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平成25年7月 第2531号(7月24日)

 下村文科相に聞く
   大学政策の課題と展望

 安倍晋三内閣が発足して7か月。大学をめぐっては、首相直属の教育再生実行会議のグローバル人材の養成や大学のガバナンス改革、自民党の教育再生実行本部の達成度テストの導入など、大学改革構想は目白押し。安倍首相の唱える経済再生と並ぶもう一つの柱である教育再生に意欲を燃やす下村博文文部科学大臣に、大学政策の課題や今後の展望などを聞いた。聞き手は、日本私立大学協会事務局長の小出秀文氏。

高等教育の質・量を高め
大学のガバナンス改革を

―最初に、当面する教育政策の基本的課題について、大臣のお考えをお聞きしたい。
 「安倍内閣が掲げる経済再生において、もう一度この国の経済発展をしていくことを考えると、それを支える一人ひとりの人材力を高めていかなかったら、日本が経済発展をしていくことは不可能です。つまり、人づくりが結果的に国造りになるし、国の豊かさを作っていくためには、一人ひとりにいかに教育を提供できるかどうかということにかかっていると思います。事実、過去20年間を見ると、経済成長した国というのは高等教育、大学への進学率がどんどん高まり、それに正比例して経済も発展しています」
―ご就任以来、大臣は、高等教育の質と量を同時に高める必要があると話しておられることは、非常に心強いかぎりです。
 「これからの経済発展を考えていくと、我が国は、大学教育、高等教育に力を入れていかなくてはいけないというのは必然だと思います。日本の大学進学率は4年制が52%、OECD平均が60%で、韓国、アメリカは70%を超え、オーストラリアが96%。これらを考えると、日本は今後、大学教育における質も、それから、量も高めて教育をしていくということが必然的に必要なのです。
 そのために大学も変わらなくてはいけないと思います。大学の量を増やすということになると、それだけ、より少子化の中で競争が激しくなります。大学のレベルも同時に上げていかなければならなくなります。国際的な社会の中で、どう日本が対応していくかということを考えた場合、一人ひとりの教育力を高める、つまり高等教育を高めるということで、今後、大学教育についてバックアップしていきたいと考えています」
―具体的には、どのように大学を支援していくお考えですか。
 「既存の大学教育をそのまま応援するということではなくて、やはり時代の変化に対応した、たくましい学生を育てていくような大学についてはさらなる支援をしていきたい。高等教育の質と量を高めるということは、今の大学をただそのまま温存するということではありません。着実に、確実に世界のニーズなり、国民のニーズなり、それぞれの地域のニーズなり、それに対応する、つまり時代の変化に対応できる大学は大きく伸びます。それができない大学は、立ちいかなくなる場合もあり得ます。そういう厳しい時代に来ていると思います」
―基本的なお考えは賛同します。私学は創意工夫の精神で積極的な改善・改革努力をしていますが、他方で公正な競争条件、環境整備も必要と考えます。
 「大学に対して、私学助成も含めて相当な支援をしたいと思っています。しかし、今の大学の中には改革の努力をしていない大学が多いのではないかと一方では思っています。一つは大学のガバナンス能力がないことです。これは国立大学も含めてですけれど、やはり時代の変化に対応したガバナンス、経営能力ですね、こういうことをきちんと身につけてほしい。今、本当に社会が必要としている人材、求めているニーズは何なのかということに、大学側が的確に応えて教育をしているのかどうか、疑問も残ります」
―大臣は、大学のガバナンス改革に強い意欲を示しておられますね。
 「中小企業の社長を社員全員の投票で選ぶ中小企業があるとしたら、その会社はつぶれてしまいます。国立大学も含めて、そのようにして学長を選んでいる大学があるわけです。かつてはそれが民主的といわれたかもしれないが、これからはそういうガバナンスでは時代の変化に対応できません。みんなが賛成するということは、大きな痛みを伴う改革はノーということになります。私は質と量を高めると言っていますが、変化に対応できる大学であるためには、相当経営能力が問われます。学長のガバナンスだけでなく、教授会の在り方も改革していく必要があります」
―あえて申しますと、ガバナンスの問題に関しては、どちらかというと私大よりも国大のほうに問題があるのではという指摘もありますが。
 「一般的に、私大が頑張っていて国立大学が頑張っていないとも、その逆のことも、私は言えないと思います。それは個々の大学によって違います。ただ、私立大学以上に国立大学のほうが経営基盤は安定しています。この間、全国の国立大学等の学長・機構長会議で申し上げたのですが、従来の国立大学の運営費交付金のように均一に国費を出すというようなことから、研究開発費等、個々の大学が努力するところに対してさらに資金をバックアップする。これからはそのようにシフトせざるを得ないという話をしました。これは、政府の産業競争力会議等でも強く要請されていることです。
 社会から見たら、先ほど申し上げましたように、私立大学も含めてですけれども、大学が社会の的確なニーズに対応した人材育成をしているのか、ということです。国立大学についても、今まで以上に資金的なバックアップをするけれども、一方で国立大学も淘汰される。そういう厳しい時代だというふうにぜひ認識をして、緊張感を持って大学ガバナンスの改革について取り組んでいただきたいと申し上げました。私立大学も一緒だと思います」

