Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成24年5月 第2481号(5月9日)

改革の現場
  ミドルのリーダーシップ R
  実効性あるFDで教育を充実
  千葉工業大学



 千葉工業大学は、1942年に興亜工業大学という名称で、日本の私立工科系単科では最古の大学として設立された。以来、社会ニーズの変化に合わせて不断の改組転換を続け、現在は工学部、情報科学部、社会システム科学部を設置、工科系大学では全国最大規模の学生が在籍する。「どんな組織でも存在感を出せる人材」という学生像を打ち立て、研究成果を学部教育に繋げ、知的財産を地域に還元する組織や教育体制を実現している。福島第一原子力発電所事故で投入された唯一の国産ロボット「クインス」の開発、「はやぶさ2」へのプロジェクト参画など研究成果が話題に事欠かない。宮川博光常務理事、竹田康宏理事・総務部長、金子和弘大学事務局長・研究支援部長、小川靖夫学生センター次長、津田沼教務課長に改革の今を聞いた。
 「工学部は、時代の先を予測して、卒業生が社会の役に立てるかを考え続けなければなりません。改革を止めれば学生から選ばれなくなります。立ち止まっている暇はなく、走りながら考えています」と宮川常務理事は話を切り出す。
 具体的な取組として最近は、ものづくりの経験がない新入生に対して、一年次にその楽しさを経験するプログラムを実施するなど入学前教育、リメディアル教育、初年次教育を充実させている。
 また、増加する退学者へのサポート体制も充実させている。「通常は各クラスにクラス担任教員がつくほか、約10名程度の学生グループに一人ずつメンター(教員)が学生の修学・研究、学生生活をサポートします。問題が見られると、教養系の教員が第2メンターとして加わり、また事務職員もそのサポートとして解決に当たります。つまり、1人の学生に4人以上の教職員がサポートします。第2メンター制は、教養系教員側から申し出があり実現しました。4人が支援するにあたり、電子学生カルテのシステムを提案しました」と小川学生センター次長は語る。
 大学の教育力を支えている仕組みが、「学部教育シンポジウム」と「教育業績表彰制度」だ。「教育上の教員個人の努力や創意工夫に加えて、大学内の情報やノウハウを共有して、それを活かしていく」ことを目的として、5年に一度、教育改善成果等の発表を全教員に義務付けた。まず、全教員がポスターセッションを行い相互に採点したのちに口頭発表。3件程度を表彰する。一般教養の教員も含め学科を超えた教員が一堂に会して発表するため、教員相互の理解・連携が図りやすくなった。
 研究面では、専任教員には科研費の積極的な応募を働きかけている。「不採択だった場合や、前年度の科研費を減額された場合の差額分を、大学が助成金を充て、研究が途切れないように支援しています。大きな助成金に採択されると、研究施設を無償で貸与する制度もあり、また、間接経費は半額を教員に還元し、繰り延べして研究に使えるようにしています。こうして教員が継続的かつ柔軟に科研費が使えるように工夫しています」と金子事務局長は説明する。
 更に同大学では、JABEE認定や格付投資情報センター(R&I)による格付けを受けている。その理由について、宮川事務局長は「受審は大変ですが、定期的に外部評価を受けることで、大学の状況を客観的に判断する材料にできます。例えばR&Iは、財政基盤の元になる受験生を集められているか、そのための教育は充実しているか、中退率はどのように低下させているか、研究はどのくらい教育に活かせているか、知的財産は活用できているか等の項目についてシビアに見ることができます」とその意義を語る。
 これからについては、「職員も協力してできるキャリア教育や初年次教育等をきっかけに、職員が教育自体に飛び込んでいきたい。学生が多くの職員と接することで、人間力を高めていく仕組みづくりです」と小川学生センター次長。教職協働の意識も高まり、各委員会には職員が参加し、法人と大学の情報共有はスムーズで、教員も各委員会の壁を越えていくようになってきている」それでは職員が経営に関わる中でどのような力が求められるか。
 「業務遂行力です。前年度と同じ仕事をすることは求められていません。教員との議論では、論理力が重要ですし、こうしたコンピテンシーは学内で体系化され、研修制度も整っています」と竹田理事は述べる。
 取材中、「学生目線の改革」が何度も強調された。例えば、大学側の都合で電子シラバスを導入したが、学生の利用率は二割だった。どんなに良いシステムでも学生に利用されなければ意味がない。大学改革は誰のためか。千葉工業大学のように探し続ける必要があろう。

