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平成24年6月 第2484号(6月6日)

改革の現場
  ミドルのリーダーシップ <22>
  目標を鮮明に3大学の改革推進
  大阪工業大学、摂南大学、広島国際大学



 1922年に設立された関西工学専修学校が、学校法人常翔学園(旧大阪工大摂南大学)の発祥である。1949年に摂南工業大学を開学し、同年に大阪工業大学に名称変更。1975年に摂南大学を、1998年に広島国際大学を開設。2008年に法人名を常翔学園へと変更した。現在は3大学1中学1高校に約2万2000人の学生・生徒が在籍している。2012年に迎えた学園創立90周年に合わせて、2006年に長期目標策定や本部機構見直しを開始。2007年には中期計画策定、中学・高校を設置するカ搆[光学園との連携、人事給与制度改革、予算執行制度改革等を進めた。2008年度からは教学改革に視点をあて、各大学は学部学科改組に力を入れるなど、坂口正雄理事長の下、急ピッチで改革が進んでいる。中澤和夫理事(USR推進担当・広島国際大学担当)、佐藤等理事・法人室長、吉野正美理事・財務部長、上田和徳大阪工業大学学長室長、北村芳孝摂南大学学長室長、吉井克彦総務部長らに三大学の運営術を聞いた。
 2006年に坂口理事長が就任し、新しい風を吹き込んだ。「民間企業出身で、とにかくスピード重視。幹部は経営会議で積極的な発言が求められます。また、『成果を示せるのなら予算を出すが、意義だけ理屈っぽく語られても出せない』と言っていました」と中澤理事は振り返る。しかし、こうした変化が学内に自由に議論する雰囲気をもたらした。
 3大学の意思決定やマネジメントはどのようにしているのか。「法人の経営会議で将来の収支バランスを見通しながら全体方針を示し、それを受けて、各大学長がそれぞれの個性に合わせて具体的な目標を設定します。目標達成に向けた進め方は各大学の裁量に任されており、この目標が承認されると、更に各大学の各部課、各課員の目標に落とし込む流れになります」と吉野理事は説明する。各学長の意向に沿ってデータ収集・分析を行い、学長を下支えするのが各大学の学長室だ。このように理事会の上意下達ではなく、大学主導の意思決定体制となっている。
 2008年からは従来の積み上げ方式から、予め決められた予算の範囲内で目的ごとに効果・成果を検討、大学として注力すべき業務計画に対して重点的に予算を振り分ける「目的別予算制度」に変更した。また、学長の教育研究施策におけるリーダーシップ強化を図るため、教育研究経費・管理経費・設備関係支出予算の5%程度を学長の裁量により執行できる「学長裁量予算制度」も新設。「単年度予算制度の中では、年度途中に芽が出た取組に予算を使うことができません。学長が自らの意思で、どこを重点化するかを考えて実行できるようにしました」と上田学長室長は説明する。
 法人が人件費依存率を指標に人件費総額の管理を行い、それに基づいて各学長が大学の教学方針を考慮しつつ、教員採用計画をまとめる。教員の採用・昇進は各大学の選考委員会で決定するため、教授会・部長会議に諮らない(工大工学部は除く)。教授会に人事権はなくとも、俗に言う冷めた雰囲気はなく、採用・昇進の人事はスムーズに行われている。
 職員の人材育成はどのように行っているのか。特徴的な研修に常翔塾が挙げられる。若手・中堅職員から幹部候補生を育成する目的で、毎年12名の職員を選抜。学内外から講師を招くほか、座禅やトレッキングなど、マネジメント、体力、精神力等を鍛え上げる。最後にはそれぞれ一つの改革プランをまとめ、学園の理事・幹部にプレゼンテーションを行い、実際に実現させるまで続けられる。「幹部との厳しいやり取りや課題に対してどう自分が向き合うかを考えさせられました」と一期生の吉井総務部長は振り返る。
 若手教職員を対象としたワーキンググループ活動も活発に行っている。学内の課題を検討・解決策を提起することで、組織横断的な課題解決に知恵の発揮を目指している。「全体方針をトップダウンで決めることはできますが、組織内に当事者意識と共感を生み、実際に動かしていくには教職協働がボトムアップで出てくる必要があります。このワーキンググループはボトムアップ文化の形成に効果的です」と中澤理事は言う。
 三大学の学部・学科改組の今後の展開について。「以前までは改組に当たり、大学間での調整はありませんでしたが、特に大阪2校は(理)工学系では志願者の多くが併願するので、受験生の取り合いになります。こうしたことも踏まえて、3学長が議論し、工学系大学、総合大学、医療福祉系大学それぞれの特色を出していこうという方針になりました」と佐藤理事は説明する。
 法人からのトップダウンと各大学からのボトムアップのバランスをどのように図るか。このさじ加減が複数大学経営の要諦であることを常翔学園は示している。

