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教育学術オンライン

平成25年6月 第2528号(6月26日)

大学は往く  新しい学園像を求めて〈76〉
 地域社会の福祉に寄与
 教員養成に傾注 「対話のある大学」めざす
 盛岡大学

 キリスト教精神をもとに人間教育を基盤にした教育研究活動を展開する。盛岡大学(徳田元学長、岩手県岩手郡滝沢村)は、教師と学生との人格の接触を重んじ、尊敬と信頼を深めることに努めてきた。文学部の単科大学として1981年、盛岡市厨川に開設。現在、人間教育を基盤とした教育・研究活動を行う文学部、人間栄養学を中心とした教育・研究活動を行う栄養科学部(2010年開設)の2学部と併設する地域に密着した実践的な保育・幼児教育を行う盛岡大学短期大学部からなる。文学部では開学時から教員養成に力を入れており、卒業生の多くは小中学校の教員として全国各地で活躍している。盛岡大学21世紀委員会が2001年に提唱した教育理念実現のための行動原理である「対話のある大学」がバックボーンとなっている。「地域社会の福祉に寄与する人材を養成していきたい」という学長に大学の歩みと改革、そしてこれからを聞いた。
(文中敬称略)

文学部と栄養科学部
「愛と奉仕」を育む

 岩手山が指呼の間にある。訪れた6月上旬、岩手山は頂上から雪がツララの垂れ下がったように残っていた。緑豊かな広大なキャンパスに瀟洒な建物が建つ。英国のカレッジを彷彿させる、箱庭のような学園だ。
 盛岡大学は、1951年に設置された栄養を学び普及させる各種学校の盛岡生活学園が淵源。57年、愛育幼稚園(のちの盛岡大学附属愛育幼稚園)開園、58年、生活学園高等学校(現盛岡大学附属高等学校)を開設。
盛岡大学は、81年、文学部英米文学科と児童教育学科の二つの学科でスタート。87年に日本文学科を開設、2000年には、英米文学科、日本文学科、児童教育学科に専攻科を設置。「大学教育の基礎の上に高度の専門教育を施し、各学科の教育目標をさらに高度に展開するためです」と学長の徳田。
 文学部に児童教育学科を設置してスタートした学科構成について。「開学当時から、文学部は“literature”に限定されるのではなく、“humanities”を教育研究の対象として意図しています。文学の素養を持った教員を育てたい」
 05年に英米文学科を英語文化学科に名称変更するとともに、文学部の中に新たに社会文化学科を設置。2010年に栄養科学部を開設した。「短期大学部の食物栄養科を改組、管理栄養士養成という地域の要請に応えたものです」
 栄養科学部は、2014年に完成年を迎え、卒業生を送り出す。現在、文学部、栄養科学部の2学部に1865人(男子735人・女子1130人)の学生が学ぶ。
 学長の徳田が大学を語る。「キリスト教を建学の精神とし、愛と奉仕、対話のある大学を目指しています。愛と奉仕は、東日本大震災におけるボランティア活動で実践、対話のある大学は、教員と学生が絆を深めながら、地域にしっかり根ざした大学。そんな大学を志向しています」
 東日本大震災のボランティア活動。津波被害の大きかった岩手県陸前高田市や大槌町の小学校や高校の図書館の本が水に浸かった。こうした書籍や校内に飾ってあった賞状などを洗浄して乾かし、使えるように補修作業を行った。
活発なボランティア
 「県内の大学でつくるいわて高等教育コンソーシアムが窓口となって地域貢献策として実施。講習を受けてから現地に入ります。本学からは昨年1年間で延べ529人がボランティア活動に従事、学生にとっては人間形成の糧になったと思います」
 「盛岡大学21世紀委員会」とは。委員長は学長で全学の代表者によって組織される。同委員会がまとめた「21世紀初頭の法人運営の指針及び教育の基本―盛岡大学が進むべき道」は現在も同大の改革の背骨になっている。
