平成24年4月 第2480号(4月25日)
■韓国の高等教育進学率の実際
進学率を引き上げる専門大学
韓国の高等教育進学率が高いことはよく知られているが、昨年発表された2011年度の数値は、前年より7ポイント近く低い72.5%であった。単に算定基準日が変更されたために生じた変化ではあるが、これを機に韓国の進学率について改めて考えてみたい。文部科学省生涯学習政策局調査企画課専門職の松本麻人氏にご寄稿いただいた。
韓国の高等教育進学率としてしばしば研究者が引用する教育科学技術部(日本の文部科学省に相当)公表の数値(当該年度の高卒者のうち進学者数/当該年度の高卒者数×100)と、専修学校への進学者を含まない日本の高等教育進学率との単純比較には留意すべきである。
韓国の高等教育進学率は2004年以降、軒並み80%を超えていた。ところが2011年8月に公表された最新数値は72.5%で、一見大きく下降したように見える。しかしこれは、2011年度調査から進学率を算出する基準日が2月から4月に変更された結果、従来2月時点の入試合格者を進学者としていた計算式が、2011年からは実際に入学した者を進学者として計算したため、これまでよりも大きく低い数値が出たのである(韓国の学年度は3月から)。したがって、これまでの進学率はやや「水増し」されていたわけであり、2011年度進学率はより実際に近い進学状況を示しているといえる。
それでも、72.5%という進学率は諸外国と比べて高いことには変わりがない。その背景として社会の学歴主義や大卒者と高卒者の賃金格差などが指摘される。もちろんそれらは否定されるものではないが、よりわかりやすい形で高等教育への進学率を引き上げているのが、専門大学と呼ばれる短期高等教育機関の存在である。2011年度の専門大学への進学率は25.8%で、高等教育機関進学者の4割近くを占めている。一方、4年制大学への進学率は放送通信大学も含め46.3%で(各種学校は含まない)、印象ほど高くはない。
専門大学は、2〜3年制の短期高等教育機関で、卒業すると準学位である「専門学士」を取得することができる。こうしたことから、日本の短期大学に相当する機関として紹介されることがしばしばである。しかしそれは専門大学の特徴の一側面を示しているに過ぎない。専門大学は専門的職業人を養成することを目的としており、教養教育よりは職業教育を主に提供している。その点で、日本の専修学校(専門課程)にも相当する機関と言える。専門大学に設置されている学科名を見てみると、カジノ経営科(済州観光大学)やゲーム・コンテンツ科(東ソウル大学)など、特定の職業に結びつく学科が少なくない。実際のカリキュラムも、より実践的な知識・技能の取得を目指す構成となっている。ただもちろん、施設・設備などについては「大学の設立・運営規定」(大統領令)で一定基準が定められているほか、専門大学の全本務教員の約六割は博士学位取得者であり、学位を出す高等教育機関としての体裁は整っている。なお、韓国には「専門学校」と訳すことができる名前を冠する機関が多数あるが、これらは雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)監督下の職業教育訓練機関であり、日本の職業能力開発校に近い。
さて、進学率の話に戻ると、専門大学は日本の短期大学だけではなく専修学校にも相当する教育機関であるため、普通高校だけでなく職業高校からも多数の進学者がいる(職業高校から専門大学への進学率は41.6%)。近年の動向として、統廃合による大学数の減少などから専門大学への進学者数が減少する傾向にあり、今後四年制大学への進学者の割合が増加する可能性はある。いずれにせよ、韓国と日本の高等教育進学率の比較には留意が必要だ。