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平成25年11月 第2545号(11月27日)

大学は往く
 新しい学園像を求めて〈87〉
 偏差値より「卒業成長値」
 能力や可能性を引き出す 付加価値つけて社会へ
 東京家政学院大学

 建学の理念は、「KVA精神」である。Kは、Knowledge(知識の啓発)、Vは、Virtue(徳性の涵養)、Aは、Art(技術の錬磨)。東京家政学院大学(天野正子学長、東京都千代田区三番町・東京都町田市)は、「KVA精神」をふまえ、人間らしい生活とは何かという「生活者」 の視点から、さまざまな生活課題を解決し、新しい生活を提案できるプロフェッショナルを育ててきた。少人数教育と就職力、地域貢献を誇りとする。少子高齢化やグローバル化が進むなか、五年前、入学時の偏差値より「卒業成長値」という新しい教育理念を掲げた。学生一人ひとりと向きあい、そこに潜む能力や可能性を引きだし、付加価値をつけて社会へ送り出すポートフォリオ(総合的な学習の評価方法)に傾注している。「大切なのは、入学時の学力偏差値より、学士課程の四年間、基礎と専門を学びながら卒業成長値を高めるための教育」という学長に学院の歩みと改革。「これから」を聞いた。(文中敬称略)

KVA精神 知識、徳性、技術を育む

 日本私立大学協会(千代田区九段)から最も近い加盟大学。通学する併設中高の生徒の「KVA」の校章を見かける。「愛と純潔の象徴であるバラの花に、建学の精神であるKnowledge・Virtue・Artを組み合わせたもので、自立した社会人・家庭人を育成するという教育目標を示しています」
 東京家政学院大学は、1923年、家政学の権威である大江スミが東京・市ヶ谷に設置した家政研究所が淵源である。学長の天野が創立者について語る。
 「英国留学から帰国した大江スミ先生は、日本における家政学教育の必要性を痛感しました。その家政学は単なる実用的な家事技能ではなく、家庭の生活の質を高め、ひいては社会の生活を豊かにする学としての総合性をもっていました」
 2年後の25年、東京家政学院(家政高等師範部・家政専修部・家事実習部)を開学。「大江先生は『広く知を求め、知を実践する技を磨き、知と技を方向付ける徳を備えた女性の育成』を教育理念に掲げ、とくに知と技を何のために使うのかを方向付ける精神と徳性の形成をもたらす独自の教育を展開しました」
 戦後の1950年、東京家政学院短期大学を設置。63年、東京家政学院大学(家政学部家政学科)を開学。84年、町田キャンパスを開学、家政学部住居学科及び短期大学英語科を設置。88年、人文学部(日本文化学科・工芸文化学科)を開学した。
 改革の嚆矢は、2008年にスタートした「KVAルネサンス」からだった。「多様化する社会のニーズに的確に対応し、現代社会をリードする人材の育成を目指して、実験・実習、フィールド中心の学生主体型学習を重んじながら、専門性と人間形成的な教養教育を基盤とする教育研究活動を展開するのがねらいでした」
 これに沿って、2010年、現代生活学部を設置し、現代家政学科・健康栄養学科・児童学科・生活デザイン学科・人間福祉学科の5学科に再編。翌11年には、「千代田三番町キャンパス」と「町田キャンパス」の2キャンパス制となった。
 現代生活学部への学部学科再編について。「学部学科が細分化され、家政学の総合性が失われました。そこで、家政学を軸に総合科学としての生活に焦点を絞り、教育資源の有効活用という意味から大学の個性を機能的に明確にしました」
 2キャンパス制。「町田は、『地域の大学化、大学の地域化』をスローガンに地域密着、地産地消の郊外型キャンパス、三番町は、都市型キャンパスとして『新しい生活スタイルの提案・発信型』をキーワードに展開しています」。2キャンパス制になってから千葉や埼玉県からの受験生が急増したという。
 改革の松明は引き継がれた。2009年に学長に就任した天野は、「大切なのは入学時の偏差値より卒業成長値を高める教育」、「学生の隠れた可能性や能力を引き出し、付加価値を付けて卒業させようではありませんか」と教職員に提案した。
