平成19年7月 第2282号(7月25日)
■競争的研究資金の協議会開催 急がれる学内支援体制の充実
科研費など申請の倍増訴える
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る七月二十三日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において平成十九年度「競争的研究資金制度に関する協議会(通算第三回)」を開催した。協議では、経営戦略上の競争的資金の位置づけ、科学研究費補助金(以下、科研費)制度、民間助成財団の概要についての講演のほか、科研費等の申請事務と学内支援体制についての事例発表が行われた。科研費については、平成十九年度から基盤研究(B)、(C)にも間接経費が導入されるなどの拡充が図られていることから、会場は熱気に満ちた。
開会に当たり、同協会の小出秀文事務局長が挨拶に立ち「私立大学の基盤的経費である経常費補助金は昭和四十五年にスタートし、同五十年の私立学校振興助成法が成立したものの同五十五年の経常費総額の二九・五%をピークに、その割合は減り続け、今日は一一%台という低さである。何よりもこの基盤的経費を確保することが重要な課題であるとの認識は持ちつつも、昨今の競争的資金の増額傾向を鑑みる時、これを教育・研究の糧にするとともに学内の活性化に役立てるなど大いに活用していきたいものである」との願いを強調した。
競争的資金配分強化の中の私学
協議に入り、はじめに、「私立大学の経営戦略を考える〜競争的資金充実時代の中で〜」と題し、文科省高等教育局私学部の芦立 訓私学助成課長が講演した。
同氏は、私立大学における経常的経費と私学助成の補助金額の推移を学生一人当たりの物件費や専任教員一人当たりの人件費等を詳細に調べた上で、少ない補助金の中で教育の質を落とさずに私立大学が工夫していると解説。さらに、政府の骨太の方針二〇〇六における私学助成予算の見直し(対前年度比▲一%)に触れた。一方、年々増額されている科研費予算額の推移を示し、国立大学への運営費交付金や私学助成が減額される中、科研費は対平成八年度比で倍増の一九一三億円に達していると述べ、競争的な資金配分の流れの強さを語った。
また、中央教育審議会等の答申を基に今後の高等教育政策の流れを示すとともに、その流れの中で「個性豊かで活力ある私学」をめざすべく、文科省としての助成の充実等を図っていきたいと力を込めた。
最後に、経営戦略上の課題(私案)として、定員割れ問題以上に経営内容の改善・充実、機能分化・多様化の流れに乗ること、法人の枠を超えた連携、地域との多様な連携等を挙げた。
次に、「民間助成財団の概要」について、(助)助成財団センターの田中 皓専務理事が解説した。
同氏は、まず初めに、助成財団についての概要を説明した上で、その助成内容(研究助成三〇・七%、事業助成二〇・二%、給与奨学金一五・六%、貸与奨学金二八・七%、表彰二・二%など)や助成事業費等を図・表で詳細に解説した。
さらに同氏は、科研費の申請にも共通する民間助成財団への申請に当たっての一般的留意点を示した。
@論文ではなく企画書
何をしたいのか、そのためにどのような費用が必要か具体的に記述する。
A財団の意図を考えて
申請する財団の応募要項をよく読んで助成の意図を正しく理解する。
B読む人のことを考えて
一つの技法論として「@タイトルに凝る、A第一ページ目の研究目的の記述の分かり易さ、Bページ間の整合性」などを挙げた。
休憩の後、「科学研究費補助金」について、(独)日本学術振興会研究事業部の岡本和久研究助成第一課長が講演した。
同氏は、まず科研費制度の概要として、「基礎から応用まで研究者の自由な発想に基づくあらゆる研究を支援する」といった科研費の特徴や予算額の推移、応募・採択の状況を概説し、そのほか研究種目、審査の仕組み(審査委員、選考方法)などを研究種目ごとに分かり易く解説した。また、平成二十年度公募より適用する「系・分野・分科・細目表」、科研費の配分状況、教員一人当たりの応募率(国立大一・〇五件、公立大〇・七〇件、私立大〇・三二件)も示し、私立大学の奮起を促した。
ガイドラインに基づく報告書を
講演の最後には、去る二月に文部科学大臣決定の「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」の解説があり、このガイドラインに基づいた管理・監査の体制整備等の実施状況報告書を、平成二十年度の競争的資金等に係る申請時点(十一月)から提出しなければならないことを強調した。報告書の様式については、八月頃に通知される予定であるが、提出した報告書の対応が不適切・不十分な場合には、競争的資金等の配分が停止されることもあるので注意をするよう付け加えた。
引き続いて、申請事務と学内支援体制の取組み等について、名城大学と神奈川大学の事例が発表された。
名城大学の事例は、学術研究支援センターの後藤皓二事務部長から発表された。
同氏は、同大学内の学術研究支援体制(学術研究支援センター、中部研究支援実務者連絡会、学術研究審議委員会、発明評価小委員会、学術研究高度化推進事業評価分科会)の全体像を紹介するとともに、これまでの外部競争的研究資金の獲得状況、学内独自の学術研究支援制度、学術研究支援の具体的取組み(研究経費申請執行マニュアル、科研費に係る事務処理、科研費〈持続的モチベーション、申請・チェック、申請のポイント〉)、今後の課題と考え方(学術研究の財政貢献、科研費の申請率UP、補助型プロジェクトの見直し、社会貢献「産学連携」の重点的展開、教員評価に係わる競争的研究資金取組み姿勢等の積極的加点など)について説明した。
次に、神奈川大学の事例は、学長室の古閑安明課長から発表された。
同氏は、申請事務について、総合的には学長室(事務室)が担当しているが、企業等との受託研究等及び特許等知的財産関係については「産官学連携推進室」が行っていること、学内支援体制について、総合学術研究推進委員会、神奈川大学二十一世紀COE拠点形成委員会、「不正行為防止体制検討」ワーキンググループ、支援システム(教員業績システム、科研費支援システム)などを説明した。
その他、競争的研究資金の採択状況を紹介した上で、今後の課題として、@研究活動に係る不正防止体制の構築、A科研費の申請件数UP、BグローバルCOEへの申請、C学内予算と研究推進などを挙げた。
協議会の終わりに当たり小出事務局長は「当協議会も三回目を迎え、ご参加の皆さんの熱気も年々増しているように感じます。しかしながら、競争的資金増加傾向の中で、国立大に比して約三分の一の申請率(一人当たり)です。さらなる申請率のUPをご期待申し上げたい」と結んだ。