平成23年10月 第2457号(10月5日)
■“税額控除”で広がる学校法人への寄附
小額寄附金の控除額が大幅増
学校法人にとって悲願ともいえる「個人からの寄附に係る所得税の税額控除制度」に関する法改正が6月に成立した。これまでの個人寄附金は所得控除があったものの、このたびの改正により税額控除が可能となり、小額寄附金の控除額の差額が大幅に増えることになる。具体的な変更点や税額控除対象法人の申請の条件等について、文部科学省高等教育局私学部私学行政課の齋藤 潔課長補佐に聞いた。
これまでの所得控除と、このたびの新しい税額控除の違いを具体的に説明してみよう。表のように、課税所得額(年収から各種控除を差引いた額)300万円のAさんが10万円を寄附する場合を考える。
日本は累進課税制度を採用しているため、税率は所得金額により異なる。Aさんの課税所得300万円に掛かる税率は10%なので、300万円に税率10%を掛け速算による補正のための控除額9万7500円を差し引くと、所得税20万2500円=@が算出される。通常、この額を税務署に納める。
さて、Aさんが10万円の寄附をするとする。これまでの「所得控除」だと10万円から2000円を引いた9万8000円が控除になるため、300万円からこの額を引いた290万2000円が所得税を計算するための所得額となる。これを前述の計算式に当てはめ、所得税を求めると19万2700円となるので、@と比較すれば、寄附による控除効果は9800円だと分かる。
このたびの「税額控除」では、寄附金10万円から2000円を引いて40%を掛けた3万9200円が@からそのまま差し引かれる。つまり、税額控除が適用されることで、所得控除よりも2万9400円ほど控除額が上がる。
表は課税所得額800万円のBさんの場合も計算したので参考にして欲しい。
それでは学校法人への寄附にこの税額控除制度が適用されるにはどうしたらよいのか。齋藤課長補佐はこう説明する。
「同制度は6月に成立し、7月から施行されました。9月より手続きを開始し、当課にはすでに十数法人から申請を頂いています。事前調査では大学法人のうち130法人ほどが申請したい意向を持っているようです。
税額控除の対象法人である旨の証明を受ける条件としては、『過去5年間(平成25年末までに申請した場合は過去2年間)において、3000円以上の寄附金を支出した者が、平均して年に100人以上いること』。例えば、本年に申請を行う場合は、平成21年、22年において、年間の平均寄附者が100人以上(極端に言えば、21年に0人、22年に200人でも構わない)いることが必要になります。証明書の更新は5年後となり、更新条件は5年間の平均寄附者が100人以上となります。
また、税額控除の対象法人となった後は、寄附者名簿を作成・保存する必要があるほか、寄附行為や財務諸表等について閲覧請求があった場合は、閲覧に供する必要があります。寄附金の用途についても、これまで以上に説明責任が求められることになります。
『寄附者が年平均100人以上』の条件については、@法人役員とその家族、A入学時の寄附者はカウントできません。それ以外の寄附、例えば、教職員や2年次以上の学生・保護者、同窓会、企業からについては問題はありません。申請時には、いつ誰が寄附をしたかが分かればよく、寄附の証明書までは必要ありません。
また、当然のことですが、所得税の税額控除であるため、100名にカウントはできますが、企業・団体からの寄附については法人税の控除はできません。
政府が進める『新しい公共』のもと、学校法人が寄附の税額控除制度の対象となったのは、これまで以上に公共の積極的な担い手として期待されているから。今後は当省のホームページで申請の手引きやQ&Aのほか、証明書を発行した学校法人名(大学法人のみ)も掲載していきます。
奨学金や学生の活動支援、調査研究等の目的で寄附金を募集するなど、この制度を活用しながら、独自の取組を進めて頂きたいと思います」
日本には寄附文化がないから云々、という話はよく言われる。しかし、18歳人口の減少、大学を取り巻く情勢に逆風が吹いている今、大学人に必要なのは「ないなら創る」という精神であろう。