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平成24年10月 第2498号(10月3日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <27>
 「教育共同体」創る改革への努力
 高千穂大学



 高千穂大学は1903年に川田鐡彌氏が高千穂小学校を創立したことに始まる。その後、名門高千穂商業学校を開校、1950年には高千穂商科大学へ昇格。しかし、創設者の死去に伴ない経営不振になるも、卒業生らによって経営再建を遂げてきた。学園中興の祖である山一証券小池厚之助元社長も卒業生である。長年、商学部のみの単科だったが、経営学部、人間科学部を設置して3学部体制となった。学園創立100周年時には、退学率減少も期待して「父母の会」を作るなどユニークな試みも。大学経営について藤井 耐理事長、吉崎信彦理事・法人事務局長、千葉吉明大学事務局長に話を聞いた。
 藤井理事長が平成13年に学長に就任した際に一連の改革に着手。具体的には、@教員採用は、理事会・教授会・事務局代表による面接・模擬授業を実施し、研究業績のみで判断しないように変更。この結果、教育熱心な教員が採用できた。A教員と職員の地位のフラット化に着手。各委員会に職員が正式に参加。B連合教授会の組織形態をマトリックス構造とし、「連合教授会」における議案提出は学部教授会ではなく、教務や学生等各種委員会とし、大学の全体最適を志向し、学部セクト主義に陥らないようよう部分最適化を回避した。C学長選挙は、学内から3名以上の推薦を得られないと候補者になれない推薦立候補制とする等、教学ガバナンス体制の強化も図った。
 教学面でも手厚い学生支援を開始。入学時に配布される「学生生活充実ガイド」は単位履修のみならず、大学生としての心構え、大学での学び方(レポートの書き方やプレゼンの仕方など)、社会とのかかわりなど、学生生活について詳細に書かれている。
 就職支援については、「困ったときの就活ガイド」という冊子を発行するとともに、3年生の春と秋に全員面談を行う。特に就職に対する学生指導は綿密に時間をかけている。また、学生は、学業・キャリア・学生行事の視点で区分けされた「高千穂マスタープラン」に4年間の学習計画をそれぞれ書きこむことが奨励されており、更に、「学生生活目標管理シート」は、学生各自が具体的な目標設定をして、到達度をチェックする。「学習ポートフォリオ」のようなもので、これらは年度末に担当教員と学生が面談を行い、進捗状況を確認する。「これらも学園100周年を機に、(当時藤井学長の)学長室が中心に、入学者層の変化への対応、そして、中退対策を念頭に置いて作成しました」と藤井理事長は語る。
 各科目は、カリキュラムポリシーに従い、学習達成目標と「達成度を評価する判断基準(ルーブリック)」が連動しており、カリキュラムマップが構造化されている。このカリキュラムマップは藤井理事長が理事長就任当時に教学経営検討委員会(現理事長室)が中心に作成。「各教員に対する説明も大変でしたが、入学生を責任をもって育てるための主たる方法の一つとして何としても実現させたいという強い思いがありました。しかし、科目ごとに到達目標・成績評価基準を設定すると全体の統一性が取れない。一方、学部や学科単位では、様々異なる学問領域における専門科目間での調整が困難であり、実際にはコース・専攻単位にて「自分の担当科目がコース・専攻レベルにおける育成すべき学生像と照らし、いかなる目標を担うのか」を考慮しながら策定してもらいました」と千葉事務局長は語る。
 高千穂大学の驚くべき特徴の一つには、今から30数年前の昭和55年当時に、すでに「中期計画」を導入した学園運営が行われてきたことが挙げられる。これは中興の祖小池氏が理事長時代に導入したもので、今期で第六期となり、財政の健全化、教育の充実・質保証を重点課題に掲げる。
 毎年11月に理事長から次年度事業計画と予算編成方針が出され、それに基づき教学組織(各委員会)及び、事務組織が事業・予算計画を作成。これによって、理事会が各部局とヒアリングを行い決定する。「この仕組みで数十年来行ってきました。3月には次年度予算方針と事業計画について、又、5月には前年度の決算と事業報告を各々理事会・評議員会にて審議・決定し、ホームページで公表します。全ての過程で理事長自らも政策案について精査します。中期目標・中期計画・方針・事業計画・報告と一貫性のあるマネジメントを意識しています」と吉崎理事は述べる。
 職員研修については、研修材料として失敗事例をいくつか提出し、組織論研究者でもある理事長の講和を挟みながら、部門間連携として、あるいは、管理職としてどうあるべきか、又、課員はどのような動きをしなければならないかについてディスカッションを行う。
 「日々、実行・検証を繰り返しつつ、いかなる政策が、又、マネジメントが最適かを考えています」と藤井理事長は最後に付け加えた。

