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平成24年10月 第2499号(10月10日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈56〉
  積極的な学びの機会を創出
  少人数教育と実践型教育 資格取得をサポート
  桐蔭横浜大学

  「一人ひとりの学生に、かけがえのない『学び』を」が合言葉だ。桐蔭横浜大学(小島武司学長、神奈川県横浜市青葉区)は、1988年、学校法人桐蔭学園によって創設された。附属中高の進学とスポーツ実績が示すように勉学と個性の充実の双方に重点をおく桐蔭教育をベースとしている。社会の仕組みを支え、幅広い場面で活躍できる力を育成する法学部、工学的視点と技術で、医療の新たな時代を担う人材を養成する医用工学部、スポーツに新たな価値を見出し、その活用によって社会貢献や問題解決をめざすスポーツ健康政策学部の三学部からなる。それぞれが特色ある「学び」を展開している。最大の特色が「少人数教育」と「実践型教育」。「学生と教員の双方向の対話を重視・実践していくことで、学生の可能性を最大限に引き出し、積極的な学びの機会を創出したい」という学長に、大学のこれまでの歩みとこれからを尋ねた。
(文中敬称略)

桐蔭教育がベース 勉学と個性の充実

 桐蔭横浜大学は、1965年に開設された桐蔭学園工業高等専門学校(機械工学科・電気工学科・工業化学科)が淵源である。1988年、桐蔭学園工業高等専門学校を発展改組して、桐蔭学園横浜大学(工学部)が創立された。
 1993年、法学部を開設。97年に桐蔭横浜大学に改称。99年、工学部を改組(第1次)、04年、大学院法務研究科(法科大学院)開設。05年、医用工学部を開設、工学部を改組(第2次)。08年、スポーツ健康政策学部を開設。
 キャンパスは多摩丘陵の一角に広がる。10年、新校舎(大学中央棟)が竣工。スポーツ科学系、医療系の実習室やクリエイティブスタジオのほか、600名収容の大講義室などモダンな施設が揃った。現在、法学、医用工学、スポーツ健康政策学の3学部に2200人の学生が学ぶ。
学長の小島が大学を語る。「総合大学としての地歩を着実に築いています。桐蔭学園の中で初等、中等教育と並び立つ第二の柱として学生の成熟力重視という独自の校風があります。地域社会に基盤を持ち、世界に通用する大学となるべく、高い志を持って主体性重視の高等教育を展開したい」
 こう続けた。「学生が強い知的好奇心、社会的公正への志、平凡なことも非凡に追求する探究心を持って今日の社会に欠けているものを満たしてくれるものと信じて教育に打ち込んでいます」
 今年4月から、二人の副学長を置いた。ねらいは、教育の質の向上とスポーツ振興。「教育面では、付属高校のトップクラスを本学に進学させるなどして有余な人材を集め、司法試験合格者を増やしたい。大学スポーツを強化することでブランド力を高めたい」
 3学部の教育を説明する。「法学部は、憲法・民法・刑法など基本7法を中心に、法全般にわたる社会的機能や思想的背景などの把握に努めています。法科大学院進学による法曹、企業法務部などの専門職、司法書士などの隣接法律職などの資格・能力の取得に特化したプログラムを用意しています」
 「医用工学部は、少人数教育による面倒見の良い学部教育と共に、研究と教育の一体化を推進。学生を研究室に配属、『大学院との連続体としての学部』というコンセプトに基づく教育に取り組み、チーム医療を支える人材を育成しています」
 「スポーツ健康政策学部は、スポーツ界の指導者、自治体の政策立案者、初等・中等教育の教員などを養成するため、体験とサービスを核にした、新しい教育スキームを開発。スポーツ界の新潮流の一つを生み出すための努力をしています」
