平成24年12月 第2507号(12月19日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ <35>
就職力向上をキーに全学改革推進
駿河台大学
日本三大予備校の一つ、駿台予備学校を設置する学校法人駿河台学園は、1987年に法学部のみを設置する駿河台大学を開学した。その後、法人を独立させ、法学部、経済学部、メディア情報学部、現代文化学部、心理学部の五学部体制となる。現在は、キャリア教育改革を重点事業に位置付け、落ち込んだ就職率の回復を目指す。取り組みを、池之上忠教常任理事・法人局長、増田一樹大学事務局長、早川泰文学務部長、富樫正博入試広報部長、廣瀬尚経営戦略室経営戦略課長、小森千亜樹学務部企画課長に話を聞いた。
学部改革は、2007年に山コア善久理事長が就任した折に、5000人キャンパス構想を打ち出した拡大戦略に起因している。心理学科を学部に昇格し、既存の文化情報学部の一部と現代文化学部を統合して、新たな現代文化学部に再編し、さらに文化情報学部はメディア情報学部とした。
文部科学省の現代GPにも採択された「入間活性化プロジェクト」を始め、アウトキャンパス・スタディにも力を入れる。この取り組みは四つあり、@就業体験型(希望者は150名)とAプロジェクト型(40〜50名)の二つのインターンシップ、B森林実習(50名)、Cまちづくり実践の「いるプロ」(70〜80名)がある。単なるボランティア活動ではなく、要件を満たすと翌年に単位が取れる仕組みである。
ところが、2007年頃から就職率が落ち込み、学生確保が難しい状況となったため、就職率の引き上げがクローズアップされた。まず、トップに副学長、外部から専任講師を一人招聘したキャリアセンターを新設。学部ごとに行われていたキャリア教育科目、そして、就職支援を統合して所管するようにした。「名ばかりのキャリア教育とは一線を画します。現在は、全ての科目をキャリア教育として機能させるカリキュラム改革を実施中です。学部教員には頻繁に説明会を開いており、理解は得られています。キャリア教育のみの学部向けリーフレットも作成しました」。
こうした改革を強力に指揮しているのが川村正幸学長で、2011年6月には、自ら「カリキュラム改革の基本方針」についてまとめ、全学に発信している。全教員向けに教育改革の説明会を4回実施したり、FDもカリキュラム改革がテーマになっていたりする。「学長はアイデアマンで、様々な企画の原案や叩き台は学長から出されます。例えば、学長発案の職員との情報交換では、若手職員が学長と直接、90分程度和気あいあいと現場の話をしています。学長・副学長会議で企画を練りあげ、それを経営戦略会議に出して、全学に浸透させるという流れになります」。
経営戦略室を中心に大学と予備校の連携も進めている。「初年次ゼミでの添削方法等のノウハウを共有していることを始め、入試広報、オープンキャンパス、入試対策、人事交流を行い、相乗効果を狙っています」。
また、職員の人事考課については、開学当初から採用している。教職員の関係はフランクで、学内の委員会には、職員が正規委員として入っており意思決定にも参加、教職協働体制ができている。2008年には完全部課制を導入し、教員が務めていた部長等役職を職員へと移し、教員と職員の役割を明確化した。
また、本年8月からは、副学長と一緒に教育改革やカリキュラム改革等、時節のホットなテーマのプロジェクトを組む「学長補佐制度」も発足させた。「主に若手准教授や講師を任命し、斬新なアイデアを提案してもらうのが狙いです」。
開学当初は、他の大学にはないことをやろうという意気込みはあった。
例えば、授業改善については、開学当初から授業アンケートを取っており、2003年からは各教員が改善計画を提示し、授業改善計画集を作っている。これを科目ごとにファイルにして、建物のロビーに置いて、学生がいつでも閲覧できるようにしている。それに合わせて、学生からの指摘を検討し、どのように改善するかを全教員に出してもらって、他の教員の参考になりそうなものをピックアップして冊子にし、2009年度の分までまとめている。「昨年、受験生が減少したので、初めて予算編成で人件費削減に手を付けました。受験生の減少は危機であると同時に改革のチャンスでもあります。ここからどう挽回できるかチャレンジしていきたいと思います。現在はグランドデザインを作成すべく、学内で諮っています」。
