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平成25年2月 第2513号(2月13日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <38>
 中期構想、任期制、評価で活性化
 福岡歯科大学


 (学)福岡学園は1973年に福岡歯科大学を開学ののち、附属歯科衛生専門学校(後に福岡医療短期大学に昇格)、大学院等を次々と併設すると共に、歯科大学附属病院を医科歯科総合病院に改称して医科を拡充、介護老人保健施設を設置し、地域医療・福祉の発展に貢献してきた。2008年には併設の福岡医療短期大学歯科衛生学科専攻科が全国初の口腔保健学の専攻科として認定を受け、2011年には「福岡歯科大学口腔医療センター」を開設するなど、「医歯一元化」を目指し「口腔医学」の重要性を訴えてきた。改革の過程について、田中健藏理事長、水田代常務理事、本田武司常務理事、北村憲司学長、小島 寛病院長、厚谷彰雄事務局長に話を聞いた。
 一連の改革の発端は2000年に発表した「福岡歯科学園の新世紀へむけての将来構想」と題する教育・研究・診療・管理運営に関する方針で、これにより急激に経営・組織改革が進んだ。この決定について、教職員のほとんどが前向きの反応だったのは、田中理事長の強いリーダーシップによるものだった。北村学長は振り返る。「これまでばらばらの方向を向いて仕事をしていた組織が、将来構想に向かってまとまっていくのではないかという期待がありました。他の教職員もそういう想いだったのではないでしょうか」。
 2004年、全教職員に人事考課を導入、2005年、全教員を対象とした任期制導入。各教職員は、将来構想に基づく教育・研究・診療・社会貢献・管理運営に沿って自らの目標を設定し、教員の場合は1次考課を主任教授、2次考課は教員評価委員会が行う。
 職員の場合は、まず将来構想に基づく各課の目標を掲げ、それを参考に課員自らの目標を掲げる。1次考課は各課長、2次考課は事務局長が行う。この人事考課と教員の任期制、そして昇給等は連動している。例えば、優秀な助教については講師として採用する等、弾力的な制度としているし、低評価のため任期満了により退職した教員もいる。そもそも、導入時には教員にどう説明したのか。「田中理事長の存在が大きいです。九州大学総長、文部科学省等の審議会委員も務めた政策通の方ですから、今後の大学政策を見越して、任期制の導入が必要だと。そこで自ら教授会に赴き力説し、全教員から同意書をもらい、導入が決まりました」と本田常務理事は語る。
 ユニークな評価軸として、科学研究費補助金は、申請状況ではなく採択状況としていることがある。これについては「『教員は教育のための研究をしなければならない、研究をする姿勢を持っていないと教育はできない、そういう姿を学生は見ている』、との田中理事長の想いがありました。教授が責任を持って若い教員の科研費申請を指導し、採択するように努力しています。学長も全部チェックしています。『科研費を取って研究をする』これが大学の雰囲気になってきています」と水田常務理事。
 病院・介護施設も運営する同法人の特徴ある経営として、理事会や評議員会のほかに、月に2回、法人運営について日常的に協議等を行う「常任役員会」を開催している点が挙げられる。常勤役員、大学・短大の学長、病院長及び事務局長が参加し、日常的な合意を行うことで、経営のスピードを加速させている。また、毎理事会前の「学園連絡協議会」は、法人と教学組織との意思疎通を図る会議で、これには常任役員会の構成員のほかに、役職教員、教育職の評議員も入っている。
 高い国家試験合格率の維持向上や大学が掲げる口腔医学のカリキュラム化等は、「学務委員会」の元に置かれた、「共用試験」「卒業試験」「臨床実習」の三つの小委員会で検討されている。これらの委員会でも議論の柱であり、念頭に置かれているのは中期構想の実現である。「事業計画等の大本のひな型は理事長が考案し、各部局の意見を聞きながら常任役員会で検討され、学園連絡協議会を経て理事会に提出されます。教学に関わることは、学長と相談して、理事長が教授会に出て、自ら説明します」と厚谷事務局長は、策定の過程を説明する。
 最後に田中理事長に、先見性はどのように養われるか伺った。「過去に文部科学省の審議会等様々な委員会に出席したり、アメリカやドイツの取り組みを見てきました。絶えず国内外の政策について勉強をして考察していくことが重要です」。小島病院長は「理事長の話について行くために我々も政策等の勉強をしなければなりません。そうやって教職員の間に「勉強をする」文化が醸成されたようにも思います」と付け加えた。

