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教育学術オンライン

平成23年8月 第2452号(8月17日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈24〉
  愛知学院大学
  学び力、就職力、学生力
  社会の動きに常に対応 時代が求める人材育成

 中部圏で伝統を誇る大学のひとつ。社会の動きに対応した教育研究を推進し、時代が求める人材を育成してきた。愛知学院大学(小出忠孝学院長、愛知県名古屋市・日進市)は、曹洞宗の宗祖、道元禅師の教えである「行学一体」の人格形成に努め、「報恩感謝」の生活のできる社会人の養成が建学の精神。現在、8学部17学科大学院9研究科、在学生1万2500人、中部地方を代表する総合大学である。1年次にはリベラルアーツ教育と併せ、リメディアル教育も推進するなどの「学び力」、卒業生とのつながりと多彩な就職支援による「就職力」、159のクラブ・サークルが楽しみながら活動するといった「学生力」、この三つの力が躍動しているように映った。2014年には名古屋市の中心、名城公園駅近くの国有地にビジネス系3学部が移転する予定。時代の要請に応えて改革してきた大学が再び、新たなスタートを切る。愛知学院大学の改革の歩みと新時代を迎える決意を小出学院長に聞いた。(文中敬称略)

中部圏で伝統誇る 名古屋中心部に移転へ

 愛知学院大学は、1876年に開校した曹洞宗専門学支校が淵源である。1903年に旧制愛知中学校となり、戦後学制改革で新制愛知中学、愛知高校(愛知学院と総称)となる。50年に愛知学院短期大学を、53年に愛知学院大学を創設した。
 学院長の小出が大学設立について説明した。「私の父(小出有三)は、進取の精神、学の独立を謳う早稲田大学に学びました。大隈重信を尊敬し、進取の精神を地でいったような人物で、新制中学・高校のほか、短大、大学を創設しました」
 小出有三は、明治16年生まれ。早大卒で、旧制愛知中学校長から1948年、愛知学院の初代学院長となった。大学は、商学部単科でスタートしたが、57年に法学部を、61年に歯学部を設立、総合大学に育てた。
 「歯学部の設置は、第2次大戦後初めてで、地元の要請もありましたが、歯科医学・医療の遅れていた東海地区の人たちから大変、喜ばれました。また、本学の歯学部設置は、全国の医学部・歯学部設立ブームのさきがけになりました」
 小出は、父親の有三について、こんな話をした。「父は法学部設置のさい、早大出身者を多く招請。学風は慶応を目指したようで、学生は中小企業のオーナーの子弟ら比較的裕福な家庭の学生を集めました。こうした気風は今も残っています」
 長男の忠孝は、55年名古屋大学医学部卒。同講師などを経て、64年に愛知学院大学理事、次いで教授に就任。88年から学院長・学長に。忠孝もまた、有三のDNAを継いだのか、進取の気概によって改革に乗り出す。
 90年に経営学部、98年に情報社会政策学部、03年に心身科学部、05年に薬学部を増設した。心身科学部に「健康科学科」を、08年には「健康栄養学科」を増設。時代のニーズに応える姿勢は父に似ている。
 「情報社会政策学部、心身科学部などの先端的な学部設置は、新しいことに挑戦するという狙いもあった。心身科学部は、文学部の臨床心理学科を独立させ、長寿社会を見据えて身体と心を学ぶのが目的です」
 「心身科学部の健康科学科はスポーツを通じての健康を学び、スポーツ指導者をめざす。健康栄養学科は、健康長寿を願う国民ニーズに応え食生活の改善を学び、また管理栄養士の養成に取り組んでいます」
 「薬学部設置は、薬の販売のみでなく医療の一部を担う医療薬学を目指している。新設学部だが薬剤師国家試験の合格率も全国でトップクラスで、先発の歯学部と切磋琢磨して薬学のグローバル化にも取り組んでいる」
 こうした小出父子の幾多の改革により現在、文・心身科学・商・経営・法・総合政策・薬・歯の8学部の総合大学に発展した。キャンパスは、日進(愛知県日進市)と楠元(名古屋市千種区楠元町)の二つ。