30年の歴史を持つ中期計画を軸に教育を充実
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 「家族主義的教育共同体」。高千穂大学が掲げるこのミッションそのままに、少人数でキメ細かな教育が実践されている。授業の7割が40人以下、1年〜4年まで連続するゼミは12〜13人で、担当教員がアドバイザーとして年2回全員を面接する。100を超えるゼミが1週間、朝から晩まで成果発表する「ゼミ発表会」は他大学からも見学者が来る。答案やレポートにコメントを付して返却する教員も多く、成績不振の学生には父母も交えて懇談、就職に当たっては3年生全員と2回の面接を行う。1学年550人〜600人という規模を強みに変え、しかも教育の充実と学生成長を図るシステムにも工夫がある。
 その中の「高千穂マスタープラン」も優れものだ。学生手帳にA学習の視点Bキャリアの視点C学生行事の視点から身につけるべき知識や技能の目標モデルが、ゼミ、講義、資格、就活など具体的な形で項目ごとに設定されている。それを基に学生が「目標管理シート」に、履修計画、資格取得対策、クラブ活動の目標を練り上げる。4年間の学習計画書であり、目標を持った学生生活を意識づける効果を持つ。
 高千穂教育質保証運営委員会の取り組みも努力の賜物だ。バラバラだった講義科目の到達目標を見直し、履修コース・専攻ごとに専門知識とスキルの習得に関る10項目程度の学習到達目標を設定した。抽象的な目標では役に立たないため達成度合いを例示、達成度を評価する判断基準を具体的に示すことで、学生が学習の目安や到達を掴めるようにしている。
 教育を担う教員採用選考方式も徹底している。これまで教授会任せ、研究業績中心だった選考を改め、平成16年度より経営と教学が一緒になって最良の候補を選ぶ。連合教授会において決定された科目の公募条件は理事会で決め、研究業績上の審査を通過した複数(2〜3人)の候補者に対し、理事長、学長、教員代表、事務局代表が模擬授業を参観し評価、面接を行った上で最終候補者1名を決定する。この採用方式で、教員の教育熱心さは大きく前進した。
 これらの取り組みは、個々バラバラに行われている訳ではない。この大学には、現在第6期(2010年から2014年)となる中期計画があり、第1次計画は約30年前、1980年に遡る。中期計画マネジメントの日本で最初の大学の一つであることは間違いない。中興の祖と言われる小池理事長が自らの企業マネジメントの経験を生かして取り入れた。
 計画の柱は、教育研究の質向上、学生支援体制の強化、学習環境の整備、業務運営の改善、財務改善などを柱にしており、単なる経営計画ではない。むしろ教育の充実にシフトし、建学の理念の周知・徹底から始まり、学生の質向上施策、入試から就職に至る支援体制強化、学科・コースの充実方策、退学者減少対策、施設改築計画、教員人事計画、事務局ネットワークの再構築など多岐にわたる、そして、この実現には「本学園に奉職する全ての関係者が、自らに付与された職務を真摯に遂行する」以外にはないと強く呼び掛ける。
 しかも優れているのは、それを具体化した年度の事業計画でも、学士力向上や教育力向上、初年次教育の充実、退学者対策やそのためのアドバイザー活動の強化などを繰り返し具体的に求めていること。これは予算編成方針にまで貫かれ、財政投資計画の中に、学生支援への投資、FD活動や学士力具現化への予算措置、資格課程合格者増対策費、経済的理由で退学を申し出た学生への奨学金の拡充などきめ細かい予算措置が盛られている。これらの方針は全て理事長名で出され、トップの思いのこもったメッセージとなっている。
 理事長、学長の下には、これらの計画を立案し、強力に推進する中核部隊である理事長室、学長室が置かれている。改革は全学一体、全体最適の視点で行われなければならないという判断から学部中心のシステムを転換、連合教授会を最高意思決定機関にし、そこへの提案権は全学機関である教務委員会、学生委員会等専門委員会とし、各計画に盛られた課題・目標が全学統一で遂行できる体制とした。この全ての委員会には職員が参加し提案・発言ができる。これも、教員、職員は職種が違うだけで対等だという理事長の思いが反映したものだ。
 30年の歴史を持つ中期計画を軸に、特色ある「教育共同体」を作り上げてきた背景には、この改善を推進するシステムと教職員の努力が息づいている。


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