平成25年11月 第2542号(11月6日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <55>
「大学改革ビジョン2011」で前進
四国大学
四国大学は、1925年に佐藤カツ女史が創設した徳島洋服学校に始まる。1966年には四国女子大学を開設し、1992年に四国大学に改称、共学化した。現在は、文学部、経営情報学部、生活科学部、看護学部と短期大学部を設置する総合大学となっている。2011年から始まった大学改革について、川本幸彦副学長、赤松茂樹教育・学生支援部教育支援課長、山本光憲総務・企画部総合企画課主幹に聞いた。
受験者が劇的に減少したのは、2007年。当時の重点施策は大学院を充実させるものだったが、地域や学生のニーズには合っていなかったと佐藤一郎理事長は振り返っている。2009年、兵庫教育大学で副学長を務めていた旧知の川本氏に声を掛け、翌年より副学長として迎え入れ、「中長期計画」とそれに伴う実施体制の策定に向けて動き出した。
川本副学長は、国立大学で数多くの中長期計画策定に携わっていた。その経験から、どのようなプロセスを経て、どのような資料を作成しなければならないかを心得ていた。「中長期計画はこれまでに無かったわけではありません。しかし、それは典型的な文章であり、学内的な合意は十分には得られていませんでした。数値目標・担当部署も入れ、着実に実行する計画を作らなければなりませんでした」と川本副学長は語る。
まず、理事会の下に司令塔としての大学改革推進本部が設置された。計画の策定・推進に合わせ、部会、プロジェクト、ワーキンググループを適宜立ち上げたが、これらは総務・企画部の職員によってマネジメントされている。課題は部会等で議論された後、本部に報告され、しかるべき答申となって理事会に報告される。
こうして、具体的な教育改革から実行するための意思決定・組織体制まで広範にわたる取組を網羅した「大学改革ビジョン2011」が策定された。学内では、何度も説明会を開いて周知、全学からの意見を集約して、行動計画に反映させた。「教職員が議論を行うというプロセス自体が、浸透・意識改革に大きな役割を果たしました。現在も多数の教職員がどこかの部会やプロジェクトのメンバーになっています」と赤松課長は述べる。
この「ビジョン」が、最大の柱は「四国大学スタンダード」、四国大学の全学生が身に付けるべき共通の力を明確化したことで、佐藤理事長が最も力を入れたものでもある。これは社会人基礎力、自己教育力、人間・社会関係力の三つからなり、この修得のための具体的な授業科目が組まれている。昼夜問わずの議論の結果、建学の精神である「全人的自立」の具体的なプログラムが「四国大学スタンダード」という形になった。
「ビジョンの実行は、すぐに打てる手として学生募集の強化を始めました。学生定員充足率100%を掲げ、学生募集推進会議がホームページの充実、入試改革、新しい奨学金制度等を打ち出し、ただちに成果が上がって、主に短大の受験者数が増加しました。先に成果の出やすい、見えやすい計画を行うと、「やれば変わるのだ」という教職員の自信に繋がります。その後、3年ほど議論と準備を重ね、2014年からは学生目線に立った教育改革が始まります。こちらは成果が見えるのは長期になります。目標を掲げて見通しを立てて実行して結果を出して自信をつけて…このプロセスは学生のみならず、経営にも必要だと感じています」と川本副学長は説明する。教育の質の向上は改革の本丸だが、科目数の統合・削減等「社会のニーズに合わないもの」をいかになくしていくかも問われてくる。「学生が満足して卒業して、就職をすることがダイレクトに学生募集に跳ね返ってきます。本学は県内の学生が八割ですので、学生が就職した企業の声も拾いやすく、また、地元の高校生にもアピールをしやすいという強みはあると思います」と山本主幹は述べる。
組織改革も同時に行った。教授会主導から、大学の最高意思決定機関を大学評議会へと位置付け、各種プロジェクトや部会の決定と整合性を図っている。また、理事長をはじめ、幹部を集めた経営会議が週に3回以上、重要事項であれば1日に2度招集されることもある。
教職員のモチベーションを高めながら改革を方向づけていくにはそれなりの経験が必要だ。川本副学長はそれをよく心得ており、強引に行えば現場の心は離れるが、現場を重視し過ぎるとスピード感が失われる。トップの佐藤理事長と現場の間でうまくアクセルとブレーキを踏むことが、改革において重要と言える。
全項目に行動計画、達成指標を明示し総合的な改革を推進
