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平成24年9月 第2495号(9月5日)

男女共同参画 東京都市大の取組み
  ともに学ぶ場、ともに働く場を目指して


東京都市大学 男女共同参画室 室長 岡田往子

 男女共同参画社会基本法が平成11年に施行されて以来、大学でも様々な取組みが行われてきた。私立工学系大学として初めて文科省の女性研究者研究活動支援事業の対象となった東京都市大学の岡田往子准教授に寄稿いただいた。

 東京都市大学は武蔵工業大学としての80年間の工学系単科大学の経験を活かし、平成21年に文系学部設置を契機に総合大学として新しい一歩を踏み出しました。それと同時期に文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援システム改革 女性研究者支援モデル育成」(現、科学技術人材育成費補助事業 女性研究者研究活動支援事業)に採択され、今年3月で3年間の事業を終了しました。この事業は大学や公的研究機関を対象として、研究環境の整備や意識改革など、女性研究者が研究と出産・育児等の両立やその能力を十分に発揮しつつ研究活動を行える仕組み等を構築するモデルとなる優れた取り組みを支援するものです。しかし、本学で、出産・育児を経験しながら仕事を続けた女性は長い歴史の中で2名しかいませんでした。もともと女性が少ない環境で、女性の働き方を理解してもらうことは非常に難しく、「がんばる女性」として「例外」扱いされるだけで、その事例が取り上げられることはありませんでした。
 もともと工学系は男子の学部というイメージがあり、どこの大学も男性社会でしたが、近年女子学生の入学は徐々に増えてきています。本学でも女子卒業生は2000年までの50年間で約1200名であったのに対し、それからの10年間は1920名と飛躍的に増えています。さらに、車をはじめとした工業製品の女性の使用頻度が高くなったことや新たなものを生み出す力として多様な意見や発想が重要になっていることなどから、理工系分野の女性進出が求められています。本学は工学部の男性社会は当り前という意識に対しての一つのきっかけとして、「女性研究者支援システム改革 女性研究者支援モデル育成」に課題名「工学イノベーションにおける男女共同参画モデル」でチャレンジしました。
 本学では将来女性教員が増えたときのための環境を整えることが大きな目標として、意識改革を地道に進めて行きました。具体的には、「基本的な環境整備」、「プラス1Pj」、「科学とともだちPj」、「ロールモデル発掘Pj」、「広がれ!理工系大Pj」、の五つのプロジェクト(Pj)を立ち上げました【図】。
 「基本的な環境整備」は、本事業の骨格となる基本的な環境整備とそれを構築するための体制づくりを目的とした様々な取組みを行っています。研究と出産・育児等を両立できる環境の整備の検討、学内意識改革を目的としたシンポジウム、女性研究者紹介セミナー、学内ニーズの掘り起こしのアンケート調査、情報提供を目的としたニュースレターの発行や女性研究者や女子学生対象の相談室の設置などを実施しています。
 「プラス1Pj」は、本学独自の教育講師制度を活用して、女性教員のいない学科に1名の女性教員採用を促進する取り組みです。女性教育講師は、学科の専門科目の講義をし、研究は基本的にしないという条件で任期付ですが、女性がもともといない学科に女性と共に働くことがあたりまえとなる職場意識を浸透させる効果がありました。この三年間に教育講師だけではなく、専任勤務の雇用も増え、結果として理工系学部女性比率が8.6%でしたが、11.0%にアップしました。とは言っても、理工系分野に女性は少ないのが現状です。裾野拡大の一つとして、子供たちの科学の芽を育てることが重要です。
 「科学とともだちPj」は小学生・中学生・高校生を対象として、理科の面白さや身近な生活での理科の知識の必要性を知ってもらうために実験や講義を女性研究者及び女子学生と連携しながら実施しています。女子学生が接することで工学は男性のものという潜在的な意識を払拭する効果が期待できます。また、付属中高校とも連携し、女子の理工系進路支援の基盤づくりを行いました。毎年8月に実施される女子中高生夏の学校(国立女性会館主催事業)など外部団体の活動にも積極的に参加しています。
 裾野拡大のもう一つは在学女子学生の支援が挙げられます。学生の意識啓発などの他に、本学がこれまでに輩出してきた社会で活躍している女性研究者や技術者の情報を集めるため、女子学生の身近な先輩を紹介する「ロールモデル発掘Pj」を立ち上げました。先ず、女性卒業生約2300名を対象にアンケート調査を実施し、ネットワークを構築しました。ネットワークを活用して、ロールモデル集作成や座談会を実施しました。今後も女性卒業生のネットワークは大いに活用できる貴重な財産です。本学のような工学を機軸とする大学は、女性教員も女子学生も極端に少なく、男女共同参画を推進するにも担い手がいないのが現状です。
 「広がれ!理工系大Pj」は理工系大学でパートナーシップを促進し、女性研究者・技術者の交流を広げ、男女共同参画の支援と意識改革活動を進めていくものです。
 今、時代は男女問わない発想によるイノベーション創出が要求されています。最高学府としての大学は、男女ともに学び、ともに働き、さらにライフイベントを無理なく迎えることができる環境を整えることが大切です。そこで学ぶ学生は男女共同参画意識が自然に身につき、社会に巣立っていくようになります。そのためにも、大学間の連携や男女共同参画の支援と意識改革活動を進め、環境を整えていきたいと考えています。ご協力をお願いいたします。




 

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