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平成25年11月 第2544号(11月20日)

 地方私大からの政策要望

  地域再生のための教育を

(学)志學館学園理事長・学園長  志賀壽子

平成25年度、文部科学省は地域再生・活性化の核となる大学の形成に関する支援として、地(知)の拠点整備事業を推進し、52件の事業が採択された。本件に採択された大学のみならず、全ての大学がCOC機能を強化していくべきことは大学改革実行プランにも明記されている。少子高齢化、また過疎化・過密化による地域間格差を解消し、日本全体が活性化していくためには、地方の私立大学も、その存在意義を改めて見つめなおしていかなくてはならない。
 志學館大学は、昭和54年に鹿児島女子大学として開学、その後平成11年に法学部設置とともに男女共学にして、現在の大学名に改称した。開設当初の文学部を人間関係学部に改称、心理臨床学科、人間文化学科と改組した。さらに、平成23年、鹿児島県霧島市(旧隼人町)から県庁所在地である鹿児島市に移転を行った。
 昨今では地域貢献のあり方を見直し、地域協働センターを設置し、これまで教職員が個人的に行っていたことや、一部学生によるサークル活動に過ぎなかった地域貢献活動を整理し、大学として発信していく体制を整えつつある。いずれも、建学の精神を堅持するとともに、その時その時の潮流を踏まえ、地域のニーズに応えようとしてきた結果である。これらの事業を通じて、また今後必要となってくる地域貢献のあり方について、提言してみたい。
 まず第一に、各地域と、そこにある大学の事情や特性に配慮した支援を検討していくということである。ここ10年の間に、国の私学振興にあっては、世界に通じる最先端の教育・研究のみならず、地域に密着した特色ある教育・研究にも支援を行うという両面で展開されているが、今後はこれまで以上に地域に目を向けていただきたいのである。
 現在、鹿児島県の4年制大学は、国公私立を合わせても6校のみである。九州全体を見渡しても、福岡県のみがサテライトキャンパスを含めて40校近くあるのに対し、他の県はひと桁である。ひとくちに「地(知)の拠点」といっても、人口、面積、学校数、それに伴うインフラ整備の状況によって、大学の存在価値は大きく変わってくる。今回の地(知)の拠点整備事業の採択状況を拝見させていただいたが、複数の自治体にまたがった広域的な連携を推進しているところが多い。
 県という単位での事業推進となると、どうしても大規模な総合大学中心になってしまい、国公立が約3分の2を占めたのは、その結果であろう。しかし、地方都市にあっては、小規模校が小規模な展開をしている場合であっても、特定の分野で地域活性化の一翼を担っていたり、地域のオピニオンリーダーとして機能していたりすることがある。今後はそういった点に焦点を当て、地域再生の核となる事業を吸い上げ、全国に伝播していく必要があるのではないだろうか。
 第二に、自治体との連携について、教育・研究の観点を超えた支援のあり方を検討していくということである。現在、前述の地(知)の拠点整備事業の申請状況にもあるとおり、多くの大学が産・官・学連携を推進する中で、自治体との連携に取り組んでいる。本学においても、地元の教育委員会とも連携し、地域の風土や文化を研究し、また発信する事業を行っている。しかし、いかによい教育を施そうとも、また地域との連携を推進しようとも、学生が学べる環境が整備されていなくては、宝の持ち腐れとなってしまう。
 本学が移転することとなった地域は、周辺人口は12万人程度であったが、キャンパスから市街地へのアクセスが悪く、下宿先や娯楽施設へも通学バスを必要としたため、放課後も含めた学生生活には不便な地域であったことは否めなかった。大学・自治体ともに地域の活性化と、地元に密着した教育を目指していたものの、現実的な経営状況を総合的に判断すると、移転という判断をせざるを得なくなった。
 大学をまちづくりの中にあって「拠点」とすることは、教育・研究の連携とはまた別次元の問題である。これらについては、自治体が土地などを確保し大学誘致活動を行ったり、また大学から自治体にインフラ整備を陳情するなど、多くの場合、自治体と大学が個々の判断で行っている場合が多い。成功している事例も数多くきくところである。確かに、これらは各自治体の判断、あるいは大学の経営判断に依るところが大きいが、本当に大学を拠点として必要とする自治体ほど、予算や人材などの問題から、支援を得られないというのが現状である。大学、あるいは文部科学省という視点だけだと、どうしても教育・研究に対する支援事業ということになってしまいがちである。今後はさらに総合的なまちづくりに対する支援策についても検討していくべきである。
 これに関連して、さらに話は飛躍するが、最後の提言として、各省庁の枠を越えて教育という視点からの少子化対策を講じてもらいたいということである。
 この少子高齢化社会にあって、国家が持続的に発展し、活力ある社会にしていくためには、やはり人口を維持し、その中で主体的に考え行動できる人材の育成が必要不可欠である。現状の少子化対策といえば、母親が働きやすい環境の整備ということで、どちらかというと20代から40代の女性労働者の確保に重点がおかれているように感じる。しかし少子化対策とは、実際に結婚したいと考え、また子どもを生み育てたいと考え、将来社会を担えるような人材を育てていくところにその本質がある。
 単なる環境整備にとどまらず、時代に即応した倫理観・価値観の創造が必要である。それを担うのは、教育機関、とりわけ高等教育機関である大学・短期大学にほかならないのではないだろうか。
 私は女性の理事長として、学生に対しては、単に進学し就職することばかりを考えるのではく、結婚や子育ても含め、家族、学校、会社、そして地域社会というコミュニティの中で、有為に生きていくことについて考えるよう伝えてきた。広域的な視点を持ち、人を愛し地域を愛する人材を育成していくことこそが、地域再生、そして日本全体の活性化につながると考えるところである。

しが・ひさこ
昭和40年聖心女子大卒。同54年カ搦タ践学園職員。同61年鹿児島女子短大附属かもめ幼稚園園長。平成11年カ搦u學館学園理事、同理事長に就任(現在に至る)。同19年同学園学園長。


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