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教育学術オンライン

平成24年10月 第2500号(10月17日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈57〉
  ベンチャースピリット育成
  就職力と実践教育 多くの経営者らを輩出
  大阪商業大学

  「世に役立つ人物の養成」と「ベンチャースピリットの育成」に主眼を置き、きめ細やかな教育を行う。大阪商業大学(谷岡一郎学長、大阪府東大阪市)は、実学教育80余年、大学教育60年の伝統を誇る。この間、「世に役立つ人物の養成」という建学の理念を基に「実学教育」を実践。会社経営者ら多くの企業人を輩出してきた。入学直後のガイダンスから始まる万全の体制で、内定獲得を徹底支援する「就職力」と、教室を飛び出し、フィールドへ出て問題発見・解決能力を養う「実践教育」が特長である。大学スポーツも活発で、合気道、空手、硬式野球、バレーボールなどは全国トップレベル。「成功例から学ぶものは何もない。自分の失敗が出発点。挑戦し続ける熱い思いを忘れずに成長してほしい」と語る学長に、これまでの大学の歩みとこれからを聞いた。
(文中敬称略)

建学の精神 世に役立つ人物の養成

  「さあ、何でも聞いてください」。自信に満ちあふれた谷岡の堂々とした態度に気圧された。なんと、翌日取材する予定の大学の資料を取り出して質問を始める始末。あわてて体勢を立て直してインタビューに臨む。
 開口一番。「キャンパスのある東大阪市は中小企業のメッカ。戦後、新事業が多く生まれた大阪の中でも、一番発展した都市といわれています。本学出身のベンチャー経営者は全国の大学で4位に入ります。1学年1000人規模の大学では画期的なことです」
 そういえば、ノーベル医学生理学賞受賞の山中伸弥京大教授が育ったのも東大阪市。実家はミシン部品の工場だった。
 大阪商業大学は、1928年、谷岡の祖父にあたる初代学長の谷岡 登が「世に役立つ人物の養成」を建学の精神として開学した大阪城東商業学校が淵源だ。49年、学制改革を機に大阪城東大学(経済学部経済学科)を開学。
 52年、大阪商業大学と改称。経済学部経済学科を商経学部商経学科に変更し、商学専攻を増設。2000年、商経学部経済学科、同商学科、同経営学科、同貿易学科を経済学部経済学科、総合経営学部経営学科、同流通学科の2学部3学科に改組。05年、総合経営学部に公共経営学科を増設。
 現在、経済学部と総合経営学部の2学部4学科に4649人の学生が学ぶ。4学科の学びについて聞いた。
 経済学部経済学科。「経済学は消費者や企業、国が抱える様々な経済問題を解決します。買い物をする、映画を観る、ケータイを使うなど私たちの日常行動はすべて経済活動。経済学を学ぶことで、よりよい社会の実現をめざします」
 総合経営学部経営学科。「モノやサービスの提供、職場環境など、経営を支える様々な事柄について学び、企業経営に必要な簿記・会計や情報処理などの知識も習得。利益追求だけでない幸せな企業経営を考えます」
 同商学科。「商品やお金の流れ、商品開発の考え方から市場動向の分析方法まで、『商い』に関わるすべての事柄が商学科の学び。身近なことから商学の基礎について学び、商取引にかかわる管理会計、経営情報、法学なども身につけます」
 同公共経営学科。「官民協働の時代における公共サービスのあり方を探求。産業、観光、環境保全、福祉、スポーツ、レジャー、アミューズメントなどを幅広い視点から学修、公共サービスをマネージメントできる力を身につけます」
 谷岡は、93年、専務理事の時、建学の精神「世に役立つ人物の養成」を現代風に解釈した「四つの柱」を定めた。「思いやりと礼節」、「基礎的実学」、「柔軟な思考力」、「楽しい生き方」。いずれも「世に役立つ人物の養成」に必要なことだ。
