平成23年6月 第2447号(6月22日)
■授業改善のための小さな実践 ―定期試験が最善の方法か― 〈5〉
●定期試験か? 課題・小テストか?
文部科学省によると、授業期間内の定期試験は適切ではないが、必ずしも授業内での小テストを禁じてはいない。また、科目の特性による違いがあるものの、常に定期試験が好ましいのではない。結論から言うと、クリティカルシンキングの授業では、できるだけ定期試験でなく、課題・小テストを複数行うようにしている。
理由は次の通り。
一、定期試験は学生がまとめて学習するので、覚えるには良い機会だが、クリティカルシンキングでは単に覚える事より、考える習慣をつけるため繰り返して学習することが大切である。
二、定期試験は学生の理解度をまとめて確認できるものの、授業終了後に行うと、試験提出終了後に試験の解答状況を学生にフィードバックすることができない。課題・小テストならば、その次の授業で復習でき、必要な内容を講義で補うことができる。さらに、学生がなぜ間違えたのか、なぜ解答できなかったか等の理由を次の授業時に検討できる。そこで、教員は自分の授業方法・授業デザインを改良するためのヒントが得られる。このように課題・小テスト後の授業は、学生・教員の双方にとって大変有意義な機会となる。
三、課題・小テストの場合は、定期試験のような時間制限がないので、提出期間を数日間・数週間・数か月先と、柔軟に設定できる。つまり、長期間かけて考え、解答する方が良い内容でも出題が可能となる。
四、学生は定期試験期間のための学習負荷量を平準化することができる。そのうえ、課題・小テストのための学習時間が充分にとれる。
一方、課題・小テストを複数回実施すると、回収・管理の業務が多くなることが問題になる。しかし、Eメールで回収し、メール・ソフトの自動仕訳を利用すれば、業務はあまり増加しない。さらに、もしBbLS(WebCT)やWebClass等のeラーニングのシステムが利用可能であれば、回収・管理の業務は大幅に軽減される。
●教科書・Webが役に立たない問題を作成
長い時間をかけて考えた方が良い問題の場合は、Eメールで解答を提出するので、学生が教室を離れて解答をすることが可能である。この場合には、Web・教科書等をコピー&ペーストするカンニングを防止する対策が必要である。前回紹介した、初回に公表する試験問題もそうだが、教科書・Web等の参照が無意味・無駄である試験問題を作成すればよい。
なお、メールで提出するものは、学生同士の相談はOKとしている。しかし、文章化する際は一人で行うこととしている。もし、相談した学生と内容が酷似する場合には、出所として相談した事実を、相談相手の氏名を含めて明示することをルールにしている。
●コピペの防止対策
解答をワードで作成する方がカンニングが行われやすいと思われがちだが、敢えてワードでの提出としている。実はワードでの提出の方がカンニング答案の発見が容易である。提出された答案では,次に示すように検索が極めて簡単だからだ。
一、提出された答案で疑わしい部分をグーグル等で検索すれば、インターネットからのコピー&ペーストは発見できる。
二、昨年以前の答案と今年の答案全てを1つのワードファイルにして検索すれば、昨年以前の先輩の解答をコピーした答案でも発見できる。
三、コピペルナーのように,コピーを判定するソフトの利用も可能。
これらのカンニングの発見方法は、目的ではなく、手段にすぎないので予め授業で学生に喚起しておく。ワード等で書かれた答案は、手書きの答案よりもカンニングが発見されやすい。従って、他人の答案の転記や教科書・Web等を不当に転記することに対する抑止力は,手書きの答案よりもずっと大きく働くことになる。しかし、カンニングの抑止力増大ですら真の目的でなく、手段にすぎない。学生が自ら学習して実力をつけることが、カンニング防止対策の真の目的である。
●カンニング防止対策
短い時間で解答するべき問題の場合は、教室内だけで完了する短時間の小テストを行う。この場合は、学生同士の相談は禁止である。昔からカンニングを行うには「良い席、良い友、良い視力(メガネ)」とか「いい目、いい席、いい度胸」とか言われており、自由席の方がカンニングをしやすいようである。確かに、周りの「良い友」に囲まれた「良い席」であり、かつ、度胸やメガネが整っていれば、答案を写すことも不可能ではない。そこで、たとえ授業が自由席であっても、時間内の小テストであれば、あえて座席指定にしている。座席指定では、知人・友人間の慣れ合いを防げるだけでなく、答案を書き写すカンニングが容易に発見できるので、カンニングに対する抑止力が大きく働く。なお、指定座席表の作成は、エクセルで比較的簡単に作成できる。
●採点・成績転記
採点後に、SABC等の成績を付けて転記することは、重要な仕事であろう。私も含めて、大学の試験でマークシート等の自動採点システムを利用してない教員にとって、これらの業務の負荷量はなかり大きい。負荷を軽減するためには、エクセルが便利であり、実際に活用している教員も多い。なぜなら@採点結果を学籍番号順に記入でき、A採点を、設問別に行っても記入が容易である。Bそのうえ、試験点、課題点、普段点等の加算比率も簡単に設定でき、C成績分布の図示も容易である。D成績をマークシートに転記する作業は、手作業で行われる場合が多く、転記ミスが起こる可能性があるからだ。エクセル上での成績管理を、マークシートの成績記入用紙とそっくり同じ形に作成すると、転記ミスを防止できる。