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平成24年12月 第2506号(12月5日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <34>
 堅実な経営が優れた教育を創る
 十文字学園女子大学



 十文字学園女子大学の前身である文華高等女学校は、1922年に十文字こと女史によって当時の女性の社会進出や職業婦人の養成を目的として設立された。戦後、短期大学が開学し、初等教育や食物栄養、家政、文学に力を入れ、1996年には社会情報学部を設置する大学を創立した。その後、短期大学の家政学科を廃止し、大学に人間生活学部を新設するなど、大学教育にシフト。人間生活学部は国際化、情報化を見据えて新「人間生活学部」を新コンセプトに、更なる改革を推進する。教学・事務の改革を横須賀薫学長、瀬倉通利事務局長、岡本英之法人副本部長、笠木貴和子総務部次長、柳澤貞夫同次長、荒川仁志企画課主任に話を聞いた。
 大学設立後、間もなく定員割れ。横須賀教授は学長代行に就任ののち、第一次教育体制改革に乗り出す。「過去、短大の受験生の列が途切れなかった、という成功体験を捨てない限り大学改革はできないと感じました。学生募集さえ頑張れば何とかなるだろうと考えていた教職員が多かったのですが、18歳人口減少はもっと厳しいものです」。
 学園創設の経緯を見ると、人間生活学部に重点化すべきと考え、短期大学学科の大学学部化、社会情報学部の廃止を提言。一般教育の改革として、全学科共通の「十文字学」科目を設置し、冠講座として資生堂やキングレコードなど様々な企業人に講演をしてもらう「総合科目」と、1年後期必修で、学生を読書漬けにする「読書入門」を導入した。学生たちが冠講座を熱狂して受講したことは他教員の意識にも変化を与え、多様な学力の学生にどのように向き合えば良いのかを考える契機となった。その結果、リメディアル教育センター、学生総合相談室などが設置され、手厚い教育支援を行う体制が整った。結果、受験者数は盛り返す。
 このような改革はどのように実現されたのか。2010年に教育体制改革推進本部を中心に、横須賀学長代行が主導して第一次教育体制改革案を検討した。この改革案を学内で議論するために全教職員を一堂に会した全学公聴会を実施。岡本副本部長は、「教職員が一堂に会する全学公聴会は、学科、コースの壁を越えて牧歌的な雰囲気に風穴を開ける契機となりました。改革案に対する自由討議の場ですので侃侃諤諤、多くの意見や質問が出ました。学長が教職員の意見を真正面から受けとめ全員の前で責任を持って丁寧に答えるオープンな意思決定スタイルは、教職員にとって新鮮で、結果として意見の対立の増幅ではなく、改革方針に対する納得と情報の全学的な共有につながりました」と当時を振り返る。「過去の成功体験」は簡単にはぬぐい去れない。ここにメスを入れるには、横須賀学長のような改革の主役となる教職員全員と真摯に向き合い民主的に合意を得ていくリーダーシップも必要となろう。現在は、学科再編を中心とした第二次教育体制改革が進行中だ。
 事務体制について。以前は部局間の厚い壁に阻まれ、全学的・組織的な仕事はできていなかった。柳澤次長は語る。「職員で集まって色々と提案を検討してみても、それが実行されない。誰に伝えれば実行されるかの仕組みがありませんでした」。
 瀬倉事務局長は2011年より事務組織改革に乗り出す。「部局間の壁を取り除かなければなりませんでしたので、まず始めたのが、部局横断のワーキンググループ(WG)です。昨年度は三つ走らせました。一つ目に、業務改善WG。日常業務の点検から始めて、他大学に訪問して新しい知見を得たり、部局間の仕事の無駄を効率化する改善提案を行っています」。
 笠木次長と荒川主任が続ける。「二つ目に、人材育成WGです。職員の目標・行動指針案を提案したり、新人職員のインタビューをしたり、能力アップのための書籍をそろえ「SD文庫」を設置したり、他大学訪問とその後の発表会を行いました。三つ目に、中途採用の若手で構成された教育情報の発信WGです。月1回、メンバーが大学内外の教育情報をまとめて教職員にメールで流すようにしています」。
 WG自体には期限がなく、部局間の壁をなくすという当初の目的が達成されたら解消する予定だ。「去年に比べると周囲の理解が得られ、メンバーからも積極的な発言がでてきました。提案は学長の元にある運営会議で諮られ、きちんと提案が協議される仕組みを学長と事務局長に作って頂きました」と柳澤次長。
 瀬倉事務局長自らも職員評価制度の提案を行い、導入に際しては自らマニュアルを作成し、学内研修の講師も務めた。一連の教学・事務改革の成果もあり、職員側から提案が行われ、教職の関係は以前に比べると、対等になりつつあるという。
 最後に横須賀学長に女子大の今日的意味を聞いた。「いわゆる男女平等、社会参画といった、ジェンダー的女性論の時代は終わりました。これからは、山登をする女性「山ガール」や歴史好きの「歴女」といった、文化的側面の女性の存在をどのように意味づけていくか、この辺に女子大学の意義が生まれてくるのではないかと考えています」。