 法科大学院は、大宮法科大学院(さいたま市)と、本年から統合作業に入り、2016年を目途に完全に統合することになる。「練達の実務家と気鋭の研究者のチームによる双方向・多方向の対話型授業を実践してきました。統合により、分散していた法曹志望の社会人を集め、効率的な教育が出来るようになります。既に医師、公認会計士、税理士、金融工学エキスパート等の資格を併せ持つ最高の学際的人材養成の実績もあります」
 01年、メモリアルアカデミウムを開設。法学部や法科大学院の学生が利用する。横浜地方裁判所旧庁舎で陪審裁判のための法廷として使われていた「特号法廷」を移築。国内で現存する陪審法廷は、同大と立命館大学にあるだけだ。
 少人数教育について。「少人数制にこだわり、数名ないし10数名という少人数のグループで一クラスを編成することもあります。全学部でクラス担任制を採用。きめ細かな指導と学習へのフォローを実現。教員と学生との距離が近く、教師と学生の人間関係を深めています」
実践・体験型授業展開
 実践型教育について。「3学部とも、模擬裁判、病院実習、プロジェクト研究などの実践・体験型授業を積極的に展開しています。教室での講義だけでは得られない知識や技術を、実体験を通じて身につけます」
 フレッシュマン教育にも力を入れる。「『タフに学ぶための基礎をつくる』を合言葉に、高校までの受身の学習スタイルから、主体的に学習や研究に取り組んでいく学びのスタイルへとスイッチ。初年次教育から全員参加のゼミを導入、充実の学びを始めています」
 学習サポート施設の「インディ・カフェ」。「お茶を飲みながら勉強できる自習室や、個人指導が受けられるレッスン室を用意。授業の復習、レポート作成、試験対策で利用できる充実の施設です」
国家試験対策に傾注
 資格取得サポートが手厚い就職。公務員をめざす学生のためのガイダンスや講座、ICT能力を高めるJ検(情報検定)などに力を入れる。臨床検査技師、臨床工学技士の国家試験対策など、カリキュラムのみにとどまらずサポートを行っている。
 「本学のような小規模な大学は特色を強く打ち出していく必要がある。就職においては、少人数教育による、きめ細かな指導により、より多くの学生に国家試験の資格を取らせることに傾注しています」
 その資格をあげる。法学部は、警察・消防・行政等の公務員、司法書士、行政書士、税理士など、医用工学部は、臨床検査技師や臨床工学技士の資格試験合格、スポーツ健康政策学部は、教員免許をはじめ健康運動実践指導者、トレーニング指導者、スポーツクラブマネージャー、公務員などの資格取得をめざす。
 グローバル化にも積極的に対応している。「ワールドアドヴェンチャースクール」もそのひとつ。「海外の大学と提携を結び、国際交流を行う留学プログラムで、現在の提携先はアメリカ(サンフランシスコ)、中国の各地域。現地の人々との多彩な交流を体験することで視野を世界に広げ、いわば『武者修行』で人間力を高めさせたい」
 スポーツ健康政策学部は、語学力に力を入れる。「外国人の教員が7、8人の少人数クラスに分け、生きた英語等を教える直接法の授業をしています。コミュニケーション力を高めるのがねらい」
 今後、どういう学生を育てていきたいと思うか?「教職員一体の態勢で、企業社会と学界とのコラボレーションのもと、自由で創造的な頭を持ち、心温かく活力ある若者(クールヘッド、ウォームハートの持ち主)を社会に送り出していきたい。さらには少数の才能や個性の抜きんでた『希少価値』のある学生を対象に個別教育を通じて育てていきたい。外国法と日本法を同時に学び海外に留学するバイリーガルスクールなどがその一例です」
教育の質にこだわり
 最後に、大学のこれからについて、聞いた。「これまで教員は学生に知識を授けるという傾向が強かった。これからは、教員も学生も対等という意識を持って、具体的ケースを議論し合いながら教育の質を高めていきたい」。小島は、最後まで小規模大学だからこそできるという「教育の質」にこだわりをみせるのだった。


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