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平成24年10月 第2500号(10月17日)

知の拠点から
  福島県塙町を「食と健康」で支援
  〜地域の絆と特色生かす全学的取組〜


東京聖栄大学理事・事務部長  高橋成彰

塙町って、どこ?
 昨年11月の「聖栄葛飾祭」(大学祭)で、こんな会話が聞かれました。
 塙町(はなわまち)は、福島県南部に位置し、人口約9800人、風光明媚な山間の町で、東京聖栄大学が所在する東京都葛飾区と、「災害時における相互応援協定」を締結している町です。
 江戸時代に発見された湯岐(ゆじまた)温泉は、若返り美肌の温泉として知られ、国道沿いの「道の駅はなわ」では、新鮮野菜や町特産品を利用した物産が並び、連日多くの人が来訪していました。
 しかし昨年3月に発生した大震災と原発事故が、観光客の激減、農産物など特産品の売り上げ減少をもたらし、町は深刻な影響を蒙りました。
 東北応援の企画をぜひ「聖栄葛飾祭」で実施したいと考えていた学友会のバザー担当学生達がこのことを知り、被災地支援の一助になれば、との思いから、塙町の特産品販売が実施され、このことがきっかけとなり、相互交流と本学の対応が始まりました。
町長さんからの要請と対応のスタート
 「聖栄葛飾祭」の終了後、程なくして、菊池基文町長から、本学の福澤美喜男理事長・学長あてに、お手紙をいただきました。
 お手紙は、「聖栄葛飾祭」での交流をきっかけに「道の駅はなわ」への支援や新しい加工品の開発に貴学の協力を得られるか、との打診でした。
 本学は収容定員640名という小規模な大学ですが、「食品」と「健康・栄養」を柱とした学科構成を特色とする大学です。
 塙町から求められた、食品の加工や開発などを専門とする先生方が複数おられることから、要請の主旨は教授会に報告され、東北応援の観点から、まずは、現地調査を行うこととなりました。
 松本信二健康栄養学部長、吉田光一食品学科講師、職員2名の計4名が、平成23年12月23日から宿泊での現地調査を行いました。
 現地では、大震災・原発事故の影響をはね返すべく奮闘しておられる菊池町長をはじめとする町役場の関係職員、道の駅関係者、農家の方々等、幅広い関係者との意見交換会・現場視察が行われ、本学教職員が実情の把握と要望事項の収集にあたりました。
 本学に期待することとして寄せられた要望は多岐に亘りましたが、@「道の駅はなわ」の加工品へのアドバイス、A大学生の若い感性・視点で「道の駅はなわ」活性化へのアイデア出し、B新しい加工品づくりにヒントが得られるような本学教員による講演会や現地指導の実施、C減少している観光客の回復、D交流の実績を踏まえた24年度の取組、という五項目が主な要望事項でした。
学生の取組(T)
 これらの現地要望事項が本学に持ち帰られ、早速動き出したのは、食品学科・調理学第二研究室所属の学生たちでした。
 学生グループ9名(戸枝舞華代表)は、町役場の天沼まち振興課長からの情報提供を受け、福島県庁が公募していた『平成23年度大学生の力を活用した集落活性化事業』という県の補助金が交付される事業に応募し、見事に採択を受け、必要経費の裏づけを確保してから活動を開始。
 「道の駅はなわ」活性化のヒントを得るための東京におけるアンケート調査を実施したうえで、平成24年2月25日から、宿泊で塙町の大蕨・大畑地区において、生産者が「道の駅はなわ」に出品している商品の実情、農産物を六次産業化する産品開発の可能性等を調査しました。
 学生たちは、「道の駅や地域に若い人が少ない印象。大学生である私たちがアイデアを出そう!」という率直な感性をベースにして、『集落活性化調査報告書』としてアイデアや調査結果を取りまとめ、福島県庁及び塙町関係者に提出しました。
 @商品シールを見やすいものにする、A複数の農家が取り組んでいる「竹パウダー」を農業利用した農産物にブランド名を付け、Bそれに伴ってシールも作成する、Cポップや商品レイアウトの統一などなど、食品を学ぶ食品学科の学生達らしいアイデア提案が行われました。(指導教員:吉田光一講師)
 これらの提案のうち、ABについては早速実現が図られ、現在、「は★竹まる」(イラスト)という名称で販売が展開されており、学生のアイデアが実を結びました。
学生の取組(U)
 「聖栄葛飾祭」で東北応援企画を行った学友会は、他のバザー売上金も合算し、義捐金を塙町に贈呈しました。
 この義捐金は、塙町駅前に建設中であった大町コミュニティーセンター(バス待合所を兼ねた施設)で、大型液晶テレビ一式、掛時計2個という形で寄付され、バスを待つ町民の方々に喜ばれる品物に姿を変え、被災地を支援したいという学生の願いが実現されました。
学生の取組(V)
 福島県地域づくり総合支援事業(サポート事業)を活用した「はなわダリちゃんショップ」。町の花ダリアをもじって命名されたアンテナショップが、平成24年7月24日、本学4号館脇にオープンしました。
 新鮮野菜、ダリアの切り花、町の特産品等を都市部へ直接届ける拠点づくり、との主旨で町役場の方々が構想し、「はなわふるさと物産直売センター組合」、「道の駅はなわ物産組合」というふたつの組織が運営主体となる施設です。
 オープンを控えて本学学生にお手伝いの声がかかり、学生達は、レジ係や品物の整理、品札づくり等に、ほぼ二人ずつが交代で参加し、ショップの盛り上げに元気な若い力が発揮されています。
 なお、「ダリちゃんショップ」は、口コミなどで知れ渡り、週三日の開店日(火・金・土)にはシャッターが開くのを待ちきれずお客様が並ぶほど、JR新小岩駅北口で話題のお店となっています。
教員の取組
 町長さんからの依頼を踏まえ、東北応援の観点から、食品学科の教員を中心に、現在、左記のような取組や研究・開発が進められています。
 @竹パウダーを使用して栽培した塙町特産イチゴを使ったオリジナル・ジャムの試作(松本信二教授)、A特産品を生かす加工品づくりの現地指導(同教授)、B塙町の花・ダリアの球根漬け、そばシュー(シュー生地に町特産の蕎麦粉を入れたシュークリーム)など、新たな加工品レシピの開発(吉田光一講師)、Cえごまを活用した加工品など、東北全体を視野に入れた加工品の検討をカ專コ本フードスペシャリスト協会助成金等の外部資金を得ながら実施(筒井知己教授)、その他、これらを生かす商品パッケージングについても検討を行う予定です。
 困っている人がいたら放っておけないという、映画『男はつらいよ』の寅さんの土地、本学が所在する葛飾の人情が、教員には少なからず宿っているようです。
本学の特色を生かした支援の継続
 塙町は幸いにも放射線の影響が少なくて済んだ地域ですが、全県的な風評被害のあおりを蒙っており、東日本大震災がもたらした様々な困難に直面しています。
 東京聖栄大学としては、「食品」(食品学科)と「健康・栄養」(管理栄養学科)という本学の特色を生かした支援をこれからも継続し、少しでも被災地のお役に立てればと考えています。
 私学の皆さん! 福島県南の名湯・湯岐温泉や塙町を是非一度訪ねて下さい!

 

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