授業改善点検書、教育シンポジウムを通じて恒常的改善を推進
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 私立工業大学としては最も古い70年の歴史を持つ千葉工業大学、しかし、取り組む研究は最先端で、惑星探査研究センター、未来ロボット技術研究センター、未来ロボティクス学科を持つなどロボット研究・教育のパイオニアである。
 師弟同行、自学自律を建学の理念とするだけに、昔から教員と学生の距離が近く、ものづくりの創造性、自主性を育てる面倒見の良い教育が行われてきた。
 そのひとつは1年〜4年までのクラス担任制で、3・4年次には就職指導も行う。さらにメンター制度として10人程度の学生をひとりの教員が担当する制度もあり、きめ細かな相談・助言・指導を行う体制をとっている。万一留年になった場合などは、教養教育担当教員がメンターとなり個別援助を行う手厚い体制をとっている。
 リメディアル教育、入学前教育、導入教育、初年次教育、習熟度別教育は徹底しており、学習支援センターには専属教員が常駐して基礎学力を補う学習支援を個別対応で行う。ITを活用した学習支援システムでも日本eラーニング大賞(総理大臣賞)などを受賞するなど教育手法の改善にも熱心だ。学生の自主的なもの作りを応援する「CITものづくり」の取組があり、教職員を含んだチームを作ってチャレンジ、大学からは上限20万円の支援がある。その拠点が津田沼キャンパスにある工作センター、芝園キャンパスにある学生自由工作室だ。
 こうした改善が行われる背景には優れた教育改善システム、FDの取組がある。授業満足度調査を各学期、全授業対象に行いその結果を集計したものを示して自身の状況を把握する。調査結果はFD推進委員会が整理・分析、その結果をCDにて全教員に配布する。これを基に教員は「授業改善点検書」を毎学期ごとに作成する。この点検書で、授業の内容・方法についての工夫、満足度調査を踏まえた授業の自己評価、今後の授業改善計画を立案する。学生の理解度を深める工夫、理解度の低い学生をフォローする工夫、授業改善の知恵を集める。これをFD報告書、授業改善点検報告書にまとめて発刊、会議等で解説し、成功、失敗の事例を共有する。
 さらに全教員には5年に1回、学部教育シンポジウムで教育改善の発表を義務付けている。平成21年度からすでに3回実施、延べ130人を超える報告は全て報告集に収録されているが、教育改善のノウハウが詰まった貴重なものとなっている。また教育業績表彰も行って優れた取り組みを評価している。
 他方、自己点検活動にも積極的に取り組み、目標管理、達成状況を公表、点検評価結果を改善・運営に反映させる取り組みを重視する。評価委員会の学内での位置付けを高めるため自己評価規程を改訂、評価委員長から自己点検状況を教学関連委員会に報告、改善を促す。自己評価活動とFD活動を連結させ教学改善のPDCAサイクル構築を目指す。1992年からほぼ4年単位で自己点検評価を行い、現在2011年度の評価が進行中だ。達成状況をホームページで公開、全学、全部署で教育・研究・運営改善活動が進み、教職員の参加意識も向上した。
 職員も目標管理を軸とした勤務評価制度を行う。昇格基準を職員職能制度に明示、透明性強化、目標の共有化、やる気の向上、人材育成を目指す。目標達成度評価を大学ビジョンに結び付けるため、事務局全体目標に基づき、各部、各課目標から個人目標までブレークダウン、個人目標がどの程度達成できたかを評価する。理想的職員像をコンピテンシーフレームとして設定した。
 常勤監事を置き監事会を開催、学内監査室(理事長直轄)を設置し専任職員三人を配置、会計監査のみならず業務監査を重視する。R&Iの毎年の格付け、JABEEなどあらゆる面で評価を重視している。
 一時は工学離れから大幅な志願者減に直面したが、最近は毎年20%前後の増加が続いている。これも実態を踏まえた実効性あるFD活動を構築、全学的な評価や監査を重視し、自らを見直し改善に繋げる仕組み作りで恒常的に教育の充実を図っている成果といえる。


Page Top