地域に密着した教育を
海外留学に奨学金支給 公的支援を、より充実

―大学ガバナンス改革は私立大学も一緒、ということについて詳しくお聞きしたいのですが。
 「(私立大学の中には)一生懸命やっているところもあるでしょう。だからいいというのではなくて、それは当たり前の話だと思います。やはり厳しい時代状況の中で、そうしなければ生き残っていけないということを認識してほしい。大学の設置形態は別にして、それだけ努力する大学に対しては、社会も的確に評価していくでしょうし、そういう大きな時代の転換期に来ているというふうに思います。
 理事長や学長のガバナンスは多岐にわたるという件ですが、それはトータル的にはガバナンスの問題として、大学全体がどう取り組むかということだと思います。ですから、一生懸命やっている私立大学もありますが、今は問題が表面化してないけれども、放っておいたら問題が今後表面化するのではないかというような私立大学も、私はあるのではないかと思っています」
―私立大学団体では、現在の厳しい経営環境下においても、健全な経営確立と、迅速な意思決定の必要性を提唱しているところです。この議論では、一律的なガバナンス改革は、大学への介入につながるという懸念も指摘されますが。
 「個々の大学に介入するつもりはありません。優秀な学者だからといって、優秀な経営者になれるかどうかは別の話です。大学もいかに外部から優秀な経営者を呼び込むことができるか。私立大学だったらなおさらですね。そういう意味でガバナンスの仕組み、枠組みを作りたい。
 教授会の在り方についても見直したい。それには、法令改正が必要です。中教審でご議論いただき、今後、制度設計をすることになります。教授会そのものを否定はしませんが、いちいち大学の経営にまで口出しをするような、今までのような教授会でいいのかどうかということについては、検討してもらおうと思っています。
 個々の大学の教授会の在り方についても口出しするつもりはありません。ただ、今後、意欲のある大学が、さらに時代の変化に的確に対応できるような制度設計を国としては作っていきたい。それをそれぞれの大学でうまく取り入れられるかどうかは、それぞれの大学の、まさにガバナンス能力だと思います」
―私立大学は、それぞれの地域に根ざしながら地域のリーダー養成や人材育成に積極的に取り組み、地方活性化に関わる大きな役割を果しています。この点についてのお考えは。
 「私立大学は、もっと地方自治体と連携してもらいたい。そういう取り組みをしているところも幾つか出てきています。しかし、象牙の塔的になって、学内で学生に教えることだけに満足してしまっているようなこともあるのではないか。本当にその地域の中でどんなニーズがあり、大学にどういう期待が寄せられているのかということを、より的確に捉える必要があると思います。そういう大学ももちろんありますが、もっと、それぞれの地域のニーズに応じた対応をして欲しい。
 地方の大学は、その地域における知の拠点です。知の拠点として、それぞれの地方自治体、その地方における産業界とうまく連携してもらいたい。地域にはそれぞれに特徴のある産業があるはずです。
 教育ニーズについても地域と連携して、より地域に密着した、地に足の着いた教育をすることが、今まで以上にその地域から望まれていると思います。そういうことを行っている大学は、その地域の中で強みを生かしてやっていけるはずです。ぜひ、今まで以上に地域とのネットワークを作ってほしい」
―グローバル化については、いかがでしょうか。高度化をどう進めていくか、ということもカギかと思いますが。
 「文部科学省では、グローバル人材の育成を目的として、783ある大学の中で、グローバル30などの事業により特に中心的な大学に対して重点的に支援してきました。真に世界の中で通用するグローバル人材の育成は、トップ大学だけで行えばよいというものではありません。
 たしかに、世界のトップレベルで世界に伍して活躍する人材の育成は、もちろんそういう大学を中心にやらなくてはなりません。
