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教育哲学研究

「創刊の辞」

 
教育哲学会は、結成後日もなお浅いのであるが、何か然るべき研究発表の 機関を持ちたいということは、 すでに発足の当初から、会員有志の強い念願 であった。しかし何分にもそれには経費を伴うことであるから、200名にも充た ない会員の力では、これが早急な実現は望まるべくもなかった。ところがこの度、 相模書房主溝淵誠之君の犠牲的行為により、意外にも早くその実現が可 能となり、本日ここにその創刊号を公にすることができたのは、まことに慶賀に たえないところである。
言うまでもなく教育哲学会は、教育諸般の問題に関して基礎的な研究をなす ことをもってその使命とする。ゆえに洋の東西、時の古今を問わず、いやしくも 教育上重要な問題や学説は、ことごとくとりてもって我々が研究の対象とする のである。したがってこれが究明に当っては、特殊の偏見に泥まず、時流に阿 らず、つとめて中正の立場から、客観的に真理を追究するという立場を堅持 したいのである。研究内容の公開性と共に、研究態度の客観性こそ、我が 教育哲学会の信条でなければならない。
もちろん我々は実践から遊離した観想的な真理の探究をもって能事終われり とするものではない。しかしあまりにも目前の現実に跼蹐して、山に登るものは 山を見ずの愚を演ずることは我々の極力避けたいところである。むしろ現実 から発足して現実を離れ、翻ってまた現実の正しい指導理念を闡明すること こそ我々の念願するところである。本日ここに呱呱の声をあげた本誌は、要す るにこのような我々の信条と念願との結実に外ならないのである。
今やわが教育学会は、終戦を境として未曾有の盛況を呈し、まさに百花繚乱 の感がある。しかしこのように絢爛たる中にもまた、幾多の混迷と動揺との看破 しがたいものがあるのであろう。我々は固よりこのささやかな本誌をもって、あえ て千紫万紅のわが学界にその妍を競おうとするものではない。ただ我々のたゆ まぬ苦索の成果を捧げて、わが教育学界の健全な発展のために、一抹の涓 流を添えうれば望外の仕合せとするところである。

昭和34年5月 教育哲学会代表理事 稲富 栄次郎
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