一貫した姿勢と基本を大切にする安定運営の成果
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 「ひとりの学生をどこまで大切に育てることができるでしょうか。十文字学園女子大学はそのことに真剣に取り組んできました。」大学案内の冒頭の言葉通り、実直に学生の育成に向き合ってきた。「教育を受けたいと思う女性が一人でも多く学べる私立学校をつくりたい。」大正期の創立当初より社会に役立つ職業人の育成を目指す。大学設立から15年と新しいが学園創立90年、日本の女性教育の草分けとして、「良質な教育・研究を維持していくことが大学発展の基本」(自己評価報告書)という姿勢を一貫させている。
 これまではどちらかというと伝統重視の安定志向だったが、環境激変の中、学生を大切にする教育は現状維持だけではできない。2011年、2学部のひとつ社会情報学部を廃止し、人間生活学部1学部7学科体制にする大きな改革に踏み切った。大学界全体は学部増、専門細分化の方向にあるが、大括りがもたらす学生のメリット、学部の境を無くし学生が縦横に学べる学習環境、柔軟な履修システムを目指す。高校生のニーズも踏まえ、また創立の理念に従い学部全体を資格取得というコンセプトに統合することで志願者も増え、また職業人材育成へ目的を明確にしたことで教職員の意識統合も図った。大きな改革は未体験という中、会議室に「教育体制改革推進本部」の看板を掲げ、教職員全員に学長が直接説明する全学公聴会を何回も開いて徹底議論、意思一致することで家族的、牧歌的風土を徐々に変え、学生本位の改革という考え方を浸透させていった。
 しかし、学部は一本にしたが7学科バラバラのタコつぼ型の教育はすぐには変わらない。現在、第二次教育体制改革会議を立ち上げ改善を進める。横断的教育の強化を目指し、総合科目・十文字学を立ち上げ、初年次ゼミ、入門ゼミ、総合ゼミ、読書入門などきめ細かい指導を充実させると共に、冠講座では資生堂やキングレコード、野村證券、毎日新聞、埼玉新聞など学生に関心の高い著名企業の協力を得て実社会と密着した教育を行う。リメディアル(学力保証)教育はセンターをつくって支援、伝統的な90%を超える高い就職率を維持させるためキャリア教育にも力を入れる。授業公開や授業参観などのFD活動も重視する。こうした教育改善活動で教員の意識も変わってきた。
 これらの取り組みが持続する背景には、改革を推進する安定した運営体制がある。2006年頃から将来構想委員会、企画運営会議等と名前を変え、現在は企画委員会が中長期の見通しを持った改革方針の骨格を練り、事務機構の企画課が支える。それを学長の下に置かれた運営会議で議論すると共に経営と教学でつくる協議会で意思疎通を図り、全体教授会で審議する。職員も各種会議には正規メンバーとして加わり提案・発言できる。会議の議事録はすべてネット上で内部公開されており、自由に閲覧でき情報はオープンだ。短大時代から法人側と大学側の意思疎通を重視し、法人本部は発祥の地・豊島区北大塚にあるが理事長は毎週、大学のある新座に出向いて公式、非公式の意見交換を行う。基本を大切に、コミュニケーション重視の円滑な運営が根付いている。
 しかし、単なる円満、無難な運営を行っている訳ではない。学生本位の教育を進めるためには個々の教職員の努力目標も明確にし、その達成度・評価を厳正に行う。教員は教育(授業とそれ以外の就職、学生相談等)、学務、研究、学外の社会貢献のそれぞれ四つの領域ごとに評価項目、目標とその内容を記載、年度末に評価する。職員も態度・能力評価シート、業績評価シート(いつまでに、何を、どの水準までやるか)、目標以外の業務の取り組み状況(中心目標以外の業務の内容、その取り組みと結果)の三つのシートにチャレンジしている取り組みを記載し評価する。このために専属の人事課評価室が置かれ、自己点検評価、教員評価、職員評価を所掌、専門的に管理・運営する。職員は、重要テーマごとにWGをつくり、積極的に提案をまとめ発信するようになった。現在、教育情報発信WG、業務改善WG、人材育成WGが活動している。全員で知恵を出しまとめ上げる一体感、調査・分析、全員によるプレゼンなどを通して職員の提案力量の強化も狙う。これまでにない取り組みだ。
 十文字一夫理事長、横須賀学長の下、「世の中に立ちてかひ(甲斐)ある」(建学の理念)女性育成に一貫して堅実、誠実に取り組むことで、優れた成果を生み出している。


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