 「対話のある大学」とは。「開設20周年を機に全学の目標となる行動原理として決めました。これまでも、教員と学生とが授業や研究活動を通じてきめ細かい日常的な交流を行ってきました。今後とも教職員と学生、教職員と教職員、大学と法人内の各施設、大学と地域社会などが『対話』を通して言葉と知、豊かな心を培っていきたい」
 各学部の学び。文学部は、幅広い専門的教養と創造性豊かな実践力とを備えた学生を育てる。教員養成には実績と伝統がある。「教員になった同窓生の支援も現役学生には力になっています。児童教育学科に、保育・幼児教育コースを新設する計画もあります」
 栄養科学部は、人間栄養学を中心とした教育・研究活動を展開する。開設して3年が経過した。「来年の管理栄養士国家試験に多くの合格者を出すよう、国家試験対策委員会を中心に、教員陣が学生の理解度を把握しながらきめ細かい指導をしています」
異学年クラス編成
 キャリア教育では、文部科学省のGPにも採択された実績のある異学年クラス編成が特長だ。「週に一度、1年生から4年生までが一緒になって講義を受けます。教員志望の学生にとって、先輩の体験談は勉強になるし、先に教員資格を取った先輩からの助言も受けられます」
 学生の就職支援は、「就職センター」が担う。「Your Future is Right in Front of Your Eyes!(漠然とした思いをカタチにするためには、まず自分自身を知ることが大切)」が同センターと学生の合言葉である。
 「学生には、4年間の大学生活を有意義に送り、社会とは、仕事とは、その中で自分が果たす役割とは…学生一人一人がそれぞれの個性に応じたキャリア形成を果たすため、様々なサポート活動を行っています」
教員養成のセンター
 「教師教育センター」は、教員志望の学生に向けて設置。「学生が利用できる相談室と学生指導の機能を備えた場。教員志望学生のモティベーションの向上、基礎学力の向上、実践的指導力向上を目指す支援体制が充実しています」
 文学部各学科の学生とも中学・高等学校教員、小学校、幼稚園教員をめざす。「地元の滝沢村の小中学校でのラーニングサポート、岩手県の行うスクールトライアルは教育現場に入ってお手伝いすることで教員養成に役立っています」
 栄養科学部は、管理栄養士の養成を目指す。管理栄養士は栄養・食生活から健康づくりを推進する専門職。「活躍の場は、病院、介護施設、保健所から、保育所・幼稚園、学校、民間企業の食品研究・開発部門など多岐にわたります」
 国際交流も盛んだ。カナダのカモーソンカレッジとは1987年に姉妹校協定を締結して以来、様々な交流を続けている。中国浙江省寧波市にある寧波大学と2011年に学術交流協定を調印、2012年度から派遣留学生を交換。
 「寧波大学から2名の交換派遣留学生を受け入れ、本学から半年間の予定で2名の学生を派遣。このほか、学生交流の場としては、年2回の海外英語研修と、大学での選抜による交換派遣留学生制度があります」
 岩手山に見守られた広いキャンパスは、自然が豊かでクラブ活動にも最適な環境にある。「スポーツ系では男子ソフトボールが強豪。文化系では、東北五大祭りの『さんさ踊り』に実行委員会を作って250人もの学生が参加、5連覇中と頑張っています」
 大学のこれからについて。「東北の地域に根ざしながら、学術の中心として個性をもった魅力ある大学を目指します。奉仕の精神を基盤に専門性、教養、国際性を持つ善き社会人を育成することを目指します」
 具体的には?「受験生のニーズに合わせた学科の改組も考えています。そのためにも教育効果を高める必要がある。建学の精神に基づく具体的な行動原理として『対話のある大学』を掲げています。対話を重視した授業を展開したい。学生を巻き込むような授業をする教員の評価は高いんです」
 「キリスト教を建学の精神とし、愛と奉仕、対話のある大学を目指す」と繰り返し語った徳田の志にブレはない。




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