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平成26年2月 第2553号(2月19日)

 大学職員のための
   インストラクショナル・デザイン入門 (上)

早稲田大学人間科学学術院教授  向後千春

 インストラクショナル・デザインとは、「教えること」をどのようにして効果的にするかを追求する。科目間のつながりや連携の模索は教員のみならず職員の仕事でもある。こうした意識から、早稲田総研インターナショナルでは、大学職員向けのインストラクショナル・デザイン入門セミナーを行っている。この意義について、講師を務めた向後千春早稲田大学人間科学学術院教授に寄稿してもらった。

インストラクショナル・デザインとはなにか
 昨年10月11日に「大学職員のためのインストラクショナルデザイン入門」というセミナーを実施した。早稲田総研インターナショナルから、このセミナーの趣旨を聞いて、すぐに私はこの企画に賛同した。というのも、インストラクショナル・デザインの知見を最も必要としている職種のひとつが大学職員だと日頃思っていたからだ。
 このセミナーは、2時間半という長さだったので、その中にインストラクショナル・デザイン(IDと呼ぶ)のエッセンスを詰め込むのは、挑戦的な課題だった。この時間では、長々とレクチャーをすればそれだけで終わってしまう。しかし、それでは効果は薄いだろう。IDとは、教えることをどのようにして効果的にするかということを追求する。IDを扱ったこのセミナーそのものが、効果的なものでなければ何の説得力もない。
 そこで、このセミナーでは「マイクロフォーマット」というアイデアを試してみた。だいたい15分を基本ユニットとして、セミナーを組み立てていく方法をマイクロフォーマットと呼ぶ。15分は、@10分間のレクチャー、A3分間の4人グループでの対話、B2分間の全体シェア、の三つから構成されている。
 このようにすれば、参加者は長い話を聞いて飽きることはない。講師による話は最長一〇分間で区切られる。参加者は、話を聞くだけでなく、そのあとに自分の言葉で話すことで考えがまとまり、定着する。また、シェアすることで、全体としてどのような考えがあるのかを知ることができる。そしてなにより、あとで自分で話すというタスクがあることで、講師のレクチャーを真剣に聞くことになる。
このようにして、2時間半のセミナーを退屈なものから参加型の活動に変えることができる。これが、インストラクショナル・デザイン、つまり教えることのデザインということの一例である。
大学教員は自分の授業を変えられるか
 大学を取り巻く環境は急速に変わっている。研究においては、世界基準で業績ランキングを競うことが求められている。教育においては、学生が卒業するときに何ができるようになっているかを明示した教育の質保証ということが求められている。つまり、日本の高等教育は仕切り直しを求められているのである。
とはいえ、日本の大学教員の多くは自分を教育者としてよりは、研究者としてみなしてきた。研究して論文を書くということはやってきている。しかし、大学の授業をどのように設計して、それを運営していけばいいのかという専門的なトレーニングは受けていない教員がほとんどである。それを補完しようというのがFD活動であるが、それも十分な効果を上げているとはいえない。
 それぞれの領域で専門的な業績を上げている大学教員であっても、その内容を学生にうまく伝えるのは必ずしも簡単な仕事ではない。専門知識があるだけでは、大学の授業をうまくやっていくことはできない。そこでは、授業設計と運営のスキルが必要なのである。私自身は、すべての大学教員にIDのトレーニングを受けさせるのがいいと考えている。すでに自覚的な教員は自分でIDを学んでいる。
 しかし、そうした時間を捻出できない教員も多い。とすれば、大学教員に対して、IDの技能を持った人が手助けをするのがいいだろう。そうした人材としては、大学職員が最適である。領域専門家としての大学教員とID専門家としての大学職員が協力して、実質的に効果の高い授業を作るということである。
 将来的には、次のような形になっていくだろう。まず、領域専門家としての大学教員が知識を提供し、それにインストラクショナルデザイナーとしての大学職員が加わって授業デザインをする。そして教員が授業を実施する。授業を実施する教員は必ずしも知識提供の教員に限らない。授業デザインが固まれば、その領域の教員はそれにしたがって授業を実施することができるだろう。このように授業の分業体制ができていくだろう。
インストラクショナル・デザインの考え方
 IDは、教育学ではない。教育学では、教育のいまある姿をとらえ、あるべき姿を考えることを目標とする。それに対して、IDは、どのような教育活動をすれば効果的・効率的なものになるかを実証的に検討する研究領域である。
 IDはコースの全体をデザインし、運営する。コースは、そのニーズ分析からゴール分析を経てデザインされる。コースのデザインは、リソース、活動、フィードバックの三つのデザインからなる。「リソース」とはレクチャー、テキスト、教材などの学習者が利用できるものである。「活動」とは、学習者がコースの中で与えられるタスクに対して行うものである。「フィードバック」とは、学習者の活動に対して返される情報である。
 IDの見方では、教壇に立ってレクチャーを行う教員は、あくまでもリソースのひとつである。そう考えれば、そのリソースをビデオやそれをインターネットで配信したものに置き換えるということも自然な行為になる。もちろん学生の目の前でレクチャーをする場合と、それを収録したビデオをインターネットで見るというのでは、効果が違ってくるだろう。それをデータに基づいて検討して、より効果的な方法を開発していくこと自体がIDの研究実践となるのである。
 さらには、授業の中に、ティーチングアシスタントやメンター、ファシリテーターと呼ばれるスタッフを入れることで、学生の学習活動を促進することができる。そのような活動の中では、教員は教壇に立ってレクチャーすることではなく、授業全体のモニター役として機能することになる。
 つまり、IDの考え方では、授業全体を、リソース、活動、フィードバックからなるひとつのシステムとして見ている。そのシステム全体を設計し、運営することが授業を作り出すということにほかならない。レクチャーをする教員はあくまでもリソースのひとつにすぎない。授業の成否を決めるのは、授業がどのように設計されているかということである。
 では、授業を設計するのは誰の仕事なのだろうか。もちろん授業を担当する教員の仕事である。しかし、最初に述べたように、多くの教員は授業を設計するためのトレーニングを受けていない。そこで、IDに基づいて授業を設計するための人材が必要になってくる。それをするのに最も適した人材が大学職員であるというのが私の考えである。(つづく)



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