平成23年9月 第2454号(9月7日)
■改革の現場 ミドルのリーダーシップ D
地域ニーズを現場職員からくみ上げる
高崎商科大学
高崎商科大学は、既存の短期大学に加えて、平成13年に流通情報学部流通情報学科を設置して開学した。群馬県の商業の中心、高崎において、複雑化・高度化する地域経済のニーズに応えるべく、平成22年に商学部商学科に名称変更した。理事長曰く「改革なくして発展はなし」、「変える勇気を持て」。
短大時代より、地域経済のニーズに応える教育を行ってきた経験を、大学のカリキュラムにも確実に反映させている。徹底した実学重視。商学部と短大部には、合わせて10のコースが設置されているが、めまぐるしく変化するニーズに合わせて、法人本部の企画部門でアセスメントを行いつつ、短いスパンでコースを変更している。
このたびは、地元密着の同大学の機動性の高い改革について、渕上勇次郎学長、森本 淳常務理事・法人本部長、中村康晴事務局次長、鰐渕一夫教学課長、松田禎史法人本部総務課長、森本圭祐キャリアサポート室長に話を聞いた。
「面倒見の良い大学」を標榜し、学生の満足度アンケートを取りFDや教育改善に生かすなど学生の教育支援には熱心だ。その取組の一つが自己発展評価シート「未来創造プラン」。これは、授業や資格取得の目標を学生が自ら立て、自身と教員の評価により、日常の振り返りを行うとともに目標を新たに設定するという“成長のPDCA”を行うもの。更には、「資格道場」、「検定資格塾」といった資格取得を支援する仕組も充実している。職員は学生一人ひとりとの面接をとおして顔と名前、性格まで把握し、徹底的に個別指導を行う。
こうした支援策のほとんどは職員から提案されるが、教員がそれに真っ向から反対することはない。そもそも短大時代から、教職員は同等の立場である。大学協議会でも事務局長は正規メンバーで、専門委員会や教学の重要な決定には職員も参加。同等であるが故に専門的な知識が求められるが、職員からの提言は会議でも採用されやすく、それが政策づくりの実務経験にもつながる。同大学の改革の推進役は職員なのである。
鰐渕教学課長は「もちろん、全ての提案が通るわけではありません。会議の事前に反応を見るなど教員への根回しや、委員長との綿密な打ち合わせが重要です」と話す。教務領域だけではなく、職員がプランを練って準備をして提起をして議論をしていく。将来構想案は松田課長が他部署の職員から情報を得つつ作成し、学長に報告をしながら進める。学外で高校の教師や企業の情報を収集している現場の職員の時代感覚がコースの変更に重要な意味を持つ。
「教職員の人事制度では、目標管理制度の導入が功を奏しつつあります」と森本常務理事は言う。年度ごとに渕上学長から方針が出され、それを元に各課等で年度の目標が設定され、個人の行動目標にまで落とし込まれる。それを元に評価が行われ、賞与にも反映されるという。
森本室長は、これから職員に求められるのは、周囲を説得し、行動に繋げられる力だという。「学内の稟議書の作成は、特定の人物に偏りがち。積極的に部下に書かせ、学内の行事も任せるようにしています。経験する中で職員の育成をしています」と述べる。
中村次長は、教員と職員の協力体制については、「部下は上司を見て育ちます。だから良いお手本になれるように心がけています。教員とどのようにしたら渡り合えるのかは、実践を通しながらアドバイスをしています」と述べる。
松田課長は、大学の現状と世の中の状況、大学・短大の全国的な動きに敏感になり、良い事例があれば、本学でも可能かの検討をすることを心がけている、と話す。
渕上学長も「教職員には社会状況を見て、本学はこれをしなければ遅れてしまうということを考えて、提案して頂きたい」と教職員に期待する。
高崎商科大学の強みは、教職員が同等の立場で改革に携わっていることに加え、地域社会のニーズを現場職員からくみ上げ、迅速に企画に反映させる仕組みであるといえる。
時代の変化への素早い対応
私学高等教育研究所研究員/日本福祉大学常任理事 篠田道夫
高崎商科大学は、取り組むべき政策・方針が鮮明だ。学長からは年度初めに「大学運営方針」が全教職員に提起される。学長のもとには「将来構想委員会」が設置され、学部・学科・大学院の名称変更、コースの再編、カリキュラム改革を推進してきた。
連続した改革が可能となった背景には、トップ機構として、理事長、学長、法人本部長(常務理事・事務局長)の三者で構成される企画会議がある。法人・大学全体の経営、教学・事務を総括・管理する三者があらゆる基本政策や重要事項を議論し、調整する。しかし、トップダウンかと言えば、そうではない。
この政策・企画実務を担うのは法人の企画部門と学長室だが、人的兼務や業務連携することで、法人・大学の一体的な方針作りを担保している。それを支える事務局も、教学課の中に教育・学習支援グループと学生支援・総務グループを置くなど目標を鮮明にしたシンプルな編成で、この上に教職協働組織として、学生生活・学習支援センター、学生生活支援室が設置されている。委員会やセンター等の組織は、全て教職員によって構成されており、現場からの提案や意見が企画部門や教学課を通して日常的にトップに反映される流れになっている。
全学の実質的な意思形成と共有化は「大学協議会」で行われる。ここで教授会に諮る前に基本案件は全て議論され、事務局長、事務局次長も正規メンバーとして参画する。
ここで事前に練られた方針が各教授会で審議され、事務部課長会に諮られ浸透する仕組みだ。学部名称の変更も、六コースへの拡大・再編(流通・マーケティング、情報・メディア・eビジネス、経営・経済、会計・金融、観光・ホスピタリティ、地域・国際・キャリア)もこうして決断された。
大学開学は2001年だが、1906年に裁縫女学校として設立されてから、2006年で100年を迎えた歴史がある。学校法人名称も、創立者名の高崎佐藤学園から、知名度がある高崎商科大学に変えた。これも創業家自らの判断によるもので、大学発展のためには、しがらみにとらわれず果断に改革していく気風の表れと思われる。
環境変化に合わせて、大胆な改革を連続的に押し進める背景には、大学が最も重視する実学重視の校風、伝統がある。実学重視の意味を大学トップや幹部層は良く自覚をしており、「時代の変化への素早い対応」をモットーに、そのリサーチと改革遂行のシステムを作り上げてきた。
人事評価制度もきちんと運営され、機能しており、小規模ながら組織運営の基本、プラン・ドゥー・シーを動かし、明確な方針と評価をあいまいにせず取り組んでいる。
現場からの率直な意見、事務職員からの遠慮ない提案とトップの前例にこだわらない決断がこの大学の持続的な改革を支えている。全員による大学運営、経営・教学トップと直結した事務局機能を通して持続した改革を推進している。