統一的な意思決定とその推進を担う事務局
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 学校法人常翔学園は、大阪工業大学、摂南大学、広島国際大学と次々に設置、急成長を遂げてきた。3大学合わせて教員約1000人、職員も約400人いる。1法人3大学経営という日本でも数少ない体制の中で、いかにして改革意欲を持続させ、統一した運営を確保し、活性化を維持しているのか。
 私立大学にありがちな理事会、理事長のリーダーシップが強かった経緯はある。しかし、人材養成目的が異なる三つの大学はトップダウンだけで動かせる組織・規模ではない。大学の自律的運営を尊重しつつ、法人が掲げる理念の浸透と実践的目標については厳しく追求することで、この法人ならではの自立と統合の運営システムが作り上げられてきたと言える。
 学園のビジョンや3大学の基本方針は、理事会の下に設置された「経営会議」で実質審議・決定される。これは理事長が主宰し、常勤理事(学長理事3人、教員系理事3人、職員出身理事4人)に、総務部長、広報室長、経営企画室長が加わる。経営・教学・事務を動かすトップが集まったバランスの取れた構成となっている。年16回の開催で法人の中期計画や事業方針はここから発信される。
 一方、各大学には学部毎に教授会がおかれているが、大学の最高意思決定機関は、その上に位置する「部長会議」「学部長会議」(大学によって名称が異なる。以下部長会議)が機能している。学長を議長に各学部長を中心に構成され、学長室長、入試部長、就職部長らの事務職員も参画する。直接の教育・学生事項は学部決定だが、カリキュラムや教育方針をはじめ全学的案件の最終決定権はこの少人数で構成される部長会議が持っている。
 教員人事も、部長会議の下にある教員選考委員会が書類審査、面接試験を行う。採用や昇進の候補者は学部の業績審査などを経て提案されているので、学部の意思と大きくぶれることはない。
 1法人3大学経営という体制にあって、シンプルな経営・大学の意思決定・執行システムを支える事務体制として、法人本部に経営企画室、各大学に学長室企画課がおかれている。経営企画室は法人全体のミッションを実現するための学園経営の中期目標・計画を担い、学長室企画課は、大学毎の中期計画・事業計画の立案・推進を担う。法人・大学の決定機関である経営会議や部長会議において、特に政策や事業の審議決定にあたっては、その議案や資料を準備・調整し、優先順位や選択肢を提起するのはこの両部門であり、法人と大学の政策が一貫したものとなるような業務上の調整が強力に行われる仕組みが作られている。
この仕組みを背景に、目標達成に向けたマネジメントが進められている。
 法人の理事長指針に基づいて、学長方針が年度ごとに作られ、法人・大学方針全体を一覧できる形で学内に提示される。各大学の方針は、その構成、項目設定、重点の置き方は個別の内容となっている。目標達成に向けた、その実現の方法、迫り方は各大学の自主性にほとんど任されている。各大学を競わせ、切磋琢磨することでより高い成果を上げ、また個性化を進めようという意図が見て取れる。しかし、核になる学園(法人)目標の達成については極めて厳格だ。学園目標として高い就職率と資格取得の二つを掲げる。これを教育の端的な成果、責任として重視し、達成の数値・年次を具体的に設定。これに学園の学生・生徒数規模を二・五万人とする目標を併せ、共通の評価基準としている。この数値目標の設定や達成度評価を極めて重視し、就職率などは毎年の大学案内で学科毎に具体的な数値を公表してきた。
 こうした評価を重視する姿勢は随所に表れている。例えば、認証評価を受診した後も、毎年、自己点検評価を継続しており、また法人本部(経営企画室)では、独自に学生アンケート調査を、新入学時、3年進級時、卒業時と2年毎に実施して、学生満足度を詳しくチェックしている。また、恒常組織として監事室、内部監査室を設置し、コンプライアンスの保持と併せ、中期目標の実施状況も視野に置いた業務監査を実施するなど実効性ある監査体制の整備を進めている。
 常翔学園は、3大学の自律や個性を尊重しながら、一方で学園の要となる目標は明確に示し、法人・大学の企画部門を駆使した一体性を発揮する仕組みを通じて、学園全体の活性化を推進している。


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