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平成23年6月 第2445号(6月8日)

「学びのコミュニティ」に集う人々の強みを基盤に 〈下〉
 


名城大学大学院大学・学校づくり研究科研究科長・教授 木岡一明

1.多彩なスタッフによる教職協働
 高等教育分野から見ていくと、池田輝政教授は、よく知られているように、大学入試センター、メディア教育開発センターでの勤務を経て名古屋大学高等教育研究センター草創期を担い、名城大学に移り本研究科の創設を果たして初代研究科長に就き、さらに本学副学長を経験した、また相模女子大学の学外理事も務めてきた、まさに高等教育経営についての実践的研究者である。主任教授を務める浦田広朗教授は、計量的手法に長けていて高等教育の財務分析ができる数少ない研究者の一人であり、大学設置分科会の委員や私立高等教育研究所でのプロジェクトも担っている。中島英博准教授は、専門は計量経済学であるが、名古屋大学高等教育研究センター、三重大学高等教育創造開発センターでの勤務経験を活かして三年前に赴任してきた気鋭の研究者であり、北海道大学の客員教員も務め、各地のFD活動にも関わってきている。さらに本年度からスタッフに加わって「学修コンテンツ論」を担当する黒田光太郎教授は、量子工学の国際的な泰斗であるが、名古屋大学高等教育研究センター長や教養教育院長を務め、工学技術者倫理教育の重要性を提起してきた。このように、本研究科の高等教育分野のスタッフは、自らの勤務と絡めて実践的に教育・研究に取り組んでいる、本研究科の目指す「教育プロフェッション」なのである。
 他方、初等・中等教育分野では、前任校で経営学部長を務め大学経営のキャリアも有する酒井博世教授は、教職センター長も兼務して名城大学における教職課程経営に大きな責任を負っている。名城大学は、教員養成系大学ではないが、全国で教員として活躍する卒業生は2000名を超え、愛知県だけでも400名近くの県立高校教員(校長を含む)がいる。こうした教育ネットワークが酒井教授の強みの一つである。曽山和彦准教授は、養護学校を中心に16年間の初等中等学校教員キャリアを有し教育委員会勤務も経験して現職にある、特別支援教育や学級づくり、学校カウンセリングで全国的に著名な実践的研究者である。さらに、校長キャリアがあり理科教育で知られる野々山清教授、高校教員キャリアもあって数学教育で知られる竹内英人准教授、映像記録による授業研究のパイオニアである平山勉准教授、犬山市の学校づくりにも関わってきた片山信吾准教授がいる。こうした初等中等教育分野のスタッフは、これまでの研究とキャリア特性をうまく融合して本研究科の目指す人材育成に貢献してきている。私も、微力ながらそうありたいと思ってきた。
 こうした教員スタッフを助けてくれているのが、大学の部局だけでなく附属高校や教職センターでの勤務経験もある浅井幸子さんと、同じく附属高校での勤務経験も豊富な大脇肇部長である。特に大脇部長は、本学の卒業生でもあり校友会の副会長も務めている。
 こうして、研究科では、高等教育と初等中等教育、教育系職員と事務系職員、実践と研究、大学と社会の四つの次元で、教職協働を探究しているのである。
2.活躍する修了生による相互啓発
 修了生の活躍の一端を、大学職員に絞って、1期生から3期生まで順に紹介しよう。
 増田貴治氏(愛知東邦大学)は、修論では勤務校の抱える課題を背景に「小規模大学における教学と法人組織間で政策調整のあり方に関する事例研究」をまとめ、経営セクターと教学セクターが連携・結合して政策形成・実行を図る「調整機能」の重要性を解明したが、今は事務局長として、その機能発揮に奮闘している。同じく愛知東邦大学に勤務する所智子氏は、学修支援課での実践を基礎に「『入学前セミナー』のパイロット実践と効果の課題」をテーマに「大学教育フォーラムin東海2009」でのポスターセッションに参加した。宮城智明氏(豊橋技術科学大学)は、産学連携のあり方を修論において追究したが、その知見を外部資金係という職務に関連づけながら、平成20年度、「No残業デーと人事評価制度のコラボレーション〜残業に対する意識改革の第一歩として〜」を提案して学内表彰も受けている。小柳津久美子氏は、キャリア教育についてのコンサルタント業を営んでいて、修論でも「WIN―WINの視点に立つ大学2年次キャリア準備プログラムの開発研究」をテーマとし効果的なプログラム開発を果たしたが、その実績を基礎に、本年度から愛知東邦大学の学修支援センター(入学から卒業までのよろず相談機関)所属の准教授として勤務している。その他、本学職員である井上法保氏(キャリアセンター)、神保啓子氏(大学教育開発センター)は、修論と直結した職場で実践と理論の結合に努めている。
 2期生の大学職員は皆、本学職員である。難波輝吉氏は、修論でIRをテーマにし、修了後は、IDEや日本情報教育学会などで研究成果を発表する一方、大学教育開発センターでFDシステムの構築を担い、現在は総合政策部課長として法人経営の中枢を担っている。檜森茂樹氏は、「OJD」を鍵概念として職員育成システム改革のあり方を修論で探究したが、その成果は大学行政管理学会や高等教育研究会の機関誌、そして「大学教育改革フォーラムin東海2011」でも発表するとともに、人事担当として職員研修の改善に取り組んでいる。樋口義博氏は、「大学におけるボランティアセンター設置にかかる実証的研究」を修論でまとめ、修了後も本学のボランティア協議会の運営に尽力してきた。そして今、東日本大震災に対していかに大学として対処するかについての重要な案内役を務めている。
 3期生は6名中5名が大学職員である。小川由美子氏(愛知医療学院短期大学)は、戦略的人材育成についての事例研究を修論にまとめ、事務長としての職務に生かしつつ、日本リハビリテーション学校協会の第22回教育研究大会・教員研修会では「入学前教育」の成果を発表予定であり、所氏の取組とも共鳴し持続的で交流的な指向がうかがえる。住環境デザイナーでもある熊谷正信氏(愛知産業大学)は、「デザイン」と「ブランド」を鍵概念としてミラノ工科大学デザイン学部のブランド戦略を修論のテーマとし、修了後はその成果を勤務校でのFD活動や公開講座に生かしている。二宮加代子氏(愛知東邦大学)は、修論では、心的障がい傾向を有する学生へのアプローチに焦点化して学生支援体制の組織化を探究し、「チーム・アプローチ」の有効性を明らかにして、修了後、勤務校において職員によるチーム支援体制導入を果たした。浦雪氏は、中国からの留学生であり「小規模大学における留学生の日本語教育プログラム開発」を修論の課題とし、事例大学に沿って課題を明らかにしたが、その成果を持って、昨年度から事例大学の留学生担当職員となっている。本学職員である中村康生氏は、新聞記者時代のネットワークと取材テクニックを生かして修論に取組み、記者時代に取材した教育トピックの意味づけに成功するとともに、本学での広報部員としてその手腕を発揮している。
 4期生は修了後まだ日が浅いので、修了後の活躍を紹介できる段階ではないが、藤井玲子氏(愛知東邦大学)が、修論で述べているように、学校種や職種の枠を超えた学びは刺激的であり、職務上の「観の転換」を惹起する意味ある仕掛けとなっているといえよう。


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