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教育学術オンライン

平成24年10月 第2501号(10月24日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈58〉
  教育・研究の充実に傾注
  ものづくりが大学の柱 実学教育で人材を育成
  愛知工業大学

 ものづくりを柱とした“工科系総合大学”である。愛知工業大学(後藤泰之学長、愛知県豊田市)は、開学以来「ものづくり」の盛んな地域に位置する特性を生かし、実学教育に取り組んできた。2009年に大学開学50周年を迎え、今年11月には学園創立100周年を迎える。この歴史と伝統が物語るように、多くの優れた人材を産業界に輩出してきた。現在、日本の産業界の明日を支える人材を育てるため、先進的な教育を実践。最新施設を備え、充実した学習環境のもと、各学部で実践を重視した学びを展開している。社会から「就職に強い愛工大」との評価が高い。「長年にわたって培われてきた伝統を確実に継承し、時代のニーズに応えながら、イノベーションや社会の発展を見据えて、常に変革を続けたい」と語る学長に教育研究の中身、大学のこれから、などを聞いた。
(文中敬称略)

今年が学園創立100周年 就職に強い愛知工大

 中国のことから紡ぐ。40年前の「ピンポン外交」の立役者は初代学長の後藤ナ二だった。現学長、泰之の祖父にあたる。1971年に名古屋で開催された世界卓球選手権大会に中国は文化大革命後初めて参加した
 それまで中国は、政治的理由から世界選手権に参加していなかった。後藤は自ら北京へ赴き、周恩来総理に「卓球を通じて日中の友好を深めよう。それが将来の日中国交正常化の架け橋になる」と説得。周総理は「後藤氏のような友好人士は支持しなければならない」と最終決断を下した。
 後藤ナ二の熱意が中国の参加を実現させ、それが米中、日中国交回復という大きな歴史的転換点を作りだした。もし、この大会への中国の参加がなければ、米中、日中の国交回復はもっと遅れ、世界の現代史そのものも変わっていただろう。
 愛知工業大学は、中国・南京にある国立・東南大学と1980年に姉妹校提携を結んで以来、交流を深めている。提携当時は、中国政府教育部直轄の重点大学が、海外の大学と正式に提携を結んだ初の事例として注目を集めた。
 「現在も定期的な相互訪問や、学生の留学、多様なテーマでの共同研究などを進めています。卓球のほうは、かつて五輪選手を出したこともありました。いまでも、東海地区では圧倒的な強さで優勝を重ねています」
卓球、硬式野球は強豪
 日本卓球リーグ東京大会(前期)では、一部リーグに参戦、実業団チームの中、愛工大は、6勝1敗と健闘、2位にランクインした。「硬式野球部、フェンシング、ラグビー部なども頑張っています」
 さて、愛知工業大学は、1912年設立の名古屋電気学校が淵源である。1954年、名古屋電気短期大学を設立、59年、名古屋電気大学を設置、60年、愛知工業大学に改称した。74年、現在地(八草)に移転を完了。
 2000年、経営情報科学部を開設。05年、名古屋市千種区に本山キャンパスを設置。09年、経営情報科学部が経営学部と情報科学部に分かれ3学部、7学科、14専攻に。10年、千種区に自由ヶ丘キャンパスを設置。
 経営学部、情報科学部を設置した理由は?「経営学部は、もともとあった工学部経営工学科を発展させ、ものづくりを支える経営、トヨタ生産方式や品質管理などを学びます。情報科学部は、コンピュータやメディア表現といったICTの時代に即応した学びを展開しています」
 現在、工学部、経営学部、情報科学部の3学部に約6000人の学生が学ぶ。キャンパス別にみると、八草は工学部、情報科学部、工学研究科、自由ヶ丘は経営学部、本山は経営情報科学研究科がある。
 各学部の教育・研究について。「今、学問の世界ではこれまで以上に学際化・国際化が進み、一方で、社会は変化に適応できる高度な専門知識をもった人材を求めています」と現状認識を示したうえで続けた。
 工学部は、パワーエレクトロニクスやバイオテクノロジー、メカトロニクスや建築・デザインまで、幅広い工学分野を対象とする5学科9専攻。「地元産業界との協同研究も推進し、日本の産業界を支えるエンジニア・研究者を養成します」
 経営学部は、経営学の最新理論をベースに情報処理やマーケティング、スポーツなど、専門性を高める学びを展開する3専攻。「ビジネスの最前線で活躍する教員による講義に加え、資格取得に直結する授業も数多く開講しています」
 情報科学部は、ビジネスや社会に大きな変化をもたらすICTの最先端領域にアプローチする二専攻を設置。「学生にノートパソコンを貸与。実践力があり、産業界の活性化に貢献するソフトウェアエンジニア、クリエーターを育成します」
チャレンジPに助成金
 「学生チャレンジプロジェクト」は、学生の「ものづくり」への情熱をサポートする制度。企画審査によって総額1000万円(1件あたり最高100万円)を助成する。鳥人間コンテスト、人型ロボット、レースカー、ソーラーカーなどのプロジェクトが選ばれている。
 「座学だけでなく、ものづくりで完成したり、成功したという喜びを味あわせ、元気ややる気を引き出したい、という思いでスタートさせました。みな、目を輝かせて取り組んでいます。成果は秋の大学祭で発表されます」
 プロジェクトの多くは、「みらい工房」で制作される。「創造をカタチにする、ものづくり実践の場です。工学の原点ともいえる『ものづくり』の楽しさや魅力を実感し、挑戦する力を育てる場でもあります」
 就職について。今年3月の卒業生の就職率は、工学部92.9%、経営情報科学部(09年に経営学部と情報科学部に改組)87.7%。『サンデー毎日』の「学部系統別就職率ランキング」の理工系学部で工学部が全国11位(愛知県では2位)、商・経営系で経営情報科学部が全国8位(愛知県・東海三県では2位)。
 「本学では、学生一人ひとりが自分の能力、適性に応じた進路が選択できるよう、キャリアセンターと各専攻担当教員との間で密接な連携を取りながら就職支援にあたっています」
資格取得のための講座
 キャリアセンターは、多数の就職支援プログラムを用意。通常の授業とは別に、資格取得やスキルアップに役立つ実学的な講座「エクステンション講座」を開講。資格取得や検定試験の願書入手・出願などのバックアップのほか、開講されていない講座は専門学校と提携、特別価格で受講できるという。
 地域貢献の一翼をエクステンションセンターが担う。さまざまな公開講座を開講している。「本学が持つ教育・研究機能を、大学という枠をこえて、学ぼうとするすべての人たちに、広く社会に開放することが目的です」
創立100周年に映画製作
 学園創立100周年に向けて。大学開学50周年のときは、映画「築城せよ」(古波津陽監督)を製作して話題を集めた。「映画はものづくりの集大成。学生にナマのものを体験させたい。学園創立100周年でも映画製作を考えています」
 大学のこれからを聞いた。「社会の役に立つ人材の育成という実学主義は変えるつもりはありません。それを守るだけでもいけない。社会のニーズに合わせ、グローバル化を見据えつつ、新たな価値観で、更なる教育・研究の充実・発展を目指していきたい」
 いま、中国との関係が緊張の度を増している。初代学長の後藤ナ二の考えを聞きたいところだが、それは適わない。それはともかく、祖父の代から学園の理念としてきた「教育・研究の充実」は、孫の代になってもいささかも揺るがない。


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