 日進キャンパスは、43万ヘクタールと広大。大食堂がありモスバーガー、スガキヤ、S&Bカレーショップの専門店が入店。3000台以上が駐車可能な学生用駐車場もある。
高い国家試験合格率
 楠元キャンパスは、歯学部〈専門課程〉と薬学部〈専門課程〉。前述のように歯科医師国家試験、薬剤師国家試験ともに全国トップクラスの合格率を誇る。09年の歯科医師国家試験合格率は89.5%、薬剤師国家試験合格率は96.2%。
 「学び力」について聞いた。開学以来、一貫して取り組んできたのは、禅の教えに基づく「人間教育」。小出が話す。
 「一人ひとりの学生と真剣に向き合い、可能性を導き出す教育です。人間には本来、数字のみでは表せない本質的な能力が備わっています。その能力に対する自覚を促し、やる気を引き出し、成長へと導くことです」
実学と少人数教育
 具体的には?「三つあります。実社会で役立つ実践的な力、行動力を身につける『実学』を重視します。また、『少人数教育』に重きを置いており、ゼミの学生数は10人から15人で密接なコミュニケーションが図られています。『コース制』を導入して、自分の興味関心や将来の進路に沿って授業が選択できます」
 また、社会人教育や、生涯学習に対応した公開講座や開放講座などにも積極的に取り組む。ラジオによる公開講座は東海ラジオなどで放送。「国公立大学による放送講座は多々ありますが、私立大学が実施するのは珍しく、リスナーから高い評価を得ています」
 続いて「就職力」。独自の支援プログラムとキャリアセンターによる4年間を通じての「自己発見」、「自己実現」の支援。「独自に構築した支援プログラムと、キャリアアドバイザーによるきめの細かい指導で、学生一人ひとりの目標実現をサポートしています」
 「学生は、明るく張り切りボーイが多い。お坊ちゃん的な慶応的な部分と進取の気概を持った早稲田的な部分を持ち合わせている。企業の人事担当者は、そうした点を評価してくれているようです」。父を思い出したかのように笑った。
 11万人を超える卒業生の助力も大きいという。地元の企業経営者の先輩も多い。十六銀行頭取は同大OBである。週刊誌の08年度版「大学ランキング」の20代社長ランキングは京都大学・東京理科大学と並んで11位だった。
文武両道日本一めざす
 「学生力」。「父がスポーツ好きで、強い運動部は母校愛につながるとスポーツ系クラブに力を入れてきた。野球部を筆頭にサッカー、バレーボールが頑張っている。高い歯科医師、薬剤師の国家試験合格率と合わせ、“文武両道日本一”をめざそうと学生には話している」
 名古屋市中央の新キャンパスは、来年にも建設に着手、2014年度に移転する予定。首都圏で展開された受験生確保のための都心回帰が名古屋でも行われている。
 名古屋中心部から離れて郊外にある四大学がこぞって名古屋中心部へ移転、もしくは移転を計画。かさむ交通費や移動時間がかかりすぎてアルバイトの選択肢が限られてくるという学生の要望に大学側が応えたようだ。
ビジネス系学部を移転
 「新キャンパスは学生・教員併せて2000人ほどの規模で、ビジネス系学部を移転させる計画。しかし、現在の日進キャンパスの素晴らしい環境も大事にして、双方が発展するキャンパス像を練っています」
 再び新しい時代を迎えますが?と小出に尋ねた。「これまで、世の中が求めている学部学科を設置して、それぞれ成功を収めてきた。これからは18歳人口が減って大学経営は厳しい時代を迎えるが、何を社会が求めているかを凝視し、それに合った教育を提供していきたい」
 伝統を守りつつ改革
 学生に言いたいことは?「女子サッカーの『なでしこジャパン』の活躍は、毎日の地道な努力の成果が出たということだ。毎日、毎日を努力して生きる、それが将来につながる。『行学一体』『報恩感謝』の気持を常に持っていてほしい」。伝統を守りつつの改革という姿勢は揺らぎがないように映った。


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