平成25年6月 第2525号(6月5日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <44>
PJ(プロジェクト)、WG(ワーキンググループ)を軸に全学改革推進
北海道医療大学
北海道医療大学は、1974年に東日本学園大学として発足、1994年に名称変更し現在は、薬・歯・看護福祉・心理科学・リハビリテーション科学の5学部8学科からなる医療系総合大学となっている。GP獲得は10を超え、道内私大では最多を誇り、医療系だからこその特色ある教育を展開している。このたびは、飛岡範至事務局長、高見裕勝経営企画部長、小野寺貴洋学務部長、三浦清志経営企画部総務企画課長、三川清輝学務部教務課長に改革状況の話を聞いた。
同大学の改革行動計画(中期計画)は、1990年の「21委員会」の発足まで遡る。「21世紀をめざして、大学が何を行うべきか」について、230にも及ぶ大学活性化や充実・整備に取り組むことを提言した。「当時の堂垣内尚弘理事長のもとで作業が進められ、大学淘汰の時代何するものぞの気概が溢れていました。PDCAサイクルをベースに精力的に議論し、その結果を理事会に報告し了承を得るという繰り返しでしたが、委員の教員や事務職員が厖大な時間と労力を傾注し、1998年までにはほとんどの取り組みが終了しました」と飛岡事務局長は当時を回想する。
その後、第2期の改革方針である「2008行動計画」を作成、計画の推進方法についても、従来の羅列型を改めて実施行程表を組み、計画内容の実施主体性を重んじ、法人・教学、さらに事務局の各サイドに仕分けして責任体制を明確にする等の改善を行った。二〇〇四年からは「新5カ年行動計画」(2008後期計画)をスタートさせ、教育・研究・医療・社会貢献のさらなる充実・発展に務めてきた。
2007年には廣重力前理事長の下に「教育力向上」「キャンパス再構築」「医療機関一元化」の三つのプロジェクトを設置したが、これは「新医療人育成のための北の拠点」としての大学のあるべき姿を明確にする中長期計画の骨格づくりを目的としたものであった。2009年には同理事長のリーダーシップの下で、2007年以降の諸活動を発展させた「2020行動計画」をスタートさせたが、「その成果は、本年4月のリハビリテーション科学部の開設など、具体的な成果となって表れています」と、高見部長は語る。
理事会によって改革の柱がまず構想され、具体的な実施は常任理事会直下の各プロジェクトにおいて検討されている。新規プロジェクトは理事会で決定し、教職員からメンバーが選定される。基本的には事務職員は部長・次長だが、若手課長が参画し積極的に発言する機会も開かれている。「教学分野のプロジェクトであってもその方針は教授会で尊重されますし、学部長会議や評議会でも同様です」と高見部長は続ける。もともと教職員間に壁はなく、事務職員出身の理事も2人いる。「常に新しいことを見つけて古いことを改革していこう」という風土は、大学設立当初からあるようである。
こうした一例として、教員の教育力向上を目的として道内私大に先駆けて、2002年から実施している合宿型FDワークショップ、専任教員三人を配置してスタートさせた「薬学教育支援室」がある。この教育支援室では、学生の基礎学力の向上をはじめ、学生からの様々な学修上の悩みに応えているが、今では、歯学部、看護福祉学部にも設置され、学生の学修をサポートしている。また、2007年には、全学教育のプログラムを開発し、その実施・教育改善を行うことを目的として「大学教育開発センター」を設置している。各学部では、同センターが企画・開発した教育プログラムを尊重しつつ学部教育に当っている。
一部の国立大学等で実施されている「部局別ポイント制人件費管理システム」というユニークな試みは2009年に同大学でも導入された。「例えば、教授一ポイント、准教授0.8ポイント等として、各学部の教員のポイント総計を算出します。各学部はその総ポイント内であれば自由裁量として、職種及び員数にとらわれない教員が配置できます。欠員ができたから補充するという安易な人事ができない仕組みとなっています。この仕組みは事務職員も同じです」と高見部長は解説する。
SDについては、ワークショップ形式で研修をしている。「例えば、「2020行動計画」から、各々がテーマを打ち出して何が提案できるか半年かけて調査を行い、最後には理事をはじめ、管理職の前でプレゼンテーションを行ったりします。良い提案は実際に計画に組み込まれます」と三浦課長。
同大学の職員は総じて良く働くという。それは大学創設時の職員たちが創り出してきた風土でもある。経営のキーパーソンが抜けても大学が安定して回るにはどうしたらよいか。答えの一つは、北海道医療大学のように、キーパーソンが生み出す経営文化を、全学の風土にまで昇華してしまうことのように思われる。
