平成26年9月 第2580号(9月24日)
■高等教育の明日
われら大学人 〈49〉
米国から来日して45年 京都外国語大学教授
ジェフ・バーグランドさん(65)
テレビ出演するなど人気教授ではあるが、真面目な親日家の外国人教員という印象が強かった。ジェフ・バーグランドさんは、アメリカから日本に来て45年になる。京都外国語大学(松田 武学長、京都市右京区)で教壇に立つ傍ら、滑らかな関西弁を操るタレントとしてもテレビ等で活躍している。同大学では、異文化コミュニケーションを講義する一方、重要な役目も担っている。同大学は、今年度からカリキュラム改革をスタートさせたが、その柱のひとつ「次世代リーダー育成プログラム」の責任者となった。目下、このプログラムの推進とインターネットを利用した英語による京都案内に全力投球している。実生活では、京都の鴨川沿いにある町家に暮らし、見合い結婚した日本人の妻との間に3人の息子がいる。そんなジェフさんに日本とアメリカ文化の違い、京都や大学での生活、これからの抱負などを尋ねた。
日本の良さを海外に発信 流暢な関西弁
テレビでも人気 大学でも重要な役割
真面目な教員と書いたのは、名刺を交換してインタビューに入ろうかと身を乗り出したところ、いきなり専門の異文化コミュニケーションの「講義」になった。
アメリカ人、クリスチャン、京都外大教員、65歳、45年間も関西に居住、住まいは京都の町屋、京都国際観光大使…と100近いグループに属している。全てが一緒なら価値観も合いコミュニケーションがとりやすいのだが、現実はそうでもない。国と文化の違いも大きい。アメリカ人がフランス人とパキスタン人とコミュニケーションをとるとき、フランス人のほうが重なるところが多くコミュニケーションがとりやすいとも。
「会社においても、性別、肩書き、生まれたところ、受けた教育…価値観が違っている。そこに、異文化コミュニケーション(の必要性)があるんです」。話題は、非言語コミュニケーションや学生のゼミの卒論「犬と人間のコミュニケーション」にまで及んだ。
アメリカ南ダコタ州に生まれた。どんなところですか?「日本へ来て初めて傘をさしたほど、雨が少ない地域です。海までも2500キロもあり、魚もあまり食べたことがありません。今でこそ、黒人はよく見かけますが、当時は大学で初めて会うぐらいでした」
父親は、会社員から事業を起こした。弟と妹の三人兄弟。母親は読書好きで、週に10冊も読んでいた。母の影響からか、本が好きな子どもだった。パーティーでは年齢や性別など自分と違う人のところへ行って話すなど好奇心が強かった。
1966年にミネソタ州カールトン大学に入学、宗教学を専攻。留学中の日本人と出会い、日本文化、なかでも仏教に興味を持った。キリスト教の中では人間が自然界を支配するのに対し、仏教では人間が自然界の一部である、と自然と共存するのに惹かれた。
特に、悟りは、息を整え、吸って吐いて吸って吐くというバランスから、という禅宗の座禅に興味を持った。学問も吸って吐く、生きている間に情報を仕入れる(吸う)、これを自分のつくる言語で出す(吐く)、この陰と陽が大事なのだという。
1969年に初来日。「大学の神道と仏教のゼミで、26人の学生とともに日本の明治神宮や伊勢神宮など神社や高野山、比叡山など寺院を見学。日本に残りたい学生は同志社大学に4ヶ月間留学できることになり、6人が残りました」
当時、日本の大学は学園紛争で大学は封鎖、授業どころでなかった。同志社大学近くの京都日本語学校に通った。1日6時間から9時間の授業、宿題も毎日あった。おかげで3ヶ月で漢字も習得、日本の新聞も読めるようになった。
いったん帰国。70年6月、カールトン大学を卒業、9月に再来日して同志社高校に奉職。「早稲田大学の先生から早大の聴講生にならないかと勧められ来日したのですが、以前からお世話になっている同志社の先生から1ヶ月だけ同志社高校の先生をやってくれないかと言われ…。22年間にもなりました」
92年、大手前女子大学教授に就任。98年、「新学部をつくるので手伝ってほしい」と頼まれ、帝塚山学院大学人間文化学部教授に就任。2008年、京都外国語大学外国語学部教授に就任した。