 FD委員会のもとで、卒業成長値を可視化する取り組みが始まる。「KVAスピリットを踏まえ、問題の発見・解決力、情報収集・活用力、創作力など9項目の評価指標を考え、学生が半期ごとに目標を立て、達成度を5段階で自己評価する。グラフ化することで、どの能力が伸び、どの能力が足りないかがわかります。
 振り返ることで次の目標につなげます。4年間計8回、卒業時に数値を加算すれば自己成長値になります。ツールとしてポートフォリオを導入しています。学生自身による学びの記録であり、社会人基礎力、就業力の強化にもつながります」
 ポートフォリオは、全学年で展開しており、99%の学生が入力している。自分に足りないものが目に見える形でわかるので、励みになるし、成長への楽しさを味わえる。教員の助言を加えたり、ボランティアや留学、地域貢献などの項目を入れるなど他大学と一線を画す展開をしている。
 5学科の学び。現代家政学科は、「生活文化の担い手としての深い教養を持ち、人々と協働して解決することのできる実践力、社会力を有する人材の育成する」
 健康栄養学科は、「『食』を通しての教育・研究によって、社会における人的有効資源となり得る有能な管理栄養士を養成する」
 生活デザイン学科は、「人と自然に優しい生活(暮らし)をデザインし実現する能力を持ち、それをもとに社会に貢献できる特性を備えた人材を育成する」
 児童学科は、「未来を担う子どもたちの幸せと健全で豊かな発達が実現できるような人間関係、人間生活について探究することを目的とする」
 人間福祉学科は、「高度な支援スキルを習得し、生活をする上での困難の解決・軽減を支援するソーシャルワーカーとしての人材を育成する」
93・5%と高い就職率
 誇る就職力。昨年度の学部の就職率は93.5%で、健康栄養、児童、人間福祉の各学科が100%に近い。資格取得型大学を越えて、他者の立場への想像力を備えた「豊かな人間性」、教養教育にも力を入れている。
 「資格取得をめざすのなら専門学校で充分です。本学の目標は教養教育にも力を入れ、『人間性豊かな』専門職の養成です。WEBを利用した双方向の就職相談やOGと交流できる『コミュニティ広場』をつくって就職支援を行っています」
地域貢献活動にも傾注
 地域貢献活動にも力を入れる。「地域貢献も大規模な大学の真似をするのではなく、小規模な女子大のメリットを生かした取組みが大事です」。生活デザイン学科では、1例として、2011年度から津久井地域商工会連絡協議会との連携で、同地域の伝統的家庭料理である「にごみ」(煮込みうどん)の再現および普及のためのプロジェクトを行っている。
 地域連携活動の情報発信の機会として「地域交流会」を企画。西武信用金庫と共催して年に1度開催する。司会から報告まで、学生が中心に行う。企業や行政、地域団体からの参加者と教職員、学生との間で活発な意見が交される。
 大学の「これから」。「大学生活の多くの面で、学生に“第1の存在”として主体的に関わっていく機会と場を提供したい。豊かな役割モデルを示すために女性教職員(女性教員比率は51%、役職者は36%)が活躍する大学でありたい。女性の多様なライフコースに対応した社会人教育や地域連携を強化したい」
 グローバル化については、きっぱりと言い切る。「小さな大学ではグローバル人材の養成には限界もあります。グローバルな問題はローカルな場で起きています。食や環境、消費、福祉などがそうです。本学では実践科学としての生活学を武器にして、生活現場から取り組む『グローカル』な人材を育てていきたい」
女子大の利点生かす
 「これからも女子大であり続けます」と、こう続けた。「女子大のメリットを最大限に生かしたい。生活を探求する新しい家政学はその代表的な学問といってもいいでしょう。創立以来、本学は命と暮しを重視する人間の生き方を探ってきました。
 教育のミッションは、生活者の視点から、生活課題を解決し、新しい生活を提案できるプロフェッショナルを育てること。学生主体型教育のもと、学生一人ひとりと丁寧に向き合い、内に潜む能力や意欲を最大限に引き出し、付加価値を付けて社会へ送り出したい」。最後は、「偏差値より卒業成長値」に戻るのだった。


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