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参事 篠田道夫
四国大学は今、「大学改革ビジョン2011」(2011〜15年度)を高く掲げ総合改革を推進している。
四国女子大学から、1992年、男女共学に転換して、大学名も変えた。その後順調に推移したが、2007年頃から志願者が大きく減少し始めた。2009年看護学部を設置すると共に本格的、総合的な中長期計画を策定した。
改革の柱は五つ、@学生確保、A教育内容・方法の改善、B学修支援、学生生活支援、Cキャリア教育・就職支援、D地域社会貢献と国際交流の推進である。2012年までは学生募集に重点を絞り、後半は魅力ある大学作りに力を注ぐ計画だ。
@の学生確保には、まずAの教育の充実が不可欠と四国大学スタンダードを定め、新たな全学共通教育を編成した。それを基に新教育体系「教育プログラム2014」を策定、高校へもアピールする。
Bの学生支援にも徹底して力を入れる。学生サポートセンターでは奨学金から履修相談、教育実習、資格・進路相談までワンストップで支援する。学修支援センターは、学習相談、集団学習、学生ラウンジの機能を合わせ待ち、参考書と漫画本の両方を置くなどリラックスした学習環境を提供する。ひとりで静かに勉強したい学生には別にスタディルームが用意されている。
Cの就職支援では、昨年は就職率、過去最高の93.2%を達成したが、その基礎となる就職希望率89.2%の向上にも取り組む。キャリアセンターを軸に就業力育成、キャリア相談、卒業生に気軽に相談できるジョブカフェ、100社を超える学内企業セミナー、バスをチャーターしての就活トライツアーで支援する。
それらの成果を@の学生募集に結集する。改革の成果を広め浸透させる作戦を大学広報戦略会議で練り、学生募集推進会議が実行する。芸術分野の特別入試や体験型AOなどの入試制度改革、高校訪問の手引き作成や若手職員の募集活動への参加、HP改善、学内奨学金の充実などを進める。今年の大学入学者は昨年を上回り、短大は36%も伸びた。ビジョンに基づく総力をあげた取組みの成果が徐々に表れている。
改革には資金がいる。財政は、数年前と比べれば人件費比率は15%ほど上がり、消費収支差額比率は逆に15%ほど悪化した。経費削減は避けがたい。全予算の5%マイナスシーリング、購入物品は店頭価格と比較、年間保守契約の見直し等細かく削減を追求する。非常勤講師時間数も29.5%削減、授業科目も精選し10〜20%削減を目指す。昨年度に比べ、少人数受講科目の隔年開講や類似科目の統合により12.5%の削減を実現した。委員会の統合により会議の2割削減などにも取り組む。
ビジョンの策定にあたっては全学教職員会議を何回も開き、理事長から直接説明、浸透を図った。策定後も大学改革学内フォーラムを年2回開催、全学あげた改革推進の勢いを持続させる。
ビジョン全体は大学改革推進本部が統括するが、大学改革評価作業部会の点検、評価体制も徹底している。大学改革評価ガイドラインに基づき中間評価と最終評価を行い評価報告書を取りまとめる。
ビジョンは項目ごとに行動計画が作られ、年次ごとに課題と方針、責任部署が明示される。さらに年度の計画・方針には達成状況確認のための点検事項と評価指標が設定される。この書式に沿って部署、項目ごとに自己評価され、根拠データを添付して作業部会に報告、4段階評価と評価作業部会コメントが付けられる。評価が低ければヒアリングの対象となり、原因究明と改善方策が検討される。最近では、計画通りの進行が七割を超える。
組織としての目標達成行動と合わせて、掲げる課題を教職員個人の行動に結び付けるため、教員の業績評価、職員の人事評価制度の導入を進める。教員は、教育、研究、社会貢献、学生募集、大学の組織運営、職員は目標達成評価、行動評価、能力評価の柱で評価・育成する。
これらを推進する学内理事を中心に構成する経営会議は、多い時は朝夕開くなど活発で、大学の最高意思決定機関で学長が議長を務める評議会には、理事長も加わりかつ職員幹部も正式メンバーだ。経営・教学一体、教職協働が根付いている。事務組織も、アドミッションセンター、学生サポートセンター、キャリアセンターと総務・企画部の四つ、3Pの目的別にシンプルな構成で、総合企画課がビジョン全体の推進と事務管理を担う。
佐藤理事長、松重学長のリーダーシップの下、国立大学法人の中期計画推進のベテラン、川本副学長が計画作りから実行評価までを主導する。総合的な改革を戦略経営の基本原理に従ってPDCAを実体化させ、全学を動かして改革に成功した優れた事例といえる。