緊張感ある教育・研究・業務で目標実現へ前進
日本福祉大学常任理事/桜美林大学教授 篠田道夫

 福岡歯科大学の中期計画は、2000年8月「福岡歯科学園の新世紀へむけての将来構想」に始まる。教員組織の改組/教育改善/研究活性化/病院拡充/複数学部化検討/医療短大の充実/キャンパス構想/学園財政の健全化の八項目の重点課題を掲げ、総合的改革に着手した。次の計画は「福岡歯科学園の中期構想」(2004年)と名称を変え重点14項目を設定、八つの柱に加え、口腔医学の確立/第三者評価の推進/国際交流促進/施設更新/地域貢献、そして後に述べる大きな制度改革、教職員の考課制度の確立と処遇改善(任期制導入)を提起、実行に移すこととなる。
 現在は2011年3月理事会決定の第2次中期構想(2011年度〜16年度までの6年間)が稼働中で、これは@教育に関する目標、A研究に関する目標、B学生支援等に関する目標、C社会との連携・貢献に関する目標、D組織運営に関する目標の大きな5本柱に整理され、中項目として20、細目として49の方針が走っている。それらは事業計画にも貫かれ、中期目標の柱に従って事業計画が分類・策定され、事業報告書では中期計画の方針に対比した形で総括が行われる。
 原案は達成度や自己評価を踏まえ直接理事長が提起するが、下案は学長や各機関の責任者を務める理事などと議論しながら、常任役員会で検討し、学園連絡協議会の議を経て理事会で決定される。基本政策の重点は理事会主導、トップダウンだが、その実行計画、とりわけ教育研究に関する具体的な改善方針は、中期構想に沿って関連する委員会等で企画立案されるなど学部や部局が現場の実態を踏まえて策定・遂行するシステムとなっている。理事長が年頭のあいさつで、毎年、重点目標を10項目に絞って分かりやすい形で提示、全教職員への浸透を図っている。そしてこの到達度評価、検証は理事長発令の自己点検評価委員会が行い、ほぼ2年ごとに報告書「福岡歯科大学の現状と課題」にまとめて発刊、課題として挙げられた事項の改善実績も改善報告書として刊行している。
 この中期計画の実践に大きな役割を果たしているのが、任期制と人事考課だ。教員の任期に関する規定は「教員の任期中における教育、研究、診療、管理・運営及び社会活動等の領域における人事考課の結果を任期に反映させることにより、教員としての意識を高め、能力を最大限に育成して学園の活性化を実現する」と位置付ける。
 教授、准教授、講師の全員が5年の任期で再任は可、助教と助手は3年任期で1回限り再任可である。再任するか否かの基準は人事考課制度における評価結果で決まる。評価得点でA〜Eまで分類されているうちのDランク(50点未満)が任期中2回以上、またはEランク(30点未満)が1回あった場合は原則再任不可、Dランク1回の場合は再任可否が審議となる厳しい内容である。
 提起から制度発足までには3年程の歳月を要し、全教員一人ひとりから同意書を取り付けた。一昨年の任期満了者、計14名が再任を申請、教員評価委員会が再任審議を行い、申請者全員の再任を決定したが、過去には再任されなかった例もある。
 教職員の人事考課制度は、各人が設定した業務目標の達成度を自己評価、上司評価が1次考課、2次考課で行われる。目標シートは、中期構想の重点項目に対し各人が何が出来るかを問う内容となっており、年度目標と中期目標を関連させている。教育、研究、診療、管理運営、社会活動それぞれ項目ごとに評価点を付け、総合得点に換算し評価ランクが付けられる。結果は、年度末手当、昇給・昇格に反映されると共に、再任の根拠資料となる。考課対象者は教員だけでなく事務職員、附属病院や介護施設の職員も含まれる。結果は本人に一次考課者からフィードバックされ、能力育成、研究・教育、業務の活性化を図ると共に、中期構想の目標達成に向けて全教職員の力を結集するシステムとして機能している。
 この二つの制度により教員の目的達成や協力意識は格段に向上したと自己評価され、これが授業改善システムや研究活性化施策と結び付いて、歯科医師国家試験の合格率の平均以上の維持や安定した学募、財政に結び付いていると言える。
 自らに任期制と厳しい評価を課すことで、緊張感を持った教育・研究・業務を作り出し、目標の前進と活性化を進めている全国的にも数少ない事例である。



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