平成24年4月 第2480号(4月25日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて 〈43〉
中部大学
100%卒業、100%就職めざす
魅力ある授業づくり ディプロマ戦略を展開
教員・学生が一体となって新しい『知と技』の創造に挑戦する。中部大学(山下興亜学長、愛知県春日井市)は、工学部を中心とした大学だったが、いまでは7学部29学科の文理融合の総合大学となった。広大なキャンパスに約1万人の学生が学ぶ。最先端の研究施設、社会から研究依頼が舞い込む研究室、各分野で評価の高い教授陣。不況下でも高い就職率を実現している。教育改革にも積極的で、2011年、「ディプロマ戦略室」を設置、「100%卒業、100%就職」をめざす。「授業は教員だけでは成り立たない。学生一人ひとりの参加が不可欠」と、「魅力ある授業づくり」にも取り組む。2007年から国連が進めるESD(持続可能な発展のための教育)事業の中部地区の拠点校。「やりたいことができる、なりたい人になれる大学」と語る学長に、大学のこれまでとこれからを聞いた。
(文中敬称略)
高い就職率 文理融合の総合大学
中部大学は、1938年に設立された名古屋第一工学校(現・中部大学第一高等学校)が淵源である。1962年、中部工業短期大学が開校。64年、前身である中部工業大学が開校した。
1984年、「中部大学」に校名を変更。経営情報学部、国際関係学部を新設。98年、人文学部を、2001年、応用生物学部をそれぞれ新設、文理五学部17学科の総合大学になる。
06年、生命健康科学部、08年、現代教育学部を開設。11年、経営情報学部に経営会計学科、生命健康学部にスポーツ保健医療学科を新設、現在の7学部29学科体制に。学生は一人1台自分専用のノートPCを携帯している。
一連の学部開設の流れを学長の山下が語る。「ものづくりの人材養成として開学、78年は社会づくり、98年は文化の創造、01、06年は生活と健康、08年は人を育てるという、それぞれの人材養成のために開設しました。ずっと世の中のニーズに応えてきました」
中部大学について。「チャレンジする勇気と実行力、これは建学の理念『不言実行、あてになる人間の育成』の精神でもあります。総合大学としての教育力、研究力をさらに充実させ、学生一人ひとりがもつ未開の才能を発見し、創造力と元気あふれた若者を育てていきたい」
教育改革は07年度から検討、まず着手したのが2011年からスタートした「全学共通教育」。「豊かな教養、自立心、公益心、国際的な視野を修得させるため初年次教育、キャリア教育など七つの教育区分を設け、学部教育と合わせ、社会に貢献できる『あてになる人間』の育成をめざしています」
改革が結実したのが「ディプロマ戦略室」だ。「本学では、ディプロマを卒業・修了の認定という意味だけではなく、卒業後の就職についても考えるという広い意味でとらえ、戦略室を設置しました」。このディプロマ戦略には三つの柱がある。
一つが、留年者・退学者ゼロへの取り組み。すべての入学者を4年間で卒業させる(100%卒業)のがねらい。「初年次教育」もそのひとつ。
「なぜ大学に通うのか?など、勉学にいそしむ動機付けを行います。学校が楽しくない、やる気が起こらないなどの理由で留年・退学することのないように、レポートの書き方など基本的なスキルや、パソコンやインターネットの知識を深めるITリテラシー、学生生活全般に関わるスキルを身に付けます」
二つ目が、社会人教育の強化と就職戦略の立案・実施。「すべての学生の進路が決まる(100%就職)ための取り組み。「キャリア教育」の強化もそうだ。
「なぜ働くのかから始まり、自己分析・自己開示などを行い、社会との関わりを学び、働くことへの動機付けを行います。一年生から卒業後の進路について考え、将来の自分をイメージ、目的意識を持って勉学に取り組みます。企業の方と接する際の基本的なマナーやコミュニケーション力を高める授業も行います」
三つ目が、卒業生情報のフィードバック。「卒業後の活動評価を行っています。校友会である「幸友会」との情報交換の場を定期的に設け、卒業生の活躍状況を尋ねたり、直接卒業生自身に会ったりして、大学での学びが企業でどのように生かされているか、大学で求められるものは何かなど積極的に情報収集しています」
英語教育にも独自のプログラムで力を入れ、実績をあげている。それは、5人の外国人専任教員でカリキュラムをつくる「PASEO(Preparation for Academic Study in English Overseas)プログラム」の実践だ。
「PASEOは米国の大学に留学しているかのような、本場の授業を全て英語で行います。基礎強化コース、TOEIC受験のための技法コースなど4コースあり、自分に合ったコースで学びます。培った英語力を留学で活かすこともできます」
ESD事業。「2002年の第2回地球サミットで、わが国が持続可能な発展を図るためには教育が必要であるとして、ESD計画を提案。07年、本学は国連から中部地区のESD拠点として認証されました。環境人材育成の国際専門家会議を開催するなどの活動を行っています」
「魅力ある授業づくり」について。「08年度からFD活動の重点目標として取り組んでいます。学生の声を聞き、よりよい授業にしていくのがねらいです」。主な取り組みを聞いた。
学生、職員が授業評価
「学生による授業評価」と「教員による授業自己評価」の実施。「授業評価は、各学期末に原則として学部対象の全ての授業科目で、Webを利用して共通設問で実施。授業評価の結果は、今後の授業改善のための資料として、また、教員を対象とした教育活動顕彰制度のポイントとしても活用します」
「授業サロン」は、異なる分野、文理の壁を越えた教員(5人程度)が、互いの授業見学を行う。「授業の考え方、学生の反応、問題点、工夫、改善案等について、様々なケースにおける授業改善のヒントを見出すのが目的です」
就職力。95.2%(2012年三月卒業生実績)という高い就職率を誇る。「キャリアセンターは価値観、事情に沿った指導を心がけて一人ひとりと向き合っています。教職員も親身になって、学生生活・就職のことを一緒に考え、教職員一体で最終的に全員の進路把握を実現しています」
学生たちの就職支援サークル「キャリアメッセンジャー」も一役買う。「卒業生や他大学の学生との交流、経営者、国会議員へのインタビュー、就職ガイダンスの企画、運営などを行っています。就職のための活動というより自分発見・自分探しの活動といえるかもしれません」
学生のボランティア活動も活発だ。「大学のボランティア・NPOセンターの活動の主役は学生一人ひとり、というスローガンのもと、社会福祉、国際理解、環境、まちづくりなどのプロジェクトに積極的に取り組んでいます」
チャレンジサイト活動は、学生が主体となり、意欲的に取り組む活動を大学が支援するもの。「昨年度も障害者スポーツのイベントを企画運営したり、大学周辺の絶滅危惧植物の保全活動をするプロジェクトなどが選ばれました」
これから内実深める
大学のこれからを聞いた。「短大開学から50年、4年制大学になって48年、半世紀を経て、専門領域の知識、技術、価値観を身につけた実行力のある人間の育成をしてきたと自負しています。これからは、内実を深めることです」
最後に、こう述べた。「総合大学の優位性を生かし、学生が誇れる大学、地域に頼られる大学をめざし、元気で自立心を備えた若者を育てていきたい。そのために、これからも一緒に汗を流したい」。学生と共に汗を流す、と言い切る学長をもつ大学の学生は恵まれている。