」
高い教員採用実績について。入学する学生の「先生になるという夢を実現するんだ」というモチベーションの高さと大学側の教育目標の明確さと支援体制の充実が根底にあるようだ。
「教員を養成する多くの大学は、小学校、幼稚園、保育士の三つの資格が取れると謳っていますが、本学は二つにしています。何の先生になるのか、専門性を明確にさせ、ゆとりあるカリキュラムを組むためです」
教員養成では、教育実習とは別にスクールサポーター制度を実施している。神戸市など17の教育委員会と協定を結び、学生が年間を通じて小中学校や幼稚園の授業や行事などを補助する。年間200人の学生が参加する。
「教育現場で、実際に授業や行事などに立ち会います。児童や生徒と直接触れ合う機会が増え、将来先生が志望の学生にとって得るものは大きい。行った先の学校から“卒業したら、ぜひうちに”と誘われるケースもあるようです」
平成24年3月卒業の保育士、幼稚園教諭、小学校教諭の採用実績(朝日新聞社刊の大学ランキング・2014年度版)で、保育士は西日本の女子大学で第1位、幼稚園は同第2位、小学校は同第4位となった。
就職率は各学科とも高い。「福祉臨床学科の就職率は100%。児童教育学科は、保育士と幼稚園・小学校教員の実績がよい。ジュニアスポーツ教育学科、心理学科、総合文化学科も健闘、全体の就職率は95%を超えました」
グローバル化にも傾注
グローバル化にも力を入れる。「世界基準の教員養成をめざす」との観点から国際感覚を培える海外研修プログラムがある。カナダ、イタリア、韓国の大学の附属小学校などで研修。毎年100人の学生が参加する。
「授業を見学するだけでなく、折り紙や童話など日本文化を地元の子どもたちに英語で教えたりしています。事前の準備が大変で、教員の指導のもとに学生は半年かけて語学研修と共に現地で行う授業のシュミレーションなどを行います」
こうした海外の協定大学(附属小学校・幼稚園)から講師を招き、「国際教育フォーラム」を毎年、開催。幼児教育や小学校教育をテーマに、特色ある教育・保育の報告がある。「学生たちも聴講し、世界の最先端の教育理論や時事的な問題などについても知識を深めています」
地域貢献とボランティア活動。子育て支援センター『すくすく』は、キャンパス内の施設に未就園の子どもと保護者を受け入れる。保育士や教員を志す学生が積極的に関わり、子どもたちが楽しく遊べるプログラムを実施している。
「開館5年で、利用者は延べ3万人を超えるなど地域に定着。ボランティアも延べ4500人以上の学生が関わり、『すくすく』を支えています。学生たちは親子の実態を間近に見ることができ、子どもたちの生の反応を知ることで、保育士・教員としての資質を磨くことができます」
活発なボランティア活動の原点は、1995年の阪神・淡路大震災。多くの若者が参加、ボランティア元年といわれた。昨年、東日本大震災を教訓とした防災教育ハンドブック「しあわせはこぼう」を発刊。子どもたちをどう避難させるか、などをまとめた大学生向けのテキスト。
ボランティア活動の拠点が地域交流センター。学生総数の5割以上の1047人が登録、地元の子育て・教育支援、イベント・伝統行事などに延べ2483人以上が参加(いずれも平成24年度実績)。「『ひとに学び ひとに生かす』という本学の教育が、学生たちの学びと学生生活に深く浸透し、学生の成長にもつながっています」。
ボランティア活動に熱心な藤原紀香を、三木は「藤原さんの活動は、校祖の友國晴子の生き方と重なります」と語る。友國晴子は、「まことの心をこめて、ひとへの思いやりをもち、社会のさまざまな課題解決のためにねばり強く努力する」を実践した。
藤原紀香がエール送る
藤原紀香は、新聞紙上で、在学生にエールを送る。「どうか皆さんも『今、私にできること』を、考え、想像したことを実行に移す力を持ってください。一人の力は、けっして小さくありません。その思いが強ければ、必ずその信念は人から人へ、日本中へ、そして世界へ、伝わっていくと私は信じています」
最後に、学長の三木に、大学のこれからを聞いた。「すべての大学が厳しい競争的環境に直面しています。今後とも、教員養成に重きを置きながら、心理、福祉、総合文化の各学科の学生には何かを教えたり、何かを育てる仕事に就くよう育てていきたい」
こう付け加えるのを忘れなかった。「めざす教育の達成のためには地域と社会の理解と支援が不可欠です」。神戸親和女子大は、グローバル化を押し進めながら、地域に根ざし、地域と共に発展する大学を志向する。