「当時、出演していたNHKの『きらっと生きる』という番組を見ていた当時の京都外大の学長から『ぜひ、外大に来てほしい』と誘われて…」。現在、現代社会、異文化コミュニケーション学、異文化コミュニケーションの実践を講義する。
先生の学生時代と比べ、いまの日本の学生はどうですか?「私の学生時代はベトナム反戦など反体制運動が盛んで集団で異議申し立てしていた」と時代の違いに触れた後に続けた。
「外大で語学を学ぶという目的意識があるからか、外大の学生は勉強にも意欲的だと思う。他の大学と違って、サークル活動などもみても『何か、しよう』という活気を感じます」
京都外国語大学で担う重要な役目とは、こうだ。今年4月から、カリキュラムを抜本的に改定した。キーワードは「話せる語学力から、使える語学力へ」。建学の精神『PAX MUNDI PER LINGUAS/言語を通して世界の平和を』の実践にある。
改革のひとつに、「次世代リーダー育成プログラム (FLP/Future Leaders Program)」がある。従来のような命令型のリーダーではなく、他者との交流・対話を重ねて、国際社会や組織、コミュニティーに貢献する『サーバント(奉仕型)リーダー』の育成を目指す。
ジェフさんは、FLP推進室長を務める。「国際社会で必要とされる卓越した英語のコミュニケーション力と交渉力、多言語・多文化社会に適応できるグローバルマインドを培っていきます」
TOEIC(R)のスコア(650点以上)などによる選抜制(定員各学年60人)で、授業は全て英語。「1期生の36人はオープンマインドで積極的。『私もリーダーになれる』という自信を持ち始めており、全員がイキイキとした表情で学んでいます」
薫夫人とは、来日3年目に見合い結婚した。「同志社の米国人の先生に、仲人を頼みました。「クリスチャンであること、英語が話せるなど五つの条件を付けました。一番重視した5つ目が『おもろい人』、そうね、個性の強い人と置き換えてもいいです。妻は、いまでも、そのままです」
住まいの町屋は、150年前に建てられた。3人の息子の名前がいい。「長男は、健、高倉健が大好きで妻との初デートは、健さんの『網走番外地』。次男は、芥川龍之介の『河童』が好きなので龍之介。三男は、女の子の名前しか考えておらず、生まれた時に読んでいた『こころ』から漱石」
アメリカに帰りたいと思うことありますか?「いまのところ、帰るつもりはありません。でも、アメリカも大好きです」
日本の良さを語る。「日本の街に危険はほとんどないし、駅ではすぐ電車が来る。それに、日本人は、相手が何を求めているか、どう思っているかをわずかなヒントから察する『受信力』が強いのに感心しています」
現在、テレビの「おもてなし京都案内」(KBS京都)で、外国人の視点で京都において楽しめることを見つけて紹介している。冒頭のインターネットを利用した京都観光案内は、この番組のネット版だ。
「45年間暮らしてきた日本への恩返しをと思い、英語で京都を案内しています。この放送は、インターネット(YouTube)でも同内容が公式に配信されています。世界中で見ることが出来るので、ぜひ見てください」
この番組は、30回を超えた。2020年の東京五輪までに、この番組を200回までにするのが夢だという「45年間も過して感じた京都、日本の良さを英語を通して世界に伝えていきたい」。彼もまた、建学の精神『PAX MUNDI PER LINGUAS』を実践している。
じぇふ・ばーぐらんど 米サウスダコタ州出身。1969年、初来日。70年、米カールトン大学を卒業、再来日して同志社高等学校に。専門は異文化コミュニケーション。92年、大手前女子大学教授、98年、帝塚山学院大学人間文化学部教授に就任。2008年、京都外国語大学外国語学部教授に就任、現在に至る。テレビ出演や執筆活動でも活躍。趣味は尺八、囲碁、少林寺拳法、テニス、読書。京都観光大使や大阪21世紀協会企画委員などを務める。著書は、『日本から文化力―異文化コミュニケーションのすすめ』、『受ける日本人 繋がる日本人―いま、世界に伝えたい受信力』など多数。