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平成25年7月 第2531号(7月24日)

 地方私大からの政策提言
   地(知)の拠点整備事業は広域的見地で採択を
    (学)札幌大学理事長  佐藤俊夫

 私の奉職する札幌大学が設立された昭和42年当時、周囲は一面、目を遮る物もない緩やかな起伏の田園地帯であった。今は近隣に地下鉄も乗り入れ、見渡す限りの住宅地域である。まさに、大学と地域は一体となって発展してきた。しかし、多くの地方私大の例に漏れず、本学も近年定員割れが続いている。このままでは将来の存続すら危ぶまれるという危機感を共有した私達は、もう一度大学のあり方を根本から見直す作業を行った。その結果が、学部制の廃止と1学群の下での13専攻制への移行である。これは、何よりも学生の学びの場をどのように提供するかという問題であると同時に、大学が組織として、一体となって課題に取り組む体制作りにもつながる。
 この改革の詳細については、本紙6月12日号「改革の現場」で詳しく取り上げていただいているので、ご参照願いたい。
 今回の改革に当たって私達が改めて強く打ち出したのは、これまでも力を注いできた地域との協働である。新しい学群の名称も「地域共創学群」とし、更にそこでは体験重視型のアクティブラーニングの理念を中心に据えている。そのスタートに合わせ、この4月にはこれまでの地域交流・国際交流の機能を集約し正課と課外活動に活用していく組織<・施設として「札幌大学インターコミュニケーションセンター」を開設し、学生と地域の方々が一体となった多彩な学習・スポーツ活動を展開している。
 また、ここ北海道において他のどこよりも多く残されている先住民族アイヌの人々の言語・文化の保存継承にむけ、企業の参加も得て設立された一般社団法人「札幌大学ウレシパ(育てあいを意味するアイヌ語)クラブ」も、既に国や自治体の支援も得ながら活動を展開している。
 このような私達の大学作りに当たって大きな導き手の一つとなったのは、国の一連の高等教育政策の「地域における知の拠点」としての大学の位置づけであった。それは現在、「地(知)の拠点整備事業」として示されている。そこでは、地方の大学においては、これまでのような個々の教員の活動にとどまらず組織として地域と連携し、その知的資源を大学全体として吟味しながら地域の課題に取り組む一方、将来の地域の核として活躍しうる人材の育成が求められていると考えられる。
 現在、北海道では全国を上回るスピードで人口減少・高齢化が進み、就労世代の能力、資質の向上が大きな課題となっている。しかも大学・短大への進学率は全国平均を大きく下回る。人口の3分の1が札幌市に集中し、残りの3分の2が178の市町村に広域分散するという地域性や、脆弱な経済基盤という構造上の問題がその背景にあるが、大学が真に地域に認知され必要とされてきたかという点も、反省点の一つであろう。
 かつて自治体が多大な財政支援をしながら大学の誘致を進めた時期もあった。しかし、教職員や学生の居住と消費行動という点を超えて地域がどれだけ大学の資源を活用してきたか、逆に大学が地域に資源を積極的に提供し必要とされる大学になっていたか、改めて考えるべきであると思う。
 地域の課題を最も強く明確に体感しているのは、言うまでもなく自治体である。一方、地域に立地する大学には様々な知的、人的資源が蓄積されている。しかし、その活用は、公開講座の開催や一部の教員が自治体の諮問機関の委員として参加することなどにとどまり、大学の資源を結集して地域課題と向き合うまでには至っていない。両者に、マッチングのノウハウが不足しているからである。
 今回の「拠点整備事業」においても、立地自治体との連携を必須のものとし、両者の「対話の場」の設定が求められているのはこの意味で当然のこととして、問題は何がその地域にとって喫緊の課題であるか、大学のどのような力がその解決に有用なのかを判断する過程である。
 その意味で、私は『採択過程における広域自治体たる都道府県の位置づけを明確にすべき』と考える。自ら連携先となる場合を含め、広域的見地から地域課題の本質と優先度を判断するには、広域自治体の政策部門が最も有効に機能すると考えるからである。
 また、例えば高齢集落、子育て、アイヌ文化等地域に固有の文化の保存など、地域課題の類型ごとに連携の取組みを採択するなどの方法もあってよい。更に、これまでの連携実績にこだわることなく、従来十分に認知されていなかった課題への新たな取組みについても柔軟に対象化すべきである。地域と大学の連携として単に“姿かたちのよいもの”にとどまらず、真に地域が悩む課題の解決につながっていくものであってほしいからである。
 また、本事業では「自治体からの人的、物的、財政的支援が充実されることが望ましい」とされているが、自治体や商工会に対する支援も省庁間連携の下、充実されるべきである。
 地域と大学の連携は、学生の教育の場面でも力を発揮する。前述のように、本学はアクティブラーニングを改革の理念の一つとした。そのフィールドを豊富に提供してくれるのは、何よりも地域である。地域が大学との協働の下に人材の育成に当たることは、学生の学ぶ意欲を喚起する上でも、地域への定着を促す上でも、有用であろう。そしてこれについては、自治体や地域の産業界を事業主体とした大学との連携事業として政策化することが可能である。もちろん、個々の学生支援として給付型を含む奨学金制度など学生への経済的支援の充実も、特に北海道のような経済環境の厳しい地域にとっては重要である。
 同時に、大学としても、地域との連携を責任を持って持続していくためには、組織としての一体的、機動的な対応を保障する体制作りが不可欠である。本職に就くまで部外者であった私のような者が感じるままに言えば、大学というところは自己変革力の極めて低い集団である。しかし、地域との連携の深化を契機として、より開かれた、そして大学を受け入れ支援してくれる地域に対して責任をもつ教育研究機関として真に求められる存在になるため、自己を絶えず改革していくことが、我々大学自体にも求められていると言えよう。

《佐藤俊夫氏の略歴》
 昭和48年・東北大学法学部卒(法学士)
  同年・北海道庁入庁
 平成3年・自治省財政局勤務
 平成5年・北海道庁勤務
 平成8年・監査委員事務局特別監査課長
 平成10年・教育庁財務課長
 平成15年・宗谷支庁長
 平成17年・監査委員事務局長
 平成20年・北海道副知事
 平成21年・学校法人札幌大学理事長(現職)


 

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