平成23年11月 第2462号(11月16日)
■大学は往く 新しい学園像を求めて〈32〉
二松學舍大学
長期ビジョンを作成へ
教員採用を強化 学部学科再編など検討
東洋の精神文化を基盤とした人間教育を実践してきた。建学の精神は、『己ヲ修メ人ヲ治メ一世ニ有用ナル人物ヲ養成スル』、すなわち「東洋の精神による人格の陶冶」。二松學舍大学(水戸英則理事長、渡辺和則学長、東京都千代田区三番町)は、国語や書道、中国語などの教科を担当する中等教育の教員養成に努めてきた。教員免許の他、図書館の司書や博物館・美術館などの学芸員の資格が取得でき、私立では数少ない書道専攻がある大学でもある。1991年に国際政治経済学部を設置するなど新しい動きも見逃せない。来年10月10日に創立135周年を迎える。現在、大学の10年後のあるべき姿、すなわち「長期ビジョン」を作成している。「国漢の二松學舍」といわれた二松學舍大学はどのように変わるのか。九月に理事長になったばかりの水戸に二松學舍のこれまでとこれからを聞いた。(文中敬称略)
東洋の精神文化基盤に 「人間教育」を実践
二松學舍大学の九段キャンパスは、地下鉄東西線・半蔵門線、都営新宿線の九段下駅下車徒歩8分。道路を隔てた前が垢ぬけた建物のイタリア文化会館で、靖国神社が指呼の間にある。伝統と近代が混在した素晴らしい環境にある。
二松學舍大学は、1877年(明治10年)10月10日、漢学者の三島中洲が、東京・九段(当時 麹町区一番町)に創設した「漢学塾二松學舍」が淵源である。理事長の水戸が大学名の由来を説明する。
「不変の節操・堅貞を象徴する松の樹が庭上に二本あったこと、また韓愈の『藍田縣丞廳壁記』に『對樹二松、曰哦其間』とあることから二松學舍と命名されました」
こう付け加えた。「二松學舍の創立は慶應義塾、立教についで古く、当時、漢学を主とする学校は多くあったが、現在まで存続するのは二松學舍だけ。二松學舍は福沢諭吉の慶應義塾、中村敬宇の同人社と並んで明治三大塾と称されました」
學舍歴代トップの顔触れや学んだ人材が凄い。二松學舍では、舎長(しゃちょう)は、理事長、学長の上のポスト(現在、舎長はいない)で、第三代舎長は、日本の資本主義の父といわれた渋沢栄一で、第五代舎長は吉田 茂元首相。
学んだ著名人には、夏目漱石がいる。1881年の入学者名簿には、その名が記されている。近代柔道の礎を築いた嘉納治五郎もそうだ。
冒頭でも述べたが、卒業生には、国語や書道、中国語などの教科を担当する中学校や高校の教員が多い。全国に散らばっている。現在、こうした卒業生との連携、関係強化が課題になっている。
「学生の募集や就職支援のために、教員になった卒業生に一肌脱いでもらおうとOB・OGとの連携と関係を強化し、同時に、実業界に進んだ卒業生とネットワークの強化を進めています」
現在の二松學舍大学は、九段キャンパス(東京都千代田区三番町)と柏キャンパス(千葉県柏市大井)があり、文学部と国際政治経済学部の2学部に約3000人の学生が学ぶ。3年前から、キャンパス選択制をスタートさせた。
「入学時に、4年間を九段で学ぶか、1、2年は柏で、3年から九段で学ぶか、どちらかを選択できるようにしました。前者が9割と圧倒的で、来年度から全員が4年間を九段で学ぶようになります」
柏キャンパスはどうなるのか?「キャンパス選択制導入前は、二学部とも1、2年生は柏でした。選択制にして受験生は増えました。柏キャンパスは、長期ビジョンで検討中ですが、柏にある附属の中学校、高校が使うことも一案です」
九段キャンパスの評判は上々だ。校舎最上階にあるレストラン「Cafe sora」は、一般の利用が可能。安価で美味しい料理はマスコミに紹介された。「イタリア文化会館の館長さんも食べに来られます」
教育および研究面を聞いた。少人数教育について。「本学は基礎的学問を学び、学問の基礎的な土台を固めるための勉強をする大学。教育と研究に熱意をもった教授陣が多く、学生は学問上の疑問はもちろん、迷い、悩みなどがある時には、いつでも安心して先生に質問や相談をすることができます」
同大の「日本漢文学研究の世界的拠点の構築」が平成16年の文部科学省の21世紀COEプログラムに採択された。「今後とも、日本漢文学関係資料の調査・集積や、外国人研究者を含めた世界的な交流ネットワークの構築や国際シンポジウムの開催などを行い、若手研究者や専門家を育てていきたい」
就職について。「かつては毎年、卒業生の100人近くが教員になったが、いまは50人前後。10年に教職支援センターを立ち上げ、都教委のOBを採用するなどして教員養成に力を入れています」
実用的な語学教育を
同センターは教員採用試験の対策に特化した組織。学生への個別指導で、教員としての意識を高め、試験対策として「教員採用試験合格講座」を行っている。
「教員以外では、公務員や一部上場企業への採用を増やしたい」という。どうすればいいのか?「政治や経済の専門知識を体得するのはもちろんだが、実用の英語と中国語が使えるようにするのも大事だと思う。実用的な語学教育の実践は長期ビジョンの課題のひとつになっています」
その長期ビジョンについて尋ねた。日本銀行出身で、海外経験も豊富な水戸は、世界経済から「長期ビジョン」を語り出した。まず総論。
「今や世界経済は欧米の時代から東アジアの時代へと移り、中国、韓国、日本、インドや東南アジアの国々が世界経済を主導していく時代。この東アジアの時代に適合するべく、本学は諸改革を行い、時代が要請する人材を育成、輩出していく使命がある」
各論。「現在、教職員、学生・生徒、父母、卒業生や取引先など全てのステークホルダーから、本学の将来像についての意見・提言を収集、これから骨太綱領を作成する予定。これを着実に実現していく仕組みを造り、10年後には、現在より大きく飛躍した二松學舍大学をめざす」
具体的には?「昨年12月に大学改革推進会議をスタートさせた。五つの部会を設けて、両学部のあるべき姿、語学教育、大学院、教職課程などについて具体的な議論をしている。大学の出口をよくするには、どうすべきか、も重要なテーマになっている」
キャンパス再配置も
どう改革するのか?「語学教育の充実のほか、キャンパスの九段集約に伴うキャンパス再配置、学部・学科の再編、教員採用の実績引き上げのための方策などが主なもの。長期ビジョンは、『N2020 PLAN』(二松學舍の将来構想)として取り纏めて、来年の創立135周年記念式典で公表したい」
このなかには、既に動き出しているものもあるという。「教員採用強化では、今年4月に国語科教員養成特別コースをスタートさせました。学生あっての大学、学生のニーズに対しては速やかに対応していきたい」
大学のこれからを聞いた。「建学の理念を本学志望学生・父母や地域住民に分かりやすく示すのが肝要。この建学の理念に基づく教育の使命・目標や、どういう人材を育成していくのか、どのような授業展開を行っていくのかなどを外に向かって明確にし、本学のあるべき姿を創っていきたい」
水戸の口吻には、建学の精神を守りながら、改革を敢行し、二松學舍大学のあるべき姿を創りたい、という並々ならぬ決意がみなぎっていた。