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平成24年10月 第2500号(10月17日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <28>
 学園一体運営で誠実に教育創り
 関西福祉科学大学



 玉手山学園は、1997年に社会福祉学部社会福祉学科を設置する単科の関西福祉科学大学を設立。以後、矢継ぎ早に健康福祉学部、保健医療学部を新設し、現在は3学部5学科2専攻を設置する。江端源治理事長・学長(以下、理事長)は人一倍教育に熱心でアイデアマン。そのアイデアを受け止め、現実に落とし込むのがミドル層である。江端豊和常務理事・法人本部長・副学長、八田武志副学長・教育開発支援センター長・教務部長、奥田孝司理事・事務局長、今村俊治事務局次長兼総務部長、浦城 均法人本部長補佐・経営企画室室長に改革の話を聞いた。
 「理事長は、出来るところからやってみろと。例えば、若手教職員で構成したプロジェクトチームを作り、大学広報に使える学部の強みなどの再発見に取り組み、報告させました」と奥田事務局長は語る。
 大学設立以来、新学部の設置準備等に追われたが、2007年頃に一区切りつくと、理事長は幹部に「中長期計画を作ろう」と伝えた。こうして第1期中長期計画(2008〜12)が策定された。
 さらに、第2期(2013〜17)の策定では、江端理事長は学園にどのようなリソース、また課題があるのかを全て集めようと訴え、計画に入れるべき項目を全教職員から募った。その結果、項目数は大小様々に73にも及んだ。「ここから取捨選択するのに四苦八苦しまして、学園の将来を見据えた方向性や基本方針がなければ選択も出来ないことが分かりました」と奥田事務局長は振り返る。それを理事長に伝えるとこう返された。「それでは、ミッションやビジョンを再点検して明確化しよう」。
 これまでにも大学の方針等は、年始の挨拶など様々な場面で繰り返し伝えられてきたが、それらを統合して理事長自らが再定義した。「最終的には五項目に集約されたので、これに基づいて項目を精査しました。回り道だったのかもしれませんが、教職員の参画意識も高まり、結果的に良かったと思います」と奥田事務局長。
 中長期計画の実施計画を更に具体化したのが運営計画であり、推進のツールとして、進捗フォロー表を活用している。これは難易度、戦術、担当部署、具体的事項を書きこみ、確実にプランを実行するための仕組みである。進捗状況は毎週の執行部会で確認され、これをもってPDCAサイクルを回し、次年度に繋げる。個人の目標設定、人事考課制度が連動し、教職員の処遇にまで反映するようにした。「人事考課制度は、理事長の強い意向もあり、中長期計画の策定より早く導入されていました」と浦城経営企画室長は振り返る。
 教学はどうか。教務改革は八田副学長が着任した4年前から本格始動。カリキュラムの構造化のための科目整理、教養教育の充実を行った。また、キャリア教育は1年から3年まで必修とした。「芸術科目は、新しい教員を採用せずに、全ての教員に得意なことがあるので、陶芸に詳しい先生に話してもらうとか、そういう構成で作りました」と八田副学長。
 初年次教育、入学前教育、FDといった教育改革の中核となる「教育開発支援センター」は副学長が自ら指揮を執る。事務局の教務部や教務委員会ではなかなか課題が解決しないので、学部組織の外にセンターを置いた。「他にも授業評価、満足度調査、教学IR、シラバスのチェックなど委員会ごとにバラバラで行っていたものを集約して組織化しました」。
 今村事務局次長は教員採用のプロセスについてこう解説する。「大学評議会で最終の教員審査を行いますが、候補段階で理事長、経営教学協議会メンバーが面接を実施します。その後、人事委員会を経て教授会へ。また、学長、学部長選出は選挙で行わないなど、教学に理事会の方針が濃く出る仕組みとなっています」。
 教職協働はだいぶ浸透してきた。「『職員に教員と対等に話せる力量をつけなさい』と言っています。職員自身が教員と対等に、さらには教員から頼られるよう、力を付けることが大切です」と江端法人本部長は語る。
 トップが責任を持って、大きな方向性を示す。もちろんトップの意向のみだと、現場が付いてこない。従って、現場からの意見を江端法人本部長らが上手に吸い上げつつ、理事長の意向を受けて、どのように現実に落とし込んでいくか。同学園の経営は、理事長と法人本部長・事務局長といったミドル層の二人三脚、阿吽の呼吸がなせるものなのである。

