平成23年1月 第2427号(1月12日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて 〈7〉
大妻女子大学
創立100周年を機に改革
全学共通科目を導入 理念は「関係的自立」
大妻という校名から、どうしても良妻賢母のイメージが強くなる。歴史的には、創立者の大妻コタカが1908年に設置した裁縫、手芸の塾が母体となっていることから、そう見られてしまうのはやむを得ない面もある。しかし、大妻女子大学(大場幸夫学長、東京都千代田区三番町)は、そんなイメージとは裏腹に時代に即応した改革を行ってきた。90年代からは、92年の社会情報学部、99年の人間関係、比較文化両学部の設置など漸進的な改革を行い、創立100周年の2008年には「大妻学院のミッションと経営指針―創立100周年を迎え共に取り組むために―」を策定、「関係的自立」をキーワードに大胆な大学改革に乗り出した。「女子大冬の時代」といわれ、少子化・大学全入問題など厳しさを増す大学の現代(いま)に対応したもの。大改革に踏み切ったねらいと内容、そして、これからを学長に尋ねた。
(文中敬称略)
誇る就職力 キャリア教育を強化
大妻女子大学は1908年、大妻コタカが麹町の一角に開いた裁縫・手芸の塾が前身。1942年、大妻女子専門学校を設立、戦後の学制改革で49年、大妻女子大学(家政学部)を設立した。
1967年、文学部を設置。92年、社会情報学部、99年、人間関係学部、比較文化学部を設置。02年、家政学部にライフデザイン学科、文学部にコミュニケーション文化学科を増設した。
現在、千代田キャンパスに家政学部、文学部(1年次は埼玉・狭山台キャンパス)、多摩キャンパスに社会情報学部、人間関係学部、比較文化学部の5学部に6769人の学生が学ぶ。
学長の大場が大学を語る。「開学以来、恥を知れ(自分を省みる)、をバックボーンにやってきました。私塾的な面倒見のよさが特長です。学祖は地方出身の給費生を自宅に同居させるなど手厚く学生に接してきました。この伝統はいまも生きています」
08年に作成した「大妻学院のミッションと経営指針」。新しい全学統一教育理念として打ち出したのが「関係的自立」。大場が説明する。
「人を押しのけて、でなく、助け合いながら育つ自立。個人的自立でなく、関係を大事にする自立です。昨年7月、日本学術会議がまとめた大学教育の分野別質保証の回答で『21世紀は協働する知性が担う』といっていました。『協働する知性』は大妻の『関係的自立』と重なります。我々がまとめたミッションに自信を持ちました」
ミッションの具体的な中身は?「新しい事業を実施することを決めました。すでに、スタートさせたものもあります」
全学共通科目を導入した。「教養科目を重点にキャンパス間の共通化を実現しました。また、『大妻教養講座』という建学の精神に立ち返った講座を開設。キャリア教育では、学生の参加型の授業を導入、学びの協働を通して自立を促します」
キャリア教育・支援には力を入れる。「卒業要件を満たしながら就職先の内定を決めることが極めて難しい昨今の厳しい就職状況を考慮した取組みも進めています」。これについては後述する。
大学院研究科を再編一本化して「人間文化研究科」がスタート。「研究面でも教育面でも専門横断的な学びを可能にする講座を用意。教職の専修免許状の取得が可能なので、中堅的指導的な教員の輩出にも貢献します」
地域貢献、国際交流も
教職員・学生のスキルアップも。「教職員・学生の能力開発をめざしたSFSD懇話会を実施しました。これにより学内連携・学生支援・地域貢献・国際交流などへの教職員の協議の成果をまとめ、新たな方策を実行します」
地域貢献では、多摩キャンパスに学際的な3学部を持つ強みを生かす。03年、多摩市と、「開かれた地域社会を志向し、相互の連携を通じて、地域社会への貢献を図る」という協定を結んだ。
09年から多摩市立子育て総合センターの「子育てひろば」「リフレッシュ一時保育」「人材育成・研修ネットワーク」の三事業を受託、市・NPO法人と連携して運営している。昨年11月、子育て総合センターは開設1周年。「子育てひろば」の利用者は1万6000人を超えた。
キャリア支援の話に入る。「就職支援に力を入れている大学」と言われてきた。文部科学省のGPに「文理融合型女性情報技術者の養成と進路拡大のための支援事業」(21年度)と「質量両面の就業力向上のためのキャリア教育」(22年度)が続けて選定された。
大妻の誇る就職力とは?「就職のための就職ではなく、人間らしく生きるための就職と捉えています。資格だけでなく、あいさつ、言葉遣い、身だしなみなど社会人として必要なマナーの習得に力を入れています。先輩方の活躍によって企業との太いパイプも力になっています」
企業からの求人は減っていますが?「一生懸命就職活動をしても内定をとれない学生が増えています。3年生の6月から就職活動支援ガイダンスを実施、内定獲得には、あと何が足りないのかをアドバイスするとともに、ガイダンス参加者に個別に企業紹介を繰り返して、卒業までに就職できるよう支援します」
来年度から「キャリア教育センター」を発足させ、キャリア教育をより強化する。各学部や事務局が独自に行ってきたキャリア教育を統一化・体系化。「関係的自立」の具現化で、社会のニーズに応えた人材養成機能強化の司令塔をめざす。
「学生の自発的活動を促進します。初年次教育を充実化させ、正課内外のさまざまな体験的学びに主体的に取り組む意欲を喚起し、学習ポートフォリオ作成を支援。就職活動時には、在学中の学びを整理し、卒業後の人生を展望した上で、自らの就業観をしっかりと持てるように支援するのがねらいです」
具体的には?「学びのコンテンツとして、PBL(プロジェクト型学習)であるCDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)など、他者との関係性を体験する機会やインターンシップ、実務経験者の話を通じて、職業生活と私生活の現実とをつなげる機会を拡充したい」
大妻のこれからを大場に聞いた。「これまでの100年は財政的な裏付けもあって、創立100周年では思い切った改革を行うことができた。これらの成果が現れるのは10年後になるが、これからの100年を座していてはいけない」
異繋ぎがキーワード
それには、どういう大学をめざすのか?「『異繋ぎ(いつなぎ)』をキーワードに学部、学科、学年といった違いを乗り超えて連携しよう、と六年前から家政学部を皮切りにCDPを導入。2年生が1年生を指導するなど学生同士のつながりを強める試みが成果をあげてきました」
最後を、こうつないだ。「これからは、学生だけでなく教員、職員も一緒に『異繋ぎ』の精神でまとまって歩んでいきたい」