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平成24年4月 第2477号(4月4日)

改革の現場
  ミドルのリーダーシップ N
  先駆的マネジメントの構築へ
  九州共立大学、九州女子大学



 (学)福原学園が設置する九州共立大学は経済学部とスポーツ学部、九州女子大学は家政学部、人間科学部、九州女子短大は子ども健康学科を置いている。特に共立大は硬式野球部が盛んで、ソフトバンク・ホークスに何人もの選手を送り込んでいる。同学園は昭和22年に福原軍造氏とツルヲ女史が創設、以来「自律処行」を建学の精神に大学の他に、高等学校、3幼稚園を開学・開校してきた。過去に補助金減額・停止の不祥事が起こり危機を迎えるが、福原弘之理事長が強力なリーダーシップを発揮してガバナンスを機能させ、数値や実証を基盤とした中長期計画を念頭に置いた経営を行っている。現在の法人・大学経営について、福原理事長、福原公子副理事長、石津和彌法人事務局長、大渕和幸共立大学事務局長、因 敏明女子大学・短大事務局長に話を聞いた。
 平成19年に歴史ある工学部の募集停止に踏み切った。福原理事長は振り返る。「当時は教授会に大学運営の決定権があり、理事会や事務局はそれを承認・追従するのみでしたが、工学部の定員充足率が41%まで落ち込み、抜本的な改革が必要となりました。学部改組案が教授会から提出され、教員からは「学生が集まらなければ我々が責任を取る」との表明があり実行されましたが、最終的には目標まで集まらず、私が教員一人ひとりと話をして納得をして頂きながら、学部廃止を決めました。
 こうした経緯から、大学経営・教育に責任を持つためには理事会や事務局が自ら動かなければならないと思いました。「経営が現場に足を踏み入れるとは何事か」「事務が教授会に出るなんて」等の「従来の大学自治論」を振りかざして反対もされましたが、「大学では、教授会はあくまで審議機関で、全学的事項は評議会が決定権を持ち、基本政策に関る議案は経営戦略会議に上げること。重要事項の最終決定と責任は理事会が持つこと」などを明確にしていきました。教員採用についても、採用責任は理事会が負うのに、採用決定権は教授会にありましたから、大学教員人事計画委員会を設置して採用関係はそこが一手に担うようにしました。理事会が責任を取るからには、決定は理事会所管の機関で行う。こうした当然の仕組みを浸透させたのです」。
 法人・大学の組織改革が本格化したのは平成18年から。まず、「経営戦略会議」を学園の協議機関として設置、その下に大学改革検討、人事評価、中期経営計画、戦略プランニング等の委員会を置いた。福原理事長はもちろん、3人の事務局長がこれら全ての委員会に参加し、情報共有を密にしている。ちなみに、3事務局長の前職は九州大学職員で、「職員が中核となる大学経営」を実現するため、その知識・能力を惜しみなく発揮し、後進を育成している。
 経営課題は各大学の現場からボトムアップで出してもらい、しかるべき委員会を通じて「経営戦略会議」で協議する。とはいえ、各大学の教育計画は、あくまで教員に任せる。教員が教育研究に専念できるように、職員が大学の運営と実務を担う。また、財政の健全化に向け、教職員数の適正化、事務組織のポスト削減、定期昇給や賞与の見直し等、人件費の見直しを図ってきた。
 委員会の特徴的な取組として、戦略プランニング委員会では、若手職員でチームを組み、現在は「定量的管理指標を導入した大学中期計画の進捗管理」をテーマに企画提案を行っている。若手に大きなテーマの分析・企画立案を担わせることで、過去に囚われないアイデアを得るとともに、実践を通じた若手の育成にも繋げている。
 こうした法人の改革とともに、二つの大学の仕組みも変わっていく。
 共立大では「学生それぞれの伸びしろを大きく伸ばす」と掲げたビジョンの実現のために取り組むべき課題、そして、そのための戦略を明確にし、バランス・スコア・カード(BSC)を導入して教育改革を行っている。「経済学部長をチーフにして、教職員が一緒になって作り上げてきました。学生へのチェックシートを通して「自己成長感」や「社会人基礎力」を測定し、この結果を分析して次への学生支援プランへと結びつけています」と大渕事務局長は述べる。こうした教職一体となった戦略スキームの確立も特筆すべき点であろう。
 女子大・短大でも、「BSCは利用していないものの、学生満足度調査を就職支援に結び付けるなど、実質的には実践から得た数値を中期計画に反映させています」と因事務局長は語る。また、学生が取り組むプロジェクトについては、学生から「やりたい」という提案があって初めて動き出す。学生の自主性に沿った事業を心がけている。
 二つの大学は背景も文化も異なるため、今のところ統合することはないという。
 福原理事長は言う。「大学に愛着を持つ教職員がどのくらいいるかが大学の運命を変えます。大学経営は、教職員が一枚岩にならないといけません」。また、新学部の設置については、「既存の学部を維持できないなら、新しく設置しても駄目です。学部は新設するより維持する方が難しく、廃止は更に難しい。既存学部の改善に力を入れるべきです。また、短期大学は、地元から求められますから、まだまだ必要です」と述べる。
 福原理事長は、時間があれば学生達の輪に入って雑談をしたり、教職員との会話を大切にし、トップとして意思決定には自ら責任を取る。また、トップを裏で力強く支える幹部や三事務局長のミドルのリーダーシップが同学園改革の原動力となっている。
 