目標・計画を意識的に浸透、当事者意識と情熱で改革推進
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 建学の精神「感恩」。ありがとう―感動・感謝から人の幸せを願う行動へ。この教育を、当事者意識、情熱を持って、誠実に、愚直に、そして構成員の総力を結集して実現すること。江端理事長のこの熱いメッセージは、この学園のビジョン・中長期計画の基本精神に貫かれている。「教育に情熱のない教職員に教えられる学生は不幸である」「目が輝き、夢が語り合える学園」「確かな教育力と情熱を持った教職員魂の高揚」。これらの言葉が示す通り、気合のこもった教育への熱情こそがこの学園を動かしている原動力だ。
 中長期計画は最初から整っていた訳ではない。創立から70年の歴史を持つが、大学設立は15年前、当初は運営を軌道に乗せるため四苦八苦だった。2008年ようやく第1期中長期計画を策定したが、実現性のないものもあったり、そもそもバックボーンとなる学園の理念が不鮮明だった。第2期の中長期計画の策定過程の中で理事長の思いを言葉にし、ミッションに整理することで一本筋の通ったものとなった。
 中長期計画の柱は五つ、@豊かな心の育成、A学園教育事業の質向上と規模拡大、B地域貢献、社会に必要とされ愛される学園、C教育環境の充実、D学園総合力向上と社会に誇れる学園ブランド力の確立。この柱ごとに具体的項目が設定され、大学、短大、高校、幼稚園、法人本部別に課題・方針が策定されている。
 優れているのは、第一に建学の精神から使命、ビジョン、計画が一貫した流れで、一覧できること、第二は原案策定に当たっては一般教職員からの提案も全て一旦は「素材案」に加え、そこから原案を練っていくという強い参加型方式として当事者意識の形成を図ったこと、第三に計画ごとに責任者・担当部局と難易度を明記し、戦術(アクションプラン)を詳しく書き込み、それを9月と1月の2回、達成状況を記載、自己判定と所属長の判定を行う到達度チェックシステムを作り上げたこと、第四に基本理念(大学の使命、教育理念、教育目的・目標)を浸透させるため、昨年1年は執行部会や大学評議会、職員朝礼で会議の都度全員が声に出して唱和、理事長・学長からも所信表明等の形で、直接、大学・学校ごとの説明を行うなど徹底を図ったこと。さらに第五には具体的な教育活動や業務に結び付けるため、数年前からスタートした教員、職員双方の教育評価、人事考課制度にこの目標を連結させ、達成目標の中に意識的に入れ込み処遇に反映する評価を行うことで、計画の実効性を高めようとしている。
 ミッションを実現するための教育改善システムの確立にも努力する。学生による授業評価アンケートは年2回、非常勤まで含む全科目を義務化、授業評価と学生自身の自己評価の両面から調査、授業理解にも踏み込む。学生満足度調査も毎年実施、調査・分析のため授業評価委員会、満足度調査委員会を設置する。FD委員会も設置、授業参観を実施し参加者から意見を募り、公開者は自己反省、授業改善の材料にし、参観者は授業のあるべき姿を考える。これらは全学教育の管理を担う教育開発支援センターの一元的管理の下に行われ、入学前教育、初年次教育、キャリア教育も所管する。センター長が兼務する教務委員会がシラバスチェックも実施する。教育の魅力は、理事長・学長を先頭に若手教職員で「Fukka(関西福祉科学大学)の素晴らしさWG」を編成、強み、特色の掘り起こし、感銘・感動の言葉でキャッチコピーの作成を試みる。
 教員採用は理事長承諾の下で選考開始、採用候補者に事前に理事長が面接してから教授会に諮る、学長、大学主要役職者も理事会で直接選任するなど、仕組みとしては強い理事会権限を保持している。一方、運営は細心の注意を払い構成員の意見を尊重する参加方式をとる。それを支える運営体制が経営・教学・事務トップで構成される経営教学協議会であり、議事ごとに全学の諸会議のどこで審議決定すべきか丁寧に調整、円滑運営の要になるのが執行部会である。法人も常勤理事で構成する運営理事会が中核となり、設置する五つの学校の幹部で構成する所属長会が同一キャンパスにある利点を生かし丁寧な議論で一体運営を作り出す。構成員の思いや意見を踏まえ方針の軌道修正を柔軟に行い、構成員の総意を生かした運営に努力することでいわゆるトップダウン的要素を払拭し自覚を促す。学園全体の一貫した政策の立案・推進は、法人事務組織である経営企画室や大学事務局の総務部企画チームが支える。
 トップの情熱を政策と組織の両面から支える運営システムを確実に作り上げることで「学園ファミリー」型の一体運営、構成員の主体的行動を喚起することに成功している。


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