就職率向上―志願者増―中退率改善の好循環を目指して
桜美林大学教授/日本福祉大学常任理事 篠田道夫
学校法人駿河台大学は、1918年、東京高等受験講習会を母体とし設立された大学予備校の草分けとして90余年の歴史を持つ駿河台学園がルーツ。大学を設置したのは1987年、法学部単科から学部増設を続け、特に2009年には「5000人キャンパス構想」に基づき、ニーズの多様化に対応したメディア情報、心理、現代文化の3学部を改組・新設、5学部体制に発展する。
しかし、18歳人口の漸減や景気の低迷の影響を序々に受け、志願者・入学者の減少が加速するとともに、経済的要因からか中退者が増加し、就職率も低下傾向を辿るなど負のスパイラル、悪循環に陥る傾向が出始めた。予定した収入を確保できない事態となり、初めて年度途中で予算の減額補正を行うとともに、期末手当の削減、経費削減などの手を打った。山コア善久理事長は、この事態をむしろ改革の好機ととらえ、経営戦略会議を立ち上げ、経営戦略室を設置するとともに大学の学務部にも企画課を置き改革推進体制を強化した。そして、改めて駿大全体のグランドデザインの策定に入るとともに本格的な教育改革に着手した。
特に重視したのは就職率の向上、これを学生募集の改善に繋げ、また学生の就職力を強化する教育改革の取組みの中で中退率も改善することによって上昇スパイラルを作り出す作戦だ。
この実行を担う川村正幸学長は、まず“駿大社会人基礎力”、(1)基礎的な力、(2)考える力、(3)行動に移す力、(4)協働する力、(5)総合的な力の五本柱を設定、その中身を一六の力に具体化した。すなわち、(1)@読解力A文章力B情報収集力、(2)C論理的・多面的思考力D情報処理能力E理解力F創造的発想力、(3)G主体性H行動力・実行力、(4)I常識力Jプレゼンテーション能力Kコミュニケーション能力L協調性、(5)M課題発見能力N計画力O問題解決能力である。そして「すべての授業科目をキャリア教育に」のスローガンを掲げカリキュラム改革を実施、全教員が自らの授業の中で、どのような“駿大社会人基礎力”を提供するか明示し、就職力向上を意識した教育を行うことで、学部教育全体で駿大社会人基礎力を育成し、全ての科目をキャリア教育としても機能させることを狙う。
さらにキャリアセンターを立ち上げ、それまで学部ごとに行われていたキャリア教育をセンターに統合、1年次から3年次までの積み上げ式のキャリア教育として体系化するとともに企業等への就職支援を一本化した。さらにキャリア教育専属の専任教員を配置するとともに、事務体制もキャリア教育課と就職支援課の2課体制に強化した。
また、1年次から4年次までのゼミナールは20人以下とし、少人数・必修を生かし1年次から段階を追って、駿大社会人基礎力に示された16の力を順次育成していくこととした。これに、10年ほどの歴史を持つアウトキャンパス・スタディ、商店街の活性化に取り組む「まちづくり実践」や「駿大の森」での体験活動、インターンシップなどを組み合わせ、就職力のバックグラウンドとして、実践力を高める総合的教育システム作りを進める。その効果の検証システムとしては、全学教務委員会が行っている授業アンケート、その点検結果に基づく全教員からの授業改善計画書提出、優れた取組みは授業改善計画事例集を発行し、また、必要な教員に改善を求めるシステムを充実、活用する。
事務体制も大幅に整備した。前述の企画部門の強化と併せ、それまで教員が担っていた教務部長、学生部長、就職部長等を職員から任命、組織的・効率的な運営を推進するとともに、教学各委員会に職員を正規メンバーで加える規定改定を行い、職員参加、教職員協働体制を抜本的に強化した。これも今回の全学教育改革の推進に大きな力を発揮すると思われる。
職員の人事考課は開学以来、年2回、期末手当支給査定として行われている。自己申告としての業務面談表の策定、業務実績評価、次期業務目標の流れで、フィードバックに配慮することで職員の力量向上に結び付けている。
また、部長会を新設、理事長が直接統括し、事務幹部と率直な議論や情報交換を行うことで、法人・大学の実質運営を支える機関として、スピード感ある業務運営の実現に寄与している。
厳しい状況を改革のチャンスととらえ、鮮明な目標・就職力向上をかかげ、この一点に全ての力を集中することで、全学挙げた総合的な教学改革を推進する優れた取組みだと言える。