体系的な政策策定と成果指標による推進管理
 日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 (学)福原学園、九州共立大学と九州女子大学・短期大学の中期計画の立案、その具体化、その実践のための成果指標の設定とエビデンスの明示、これら一連の政策遂行マネジメントシステムは、極めて先進的である。
 前述の通り、政策策定組織は「福原学園経営戦略会議」を頂点に「戦略プランニング委員会」と「中期経営計画委員会」を設置、前者は、調査、計画の素案作り、定量的な管理(評価)指標の設定に取り組んでおり、その下に現場職員を含む10数名のタスクチームを置く。後者の計画委員会の下には、大学、高校、事務局の各計画部会を置き、マスタープランの下、学校ごとの計画の具体化を図る。戦略会議の下には「人事評価委員会」も設置され、大学、高校、幼稚園の教員及び事務職員の評価を、学園戦略目標の達成という視点から個人目標にまで浸透させ、また到達度評価をコントロールする仕組みを持っている。
 特に優れているのは、成果目標による改革の推進・評価システムの構築である。中期計画全体の進捗管理は「定量的管理(評価)指標」の導入を進めており、それは「プロセス目標」と「成果目標」に分かれる。例えば、「プロセス指標」の学生確保、広報の項目ではホームページアクセス数、高校対応では高校訪問回数などで、教育活動の項では学生カルテ作成率、授業相互参観の実施回数などで、学生支援では個人面談学生数や学生相談室(九女ルーム)利用件数で、キャリア支援では、インターンシップ受け入れ企業数や実習終了者データ入力件数で評価するという具合だ。
 成果目標としては、学生確保の項では、志願者数、伸び率、定員充足率、受験倍率などで、教育活動は、留年学生割合、授業満足度、学習目標設定学生割合、退学学生率、キャリア支援は進路・就職決定率、採用企業満足度、採用継続企業割合、求人件数、研究推進では教員一人あたり論文発表数、外部資金新規採択数でみる。
 こうした、分野ごとの具体的な成果目標の設定は大学ごとでも、独自のやり方で取り組まれている。共立大では、BSCを活用し、入試広報では入学希望者数、HPアクセス数、オープンキャンパス参加者数など、大学生活の充実については、満足度調査結果の各項目の評価向上度合いから、就職では、内定率、活動開始時期、面接、履歴書指導者数など具体的な改善指標を設定している。これらを一覧表で作成、戦略項目ごとに、当年度目標(達成指標)を掲げ、達成のための具体的な活動事例をドライバーとして明記、それぞれに学部(教員)担当者名と事務担当者を、個人名を挙げて記載する。
 目標の実施状況・進行管理は、毎週一回の課長会で「懸案事項の進捗状況について」というチェックのための一覧表が配られ、青字は完了事項、赤字は計画変更事項、黒字は実施中ないしは未実施として管理される。
 女子大では、こうした評価をアンケート調査で検証する方法をとっており、学生による授業フィードバック・アンケート、学生満足度アンケート調査、卒業生調査、企業アンケートなどを定時に実施している。
 学生を伸ばすには、個別理解と施策が必要と、全学生への面談、指導に力を入れる。その素材として、学生調査「チェックシート」があり、自己成長感、社会人基礎力の獲得状況について自己評価を詳しく問い、その結果を分析して、学生の現状を的確につかみ、タイプ別に分類、傾向を掴んで指導の対策を立てる。
 こうした優れたマネジメントシステムが出来た背景には、学園の苦難の歴史がある。60周年記念小史にも記載されている1980年代からの一連の不祥事と補助金停止や文科省からの行政指導、役員の総退陣、それに続く志願者減少と財政悪化。この困難な状況の中で、学園再建の使命を担って福原理事長が登場した。不退転の決意と強いリーダーシップによって工学部の廃止とスポーツ学部の新設、中期計画を軸とした総合的な改革システムの構築と理事会権限の実質化、学長兼務による改革の大学への浸透など改革推進体制の構築を進めた。併せて、それを担う人材、適材を発掘し、抜擢し、また職員の力を最大限に発揮させる運営を強化した。徹底した現場主義、部下を信頼する業務姿勢、またそれに応える理事や事務幹部の目線の高さや熟達した業務遂行も特筆される。
 学生募集、財政再建は軌道に乗りつつあるが、改革はまだ始まったばかり、システム全体はこれから本格稼働する。この成果が期待される。

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