平成24年7月 第2490号(7月18日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて 〈50〉
岡山理科大学
学生の満足度を高める
地域貢献に独自性 教育支援と就職支援に力
充実した環境の中で、学生は満足度の高い学生生活を送る。岡山理科大学(波田善夫学長、岡山市北区理大町)は、理学部から出発、工学部、総合情報学部を加え3学部になり、2012年、生物地球学部の設置で4学部体制となった。理学部では自然界の真理を探究、工学部では社会につながる「ものづくり」を、総合情報学部では情報科学技術とそれに立脚する人間社会を、生物地球学部ではフィールドワークを中心に自然と生物を学ぶ。学生の満足度を第一に考えた就職支援プログラムで安定した就職実績を誇る。毎年、多くの教員採用試験合格者も輩出している。それを支えるのが、さまざまな教育支援と、学生の希望の進路を考えた強固な就職支援。岡山理科大学の教育と研究、二つの支援策、地域貢献、そして大学のこれからを学長に聞いた。(文中敬称略)
生物地球学部を設立、4学部に
教員採用に高い実績
岡山理科大学は、創立者の加計 勉が1961年に設立した学校法人加計学園が開設した岡山電機工業高等学校が淵源である。1964年に理学部をもって設立された。現在、4学部17学科に5300人の学生が学ぶ。
「創立者の加計 勉先生は広島文理大学(現在の広島大学)数学科の卒業で、自らも母校の教壇に立っていました。そうした関係もあって、工学部ではなく理学部でスタート、開学当初から研究中心の大学を目指しました」
教授陣も日本の頭脳と言われる人材をそろえた。2010年にノーベル化学賞の鈴木 章北海道大学名誉教授は、1994年から岡山理科大学教授、95年から加計学園グループの倉敷芸術科学大学教授を務めた。
学長の波田が大学を語る。「建学の理念は、技術者及び社会人として貢献できる若者の育成です。それぞれの学部・学科は、岡山理科大学らしいカラーを持っています。研究が盛んで、その成果が教育の基盤になっています」
4学部体制は、受験生の選択の幅が広がり、新設の生物地球学部効果が他学部にも波及、受験生増加につながったという。各学部の特長を波田が説明する。
理学部。「伝統の学部で、研究中心の大学の象徴でもあります。人間・社会・地球環境を念頭に置いて、幅広い一般教養・社会常識を背景に自然科学の基礎知識を習得します。教員になる学生が多いのも特徴です」
工学部。「かつて工学的学科も理学部にありました。ステークホルダーの声を尊重して工学部を設置。講義・実験・実習等を通して、ものづくりの理論と技術を身につけるとともに、倫理観を備えた技術者を育成します」
総合情報学部。「情報をキーワードに教育研究を行います。21世紀の情報社会において先導的役割を果たす高度な専門知識と確かな実践力を有する人材を育てます」
生物地球学部。「フィールドワークを重要視、自分の足で歩き、自分でものごとを考え、進めます。自然のしくみ、自然環境の変遷、人間と環境の関わりの歴史に関する幅広い知識を習得。天文学コースも人気となっています」
教育支援について。「学びの場では、『学生の満足度向上』を合い言葉に、専門分野の知識・技能だけではなく、コミュニケーション能力、問題解決能力など社会で活躍できる資質の獲得も重視しています」
理工系大学では数学や理科の基礎教育は不可欠。「高校から大学へのスムーズな教育の接続を目的とする『学習相談室』を設置し、専任の指導員が常時、学生からの質問や相談に応じています。また、高校における教育を補充する『入門科目』があり、苦手な科目も克服することができます」
岡山理科大学は加計グループ大学(全5大学)の一員。各大学が連携して加計教育コンソーシアムを結成。「各大学の特色的な教科をe-Learning(遠隔教育)科目としてインターネットで配信。多くの学生が単位互換科目として履修し、単位取得を行っています」
研究中心の大学めざす
研究面について。「天然資源の乏しい日本にとって、科学技術の研究とその応用はきわめて重要です。その成果を生かすには、科学技術の知見を次世代に伝えていかなければなりません」。活発な研究活動が評価されている。
「グリーン元素科学」、「鉱物の物理化学特性から読み取る地球、惑星の環境変遷史」などが文部科学省選定事業に選定された。また、自然科学研究所、技術科学研究所、自然植物園などの附属施設は、研究と共に教育の場となっている。
就職支援は、キャリアセンターが一翼を担う。「新入生から4年次生まで、各年度に応じた様々なガイダンスやセミナーなどを配置。タイムリーな情報提供を行うと共に、各学科の就職担当教員と協力してキャリア支援を行っています」
3年次末に行われる合同企業説明会には、260社を超える企業が参加。「多くの学生の就職先決定に貢献。大阪と広島に就職連絡事務所を設置して企業との密接な連携を図り、進路開拓に効果を上げています」
中学、高校の理科や数学の教員になった卒業生は4000人を超える。4学部のすべての学科で教員養成の教育を行っている。「どの学部学科でも、高い専門性に裏づけられた優秀な教師を多数養成して社会に送り出しています」。
そのための資格取得支援も手厚い。各種の資格取得を目指す学生の支援を目的に、教職学芸員センターと教育開発支援課を設置。教員免許状の取得のみならず、教員採用試験合格へ向けてのきめ細かい支援を行っている。
科学ボランティア
地域貢献。ユニークなのが「科学ボランティアセンター」の存在。「児童・生徒向けの科学教室や工作教室などでのボランティア活動を通して、コミュニケーション力や問題解決力などを習得。教員志望の学生には大変、役立っています」
「理科大学発!科学ボランティアリーダー」は、文部科学省の平成20年度の教育GPに採択された。「将来、地域の科学振興にも貢献できる『科学ボランティアリーダー』を養成しています」
「大学コンソーシアム岡山」は、06年に設立。現在、岡山県内の高等教育機関21校が地域社会および産業界との緊密な連携推進で、「時代に合った魅力ある高等教育の創造」と「活力ある人づくり・街づくりへの貢献」を目指す。公開講座を開いたり、単位の互換制度がある。
人気の「学長カフェ」
波田は「学長カフェ」を1か月に一度開く。「学長室に14、5人の学生を呼んで、授業のことや大学生活のことを珈琲を飲みながら話し合います。顔を合わせないと言えないこともあるし、学生の要望で実現したケースもあります。3年になりますが、本学らしい試みだと思っています」
大学のキャッチコピーは昨年までは「Very Interesting」だった。今年度からは「サイエンスドリームガーデン」に変った。この意味するところは?
「岡山理科大にはおもしろいことがいっぱいあり、学生の夢を育て実現する場、というのをアピールしたい。理系の大学の学生は実験等があり学内滞在時間が長いので、大学生活の面で憩いの場にしていきたい」
独自性を輝かせたい
「教育・研究への投資は、引き続き増やしていきたい。教育内容の充実では、基礎的なことをきっちり教えるとともに、理学部からスタートしたという岡山理科大の持つユニークさ、独自性をもっと輝かせたい」
最後は、波田のこだわる学生の満足度向上に戻った。「学生個々人に潜在する能力を開花させ、知識を身に付けさて、入学者全員を無事卒業にまで導き、社会に巣立って行かせるのが最大の責務。卒業する時、やったぞという達成感、最大の満足度を持たせて社会に送り出したい」