 「本学の一番の特色を表しているのが、『楽しい生き方』。本当の意味で世に役立つ人は、自分が幸せでなければいけないという考えです。困難の中、失敗しても、チャレンジする気持ちを持ち続け、プラス思考で楽しく取り組める人が勝者。この『人生を楽しく生きる』精神を、学生に身に付けさせたい」
 教育について。「従う人間ではいけない。そうした思いから、本学では、『まず自分で考える』ところから始まるカリキュラム編成にしています」。OBPコースは企業や自治体が抱える課題を解決に導くプロジェクト型の演習に挑戦し行動することを教える。
 「当然、失敗は多くあります。しかし、過去の成功例に従って安全な道を行くより失敗することの方が結果的にはるかに学ぶことが多いのです」
 2001年、アミューズメント産業研究所を開設。余暇活動に対する国民の関心の高まりを受けて誕生、大学レベルとして日本初の余暇産業を研究する専門的研究機関。世界のギャンブルやゲームに関する資料など収蔵品も多い。
 「現代生活における遊びや趣味、楽しみといった余暇活動について、歴史、文化、経済、法律的な側面から包括的に分析し、将来のアミューズメント産業のあり方や方向性を追究しています」
 2008年、JGSS研究センターを開設。前身ともいえるJGSS研究プロジェクトは、10年に亘って研究実績、調査の知識・学術資料・データベース、他大学との共同研究・共同利用の実績を蓄積。同年、文部科学省の「人文学及び社会科学における共同研究拠点の整備の推進事業」の拠点に採択された。
 「初年度は5拠点が採択されましたが、国立大や大規模私大に交じって本学が入ったのは小さな大学の誇りでもある。今後、今まで以上に高いポテンシャルをもつ研究施設を共同利用・共同拠点として強化していきたい」
 就職力。就職試験に合格するためのテクニックだけを教えるのではなく、厳しい社会を生き抜くための人間力を引き出すことを重視する。昨年の進路決定率は96.2%。「これまでに培ってきたノウハウと長年かけて築きあげた企業との強いつながり、卒業生の協力が大きい」という。
 「入学式で父兄に対してこう言います。子どもが企業を決める際、決して反対しないでほしい。内定が大企業と中小企業のときも、本人の決断に委ねてほしい。米国の大学ではトップレベルはベンチャー企業で上場をめざす、その次が大企業や医者になる。安定志向は国力を弱める、と」
大学スポーツも強豪
 スポーツ力。先のロンドン五輪で、銅メダルを獲得したバレーボール女子の眞鍋正義監督、銀メダルに輝いた女子サッカー・なでしこジャパンの望月 聡コーチは、ともに同大の卒業生である。
 「合気道、空手などは小さな大学の選手として頑張っている。かつて全国一になった硬式野球やバレーボールなどでは、大規模ブランド大学がスポーツ推薦で実績のある高校生を根こそぎ持っていくようになって…」と悔しがった。
 地域貢献。同大が重視するフィールドワークゼミでは、地域の人と共に課題に取り組み、問題解決力を身につける。「経済学科のゼミでは、高齢者の就業支援を行い、シルバー人材センターの経営課題を見出し、改善策を提案しています」
 大学のこれからを聞いた。「大学を大きくするつもりはない。学生の潜在能力を引き出す大学であり、これからも学生と教職員の仲がいい大学であってほしい」。学生に話すように熱く続けた。
 「世の中には、楽しい事がたくさんある。その中から新しいことに挑戦し、学んでいくことが一番重要。マニュアルを捨て、自ら行動を起こし、自ら生み出すことで自己実現を達成してほしい」
失敗恐れず、挑戦せよ
 「大学生活の4年間、勉強でも遊びでも、迷っている自分に気づいたら、必ず『やる』方を選んでほしい。失敗を恐れず、何事にも挑戦する気持ち。その一人ひとりの挑戦へのスタートを、本学は全力で支援します」
 谷岡のめざす「これから」は、常に学生に寄り添っている。谷岡の心から「四つの柱」に象徴される建学の精神が離れることはなかった。


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