平成24年8月 第2492号(8月1日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて 〈52〉
長岡大学
徹底した面倒見の良い教育
チェックシートと指導カルテ 学習への動機付け狙う
少人数ゼミを中心にした「徹底した面倒見の良い教育」を展開する。「自己発展チェック・シート」を学生が記入、教員が面談して「マンツーマン指導カルテ」に書きこみ、学習への動機付けと就職意識の高揚に結び付けるなどの学生支援は特筆される。長岡大学(内藤敏樹学長、新潟県長岡市御山町)は、地域社会や企業と連携、そのニーズに応えることのできる能力と人間力を持った人材の育成をめざす。教育改革は、産学連携キャリア開発、資格対応型専門教育、地域活性化プログラム導入など多岐にわたって実施。改革の手は緩めない。平成24年度から「アグリ・コミュニティビジネス」と「コミュニケーションデザイン」の二コースを新設、成績優秀者に対する特待生制度、在学生の成績優秀者等への報奨金制度などの新たな学生支援制度をスタートさせた。大学改革の歩みとこれからを学長に聞いた。
(文中敬称略)
人間力持つ人材を育成 地域との協働に傾注
長岡大学は、1905年に設置された女子師範学校入学の予備教育を行う私塾として創設の斎藤女学館が淵源だ。1971年、法人名を中越学園と改称、長岡女子短期大学(経済学科)を開校。73年、長岡短期大学と改称して共学となる。
2001年、長岡大学(産業経営学部産業経営学科)を開学。07年、産業経営学部産業経営学科を経済経営学部(環境経済学科、人間経営学科)に改組した。現在、2学科11コースに5000人の学生が学ぶ小さな大学。
環境経済学科は、「環境と調和する経済」を念頭に置き、自然環境、生活環境など社会の公益的な部分をも含めた経済学的アプローチを学ぶ。人間経営学科は、「人に優しく、人を活かす経営」を念頭に置き、人間の視点に立った営利企業、非営利団体等の経営のあり方を追求する。
学長の内藤が大学を語る。「基本理念は、ビジネスを発展させる能力と人間力を鍛える大学。基本目標は、学生に毎日の学生生活で充実感を、能力アップを確かめて達成感を、卒業のときに4年間を振り返って満足感を実感してもらう、ことをめざしています。
教育面では、1年次に高校接続科目と必修科目を多くすることで無理なく大学生活に馴染めるカリキュラムを組むなど手厚く学生をサポートしています」
教育改革の経緯。「開学2年間の学生募集状況に強い危機意識を持ち、02年の理事会で小委員会を設置。翌03年、小委員会は理事長宛に「『教育力』と『地域密着度』の再構築が早急に必要である」との報告書を提出。
03年8月、教育力強化のための基本構想委員会を設置。同委員会は、カリキュラムの抜本的な改革が必要という結論を出す。04年の教授会、理事会で、「長岡大学改革の基本方針」を了承。新カリキュラムは、05年度から導入。
「基本方針」は、「ビジネスを発展させる能力と人間力を鍛える大学」であることを確認。地域社会、地域企業と連携、地域の産業界のニーズに直結した「ビジネス能力開発プログラム」を展開、4年後に就職率実質100%をめざす。
05年、理事会と大学共同で将来構想検討会を設置、07年、学部名称の変更(経済経営学部)と2学科制(環境経済学科、人間経営学科)への移行を行った。
新たに2コース設置
改革は止まない。今年度から設置した二つのコース。アグリ・コミュニティビジネスコース。「目指すのは、まさに農林水産省の新戦略である6次産業化(農林水産業から加工、流通までを統合した新しいビジネス・モデルの展開)を支える新しいタイプのビジネス人材の育成。農業が重要な戦略産業で、中山間地も多い新潟県にとっては、大いに期待されています」
コミュニケーションデザインコース。「さまざまなビジネスを展開する組織・団体とそれを必要とする社会をつなぐ、創造的なコミュニケーションの仕組みを創り出すことのできる人材育成がねらい。アニメ制作に強い地域でありながら、マーケティング・マインドが弱い新潟県内の産業に役立つはずです」
マンツーマンで指導
「面倒見の良い教育」。1クラス10人程度の少人数ゼミと同大独自の「自己発展チェック・シート」と「マンツーマン指導カルテ」を使ったマンツーマン指導。開学時にみられた中退者の多さを少なくするねらいもあった。
「自己発展チェック・シートには、学習、知識、技能資格、自己研究、自主的活動、生活習慣などの目標を書く欄があり、これを学生は埋めていきます。ゼミの担当教員は、このチェック・シートを見ながら、月1回は個人面談を実施、目標に向かって大学生活を送っているかを確認しながら相談に乗ります」
「面談の結果は、マンツーマン指導カルテに書きこみ、教務・学生支援グループに提出。学生の関する情報は学内で共有されます。学習意欲を失っている学生がいた時は、担当教員だけでなく、ほかの教職員と連携しながら対応していきます。このカルテは次の学年の教員にも引き継がれます」
マンツーマン指導カルテの提出を怠った教員は、教授会で厳しく指弾されるという。「うまく話すことのできない学生からも話を引き出すのが教員の役目。学生は、教職員との距離が短くなり、勉強だけでなく、バイトや友人関係のことでも相談するようです」
減少した学生の中退率
中退率はどうなりましたか?「開学当初は7%前後に達していましたが、その後1〜3%台で推移していました。現在は3%前後です。経済的な理由で休学中の学生のフォローが大事だと思います。中退者の中には休学から退学するケースが少なくありません」
マンツーマン指導カルテは、就職のさいも活かされる。昨年度の就職率は97.4%で、地元が85%、県外15%という比率だった。
「指導カルテは、就職支援室でも見ることが出来ます。就職支援室の職員が学生の就職に関する相談内容を見ながら、希望する職種、企業の紹介や面接が苦手な学生には面接指導を重点的に行うなど就職支援もマンツーマンです」
新たな支援制度開始
学生支援では、今年度から新たな支援制度をスタートさせた。「従来から行ってきた『米百俵奨学金』制度の拡大を図るとともに、大学入試センター試験利用特待生制度、入学前資格取得による資格特待生制度を新設しました」
日商簿記1級、簿記能力検定上級、実用英語検定準1級以上、TOEIC730点以上、漢字能力検定1級を高校卒業までに取得した者は1年次の学納金を全額免除する。
地域貢献は、建学の精神でも謳っている。「地域貢献は、地元の企業や自治体に入るということだけではありません。協働の精神が大事で、地方の大学は、地域と共に存在し、役目は地域を発展させていくことだと思います」
具体的には?「地域研究センターは、教員中心にシンポジウムや共同研究を行っています。『地域研究』という年報も発行。駅前の市役所内の『まちなかキャンパス』では市内の大学と共同で市民講座を開催したり、茶道部の学生が野立てを催したりして、地域との関わりを強めています」
魅力を出し、生き残り
大学のこれからを聞いた。「大学全入時代を迎え、地方の大学は魅力を出していかないと生き残れません。地方の、小さな大学ができることのひとつが地域活性化だと思います。都会のマンモス大学にできない地域活性化策をどんどん打ち出していきたい」
こう続けた。「地域活性化策を具現化することで、地域の企業や地域社会の方々に『長岡大学の卒業生は使えるね』とか『役に立つね』という評価を頂けるよう、大学挙げて地域との協働を進めていきたい」。内藤は、最後まで地域協働に強いこだわりをみせた。