平成25年1月 第2511号(1月23日)
■大学は往く
新しい学園像を求めて〈64〉
個性尊重の少人数教育
堅調な就職活発なクラブ 「自分らしさ」を磨く
藤女子大学
カトリックの精神に根ざした温和と清楚。校名の「藤」は、校訓の謙遜、忠実、潔白の徳目を象徴したものだ。藤女子大学(喜田 勲学長、札幌市北区)は、北海道では唯一の四年制女子総合大学で、道内の女子高等教育機関としては最も古い伝統を持つ。徹底した少人数教育と、キメの細かい教育と面倒見の良さが特徴だ。文学や文化を通して人間の本質に迫る「文学部」と、現代社会の複雑で困難な課題に深くかかわる「人間生活学部」の2学部からなる。就職では、支援システムを一新、充実した環境整備で進路をバックアップ。指呼の間にキャンパスがある北海道大学との交流は長く続いている。研究会やクラブ活動が活発で、歌手の中島みゆきも学んだ。「個性を尊重した少人数教育で、学生一人ひとりが学ぶ喜びを知り、『自分らしさ』を磨いています」と話す学長に大学の歩みとこれからを聞いた。
(文中敬称略)
北大と長い交流 歴史と伝統の女子大
「ちょっといい話」から入る。藤女子大と北海道大学の関係。かつて、こんな話が道内の教育関係者の間で語られていた。「北大は、藤女子大に牛耳られている」。何のことかと思うだろう。答えはあとで明かしたい。
白い雪が舞っていた。取材に訪れたのは昨年の12月初旬。この季節にしては珍しい大雪だった。パウダースノーとよばれる雪の積もる静寂なキャンパス。大学案内で謳う「より深く、思う存分学ぶことができる環境」があった。
藤女子大は、1925年に創立された北海道初の5年制女学校である札幌藤高等女学校が淵源。初代校長として、ヨハンナ・サロモンが就任。1947年、専門学校令による藤女子専門学校を設立した。
48年の学制の改革により、旧高等女学校が藤女子中学校、藤女子高等学校となる。50年、藤女子短期大学を開設。藤女子大学は61年に開設、文学部を設置。92年、人間生活学部を設置。2000年、改組により藤女子短期大学を募集停止、文学部に文化総合学科を設置した。
キャンパスは、文学部が札幌市中心部に、人間生活学部が札幌市に隣接する石狩市花川にある。文学部は、併設の中学高校と同じ敷地内にある。2学部に2200人の学生が学ぶ。
藤学園の創立者であるカトリック札幌教区初代教区長ヴェンセスラウス・キノルド司教は、「北海道の未来は女子教育にある」と宣言した。
学長の喜田が大学を語る。「キノルド司教の意思を受け継ぎ、キリスト教的世界観や人間観を土台として、女性の全人的高等教育を通して、広く人類社会に対する愛と奉仕に生きる高い知性と豊かな人間性を備えた女性の育成を使命としています」
2学部の学び。文学部は、英語文化学科、日本語・日本文学科、文化総合学科の3学科。「文学部では、学科の垣根を取り払い、どの学科に所属していても履修可能な副専攻に相当するオープン・カリキュラム制度を導入。英語の運用能力を特に伸ばしたい学生向けには、英語エキスパートプログラムもあります」
3学科とも教職が取れる。英語文化学科は英語、日本語・日本語文学科は国語、文化総合学科は地歴・公民の中学高校の教員免許の取得が可能。このほか、図書館司書、日本語教員養成課程のカリキュラムもある。
人間生活学部は、人間生活学科、食物栄養学科、保育学科の3学科。人間生活学科では住居、環境、ジェンダー、開発学、福祉などを学ぶことができるほか、中学高校の家庭科教員免許の取得が可能だ。
「食物栄養学科と保育学科は、管理栄養士や保育士などの資格取得に向けたカリキュラムを中心に学科の教育課程が編成されています。地域や企業との連携や共同研究も活発に行っています」
いま、英語教育に力を入れる。「グローバル社会を迎え、英語教育には一層力を入れて、国際社会で活躍できる女性を育てていきたい」。同じ宗派の上智大学と連携、留学用の英語プログラムなどを実践、文学部で行う英語エキスパートプログラムを全学に広げる計画もある。
就職について。教員や管理栄養士などを取得して専門職に就く学生もいるが、一般企業への就職が大半。キャビンアテンダントやアナウンサーも多い。「卒業生の実績もあり、『藤の子は上品で、能力もある』と経営者からの評判はいいですね」
地元ではお嬢様学校とのイメージがあるが?「否定はしませんが、親子孫3代と藤に学ぶ学生もいらっしゃいます。卒業生の結びつきは強く、同窓会の支部は東京など全国にあり、学生の就職にも協力的です」
キャリア形成を支援
文部科学省の大学教育・学生支援推進事業の学生支援推進プログラム」に藤女子大の「自律的キャリア形成を支援する自習環境整備と課外プログラム展開(平成21〜23年度)」が採択された。
このプログラムの採択によって、自習用PC学習システムが構築された。「従来のWEB就職システムによる求人情報の検索や就職関連情報の配信と相乗、多面的な情報にアクセスさせることで、キャリア形成の動機づけを図りました」
さらに、2年生を対象に職業興味検査(VPI)を実施した。「刺激的効果が生じ、職業選択への動機づけが見受けられました。職業分類と自分の性向を結びつけて考え、自分と親和性のある職業を知る契機になったようです」
サークル団体は、スポーツ系より文化系が多い。「マンドリンのサークルは、ドイツで公演を行ました。英語のミュージカルクラブや『よさこいソーラン祭り』では、北大の学生と一緒に活動しています」
そうそう、中島みゆき。昭和53年発表のアルバム「愛していると云っててくれ」に収録された「ミルク32」。ふられたばかりの女が喫茶店のマスターを相手にグチをこぼす、そんな歌詞だ。その喫茶店「ミルク」は、藤女子大学のすぐ近くにあった。
「喫茶店ミルクはなくなりました。中島みゆきさんは、学園の行事などには顔を出しませんね」。中島みゆきは、そういうポリシーの持主なのかもしれない。でも、母校は藤女子大が似合う、そうに思えてならない。
それから、冒頭の答えだが、オチがある。藤女子大と北大の学生は昔から仲が良く、両大学の学生同士の結婚も多かった。北大の教授夫人にも、藤女子大OGが少なくなかった。北大教授も人の子、学生には威厳を保っていても奥さんには頭が上がらない。
今後とも女子大は堅持する。そのアイデンティティー。「女子だけという環境なので、サークル活動は男性に頼らず、リーダーシップも身につきます。それに、女性とは何か、女性ができる社会貢献とは、といった課題とも、じっくり向き合うことができます」
国際人としての素養を
大学のこれから。「深い教養、豊かな人間性の形成という藤の伝統を保持しながら、国際人としての素養を身につけさせたい。これらを支える命を、カトリックの世界観を携えて他者とともに活かしていきたい」
「国際人として」に、より力が込められた。190万都市の札幌は国際化に向けて着々と進む。藤女子大にとって、キノルド司教の言葉は、時代がどのように変わろうとも永遠に生き続けている。「北海道の未来は女子教育にある」