 しかし、地方大学の出身者であっても、これから外資系の企業に就職する、海外に勤めるという機会も増えてきます。まさに社会全体が国際化、グローバル化の流れの中にあります。大学生であれば英語の習得だけでなく、日本国内に限らず世界の中でも働けるようなチャンスと可能性を提供するような教育をバックアップする必要があると考えます。
 結果的に、世界に出て行って活躍する人もいるでしょうし、その地域で活躍する人材になる人もいるかもしれない。しかし、最初からグローバル人材として育成する環境を提供していかなければ、そもそも活躍できるチャンスや可能性をつぶしてしまうことになります。ですから、グローバル人材というのはトップの大学だけでなく、すべての大学において、そういう環境を学生たちに対して提供していくということを担保しなくてはいけないと思います」
―大臣は五月の訪米中に、秋入学に対応した半年間(ギャップターム)の海外留学希望者に奨学金を支給する考えを示されましたね。
 「日本から海外に出る留学生が減少して、2010年では約6万人にとどまっています。世界に出て日本の良さを知り、さらに学ぶ意欲を持ってほしいということから構想しました。若者の海外留学を奨励し、国際的に活躍できる人材を増やすのが狙いでもあります。一人当たり30万円程度の奨学金があれば数か月の短期留学は可能です。
 秋入学が実現すれば、入学時期が欧米の大学と一緒になり、学生交流が進み、大学もグローバル化してレベルアップすると思います。予算的には難しい問題もありますが、教育再生はいまがチャンスです。IT関係の民間企業の若手経営者のなかには、国に協力して資金を出そうという声も上がっています。文科省の若手と民間の若手経営者が海外留学の奨学金のファンドを作れないものか、と論議する動きも出てきています」
―高等教育に対する公財政支出が少ないという問題はいかがでしょう。
 「先にOECDが発表した調査では、OECD諸国の中で、高等教育への公財政支出は日本が最下位でした。これは、やはり公的な支援が少ないからです。今後、私はできるだけ若者たちのチャンス、可能性を広げていきたい。一人ひとりに、できるだけ公的支援をしたい。私立の大学に対しても、学生ができるだけお金がかからないような形で進学することができるようなチャンス、可能性を広げていきたい。そうしないと、この国に未来がないと思っています。
 公的支援を充実することによって、個々人の家庭の貧富の差に関係なく、志と能力があれば、少なくとも大学や大学院にすべての子供たちが行けるという環境をぜひ作っていきたい。
 そのことによって大学進学率も高まっていきます。私立大学に通う学生を、私立大学に通い切れるように公的支援でバックアップをしていきたい。すべての学生にチャンス、可能性を与えたい。それが私立大学がさらに発展することにつながると思うんです」
―教育費の負担の在り方のお話ですね。これについては私どもも検討する用意がございます。最後に、基盤的経費としての私学助成についてはいかがお考えでしょうか。
 「公的支援の狙いはすべての学生にチャンス、可能性を広げていくような国をつくることです。それが国の豊かさにつながっていきます。その中で、学生が選択する大学が大きく発展するかもしれないし、選択されなかったら大学は立ちいかなくなってしまうかもしれない。今の私立大学はすべて経営も安心だから温存しようと考えているということではなくて、これからも私立大学は増えていくでしょうし、既存の私立大学も全く経営的に心配がなくなるかといえば、そうではありません。
 あくまで、子供たち、学生を応援していきたい。そうすると、今の私立大学だけでは足りないぐらいの大学進学率になってくると思います。メインの子供、学生を公的に支援することによって、チャンス、可能性が開花する国をつくっていきたい」
―本日は、教育の質と量、大学ガバナンス、学生支援、地域貢献など多岐にわたる大学政策の課題に関して力強く示唆に富む話を伺うことができました。大臣の益々のご活躍を祈念し、私どもも私学振興を力強く推進して参りたいと存じます。本日は、まことにありがとうございました。



 

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