平成23年1月 第2426号(1月1日)
■2011年年頭所感
大都市圏集中の弊害!?
加盟校の皆様、おめでとうございます。長引く不況と困迷気味の政治情勢が好転の兆しのないまま、新しい年を迎えました。
恒例となった(財)日本