平成24年4月 第2478号(4月11日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて 〈41〉
十文字学園女子大学
2学部から1学部体制に
実社会と繋がる冠講座 資格取得を打ち出す
一人ひとりを大切にする教育と親身な指導で個性を伸ばす。十文字学園女子大学(横須賀薫学長、埼玉県新座市)は2012年、学園創立90周年を迎えた。学園歌にある「身をきたへ心きたへて 世の中に たちてかひある 人と生きなむ」が建学の柱。昨年度、従来の2学部から人間生活学部の1学部に移行する大きな改革を行った。資格取得の学部というコンセプトを打ち出すのがねらい。同時に、実社会とつながる総合科目に資生堂や野村證券などの冠講座を立ち上げた。「自ら学ぶ力」を引き出すのが目的。さまざまな資格取得を目指し、クラス担任制などのきめ細かいサポートで「就職に強い大学としての評価を高めたい」と改革を続ける。「女子大の特性を活かし、個々の能力を引き出す、よりよい環境を提供したい」という学長に一学部への移行のねらいや、大学のこれからを聞いた。
(文中敬称略)
就職に強い大学 親身の指導で個性伸ばす
十文字学園女子大学は、設立者である十文字ことが1922年に設立した文華高等女学校が前身だ。十文字ことは、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)を卒業、1929年には欧米の教育状況を視察するなど進取の精神に富む女性だった。
1937年、十文字高等女学校に校名を改称。戦後の1966年、十文字学園女子短期大学(家政科、幼児教育科)を開学。十文字学園女子大学は、社会情報学部(社会情報学科)の1学部で1996年に開学した。
学長の横須賀が大学を語る。「十文字学園は、女性の高等教育の充実を追及するために設立されました。その後90年にわたり、幅広い視点から、女性が自分の将来をしっかり見すえて歩むための教育を充実させてきました」
教育について。「ほとんどの科目が少人数クラスのため、教員と学生のコミュニケーションが活発です。クラス担任制を導入、学習面はもちろん、就職など学生生活全般のアドバイザーとしての役割を果たしています」
02年、人間生活学部を新設して2学部体制に。04年、人間生活学部に人間福祉学科と人間発達心理学科を増設。2011年に2学部を1学部(幼児教育、児童教育、人間発達心理、食物栄養、人間福祉、生活情報、メディアコミュニケーションの7学科で構成)に統合・改組した。
一連の改革を聞いた。「本学の短大は教育・生活系の実績のある学科がありました。4年制大学は、当時最先端といわれていた情報系の学部で新設。しかし、理系・技術系をベースとしない情報系は明確な目標が持ちづらくなり、短大で培った家政・教育系を核に人間生活学部を新たに設けました」
この改革を、さらに推し進めたものが1学部構想である。「2学部で培ってきた教育ノウハウを一つにし、さらに高い次元の教育体制を構築するのがねらい。学生のやる気を出させ、教職員の意識も統一させたい」。学部長をなくし副学長制にし、教職課程も一本化することで資格取得という目標を明確にした。
具体的に行ったのが、カリキュラムの改革であり、学科の垣根を越えた授業。「学科の垣根を越え、他学科の専門科目も『自由選択科目』として学べるようにカリキュラムを改革。『専門+α』で、学生一人ひとりがこれからの社会で力強く生きていくための力を養うようにしました」
実践的なカリキュラムは、小学校・中学校・高等学校教諭、幼稚園教諭、保育士、管理栄養士受験資格、養護教諭、社会福祉士受験資格、介護福祉士受験資格などの国家資格取得に対応。「授業を通して将来の自分の仕事の形が見えるようにしました」
十文字学と総合科目(冠講座)について。「十文字学は、しっかりとした社会人としての生き方や考え方を身につける共通科目として、十文字の伝統である『実学』の理念を身につけるために行っています」
冠講座は、「学生が『勉強することはおもしろい』と感じてもらいたい、とスタート。資生堂からは化粧品業界・資生堂のビジネス、環境対策、美と健康、CSRなどを、野村證券からは、外国為替のいろは、金融、財政の仕組み、資産運用などを学びました」
県内のマスコミの協力による冠講座もある。埼玉県の新聞、テレビ、ラジオといったマスコミの第一線で活躍する記者や幹部が講師陣をつとめる。「いずれも人気で、学生の自己学習意欲を高めることにつながっています」
一方で、初年次ゼミナールに力を傾注した。「入門ゼミは、各学科ごとに開設。四年間の勉学などの見通しを立て、それまでの学習を見直し、弱いところ、補うところを見つけ、学力保障教育へつなげています」
「読書入門」は必須
必修の初年次ゼミの「読書入門」は、教員が各自の専門の範囲から1冊の本を指定し、教員の所属学科以外の学生たちと一緒に読む。「本の読み方、読書の喜びを感じてもらい、学生のやる気や潜在能力を引き出していきたい」
リメディアル教育も充実。「リメディアル教育センターを設け、基礎学力向上をサポート。校長経験者を配置して国語、社会、数学、理科の講座を開設、自習コーナーも設け、質問・相談を常時受け付けています」
就職力について。「一年次から、性格診断や適職診断などを通じて『就職への意識づくり』を進めています。著名企業の人事担当者から話を聞く機会を設け、業界の最新動向や変化を、早期から把握できるように努めています」
個別指導にも力を入れる。学生生活のあり方や役立つ資格取得、就職活動に関するアドバイスなどを、継続的に面談し、相談を受ける。「短大時代から本学の卒業生の就職先での評判は良かった。こうした良き伝統も後押ししています」
インターンシップにも力を入れる。「毎年夏、授業や講座などで磨いた専門知識を実地に応用し、学生の職業観の形成に役立てるため実施。県内の自治体やマスコミ、メーカー、金融機関などの企業が受け入れ先で、将来が見える貴重な経験、と学生は受け止めています」
地域貢献にも力を傾注
地域貢献にも熱心だ。昨年度、地域連携協力推進センターとエクステンションセンターを統合、大学開放・地域連携推進センターを設置。「本学の知的資源を社会に還元し、地域社会との連携、協力を推し進めます」
学生たちは、地元の新座産サツマイモで開発したお菓子を販売、収益金を東日本大震災の被災児童に届けた。埼玉県の呼び掛けでスタートした県内の中山間地域を活性化させようという「ふるさと支援隊」には3団体が参加。「体当たりの体験を通して多くのことを学んでいます」
大学のこれからを語った。「未来に向けて、学生個々人の可能性を開くのが大学の役割。学園歌にある『身をきたへ 心きたへて 世の中に たちてかひある 人と生きなむ』の言葉を忘れてはいけない。現代に置き換えれば、女性として、人間として自立して世に資する存在になる、ということです」
潜在能力を引き出す
こう続けた。「本学の学生は、潜在能力は高い、でもそれをこれまで鍛えられる機会がないままここまで来てしまった、という面がある。大学全体で学生を鍛え、潜在能力は高いが、それが自己実現していない学生たちの能力を引き出し、社会に有用な人間として自立できる学生をこれからも送り出していきたい」
東京大学教育学部を卒業後、一貫して大学教育に関わり、宮城教育大学学長から07年に十文字学園女子大学に来た横須賀。学生を思う気持ちは不変だ。最後に話した言葉が象徴している。「ここで学んでよかった、と思える大学であり続けたい」