教職一体、自律運営、現場からの提案で
目標へ前進
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参与 篠田道夫
北海道医療大学の全学改革を推し進める要は、2020行動計画である。文字通り2020年までに実現すべき学園経営のグランドデザインを提示している。その柱は四つのキーワード@医療系ブランド人材育成、Aキャンパス再構築、B経営基盤の強化、C活動分野のグローバル化に示される。そして、その下に推進のためのプロジェクト(以下PJ)とワーキンググループ(以下WG)を置き、教職で構成された20近いチームが、目標実現に向けて自律的に動いている。
例えば、教育力向上PJのもとには国試対策WGが合格率向上策を練り、教育力向上WGでは全学教育の推進やFD活動の実質化を進め、就職・キャリア支援等WGは就職支援策の強化や地域社会貢献策を練るという具合だ。学部再編・新分野設置等推進PJは今年新たに開設したリハビリテーション科学部の設置計画の推進をはじめ学部の改組・再編計画を検討する。
経営管理PJでは、給与制度の見直し、人件費縮減策の検討、部局別ポイント制人事管理を推進する。数年前、一部の学部の志願者減少という事態を受け緊急アクションとして作られた学生確保PJは、入学金全額、学納金の半額を免除する「夢つなぎ入試」の実施をはじめ入試制度やオープンキャンパスの充実等を提案、新学部の開設とも相まって、今年の志願者は前年の1.5倍を実現した。
このPJ、WGの取組みが優れているのは、各テーマについて改善策を提言するだけでなく、基本方針に盛られた内容であれば、学内諸機関に報告の必要はあるが、PJで直接決定しすぐ実行に移せる権限と責任を持っている点である。
PJは、2020行動計画全体の実現に責任を持つ常任理事会の下に置かれており、教員職員約半数ずつで構成され、責任者は副学長や学部長、学科長、センター長など教員が務めるが、主管事務局や関連する事務職員幹部が現場からダイレクトに問題や改善策を提案し、PJを動かすことが出来得る仕組みとなっている。教授会など行政的な組織を中心に改革を進めるのではなく、課題ごとに現実問題に精通している教職員に改革の主導権を持たせ、事務職員の企画提案力を生かすことで現実に即した実効性ある改革推進体制を構築し、この大学の発展を作り出してきた。
この進捗状況管理も徹底している。PJ、WGの自律的活動を重視する一方、PJの一つひとつの方針の柱ごとに、検討・実施状況が半年単位で一覧表にまとめられ、常任理事会に報告されるとともに学内に公開される。多くの教職員の主体的取組みを尊重し励ましつつも、厳しく進行をチェックすることでPDCAサイクルを機能させ、最終的に理事会に集約することで経営・教学に及ぶ2020行動計画の課題の全体推進を図っている。
しかし、こうした活動は一朝一夕にできた訳ではない。1990年から始まった21委員会(21世紀を目指す大学構想検討)による「魅力ある大学創りのための230の提言」に始まり、それが1999年からの2008行動計画となり、2004年からは新たな課題を盛り込んだ新5カ年行動計画に発展し今日に繋がっている。PJを軸とした改革行動は、こうした20年に及ぶ改革推進の中で試され、実績を積み上げ、全学改革の主導機関として成長し定着してきた。羅列型ではない明確な改革行動計画を提示し、綿密な実施行動表を組み、責任体制を明確にして到達状況を半期ごとに検証する優れたマネジメントシステムである。
中核となる学内理事は、教員からの理事3名、事務職員出身理事2名で、理事会が責任を持って提示した目標・計画の実現を直轄して進めることができ、かつ教職一体、多くの構成員を改革に巻き込み、現場の力を引き出すことが出来る運営である。
PJ活動は、新学部の設置だけでなく、道内私大一の一〇を超えるGP獲得、国試対策強化による合格率アップ、大学教育開発センターの設置や合宿型ワークショップFDはいずれも道内私大では初、社会貢献分野の取り組みは、日経グローカルで医歯系全国一位を獲得するなど多くの成果を生み出してきた。経営改革分野でも、部局別ポイント制人件費管理システムの導入や人件費削減、財政の安定化に強力に機能している。事務職員は10年前から、目標管理型の評価制度を導入している。教員は5年前から教育、研究、社会貢献など、各分野の水準の向上を目的とした「教員評価」を行っており、改革行動を全教職員に広めようとしている。教職一体、多数を結集した自律運営は、現場からの提案に依拠し掲げた目標の実現に迫る着目すべき改革推進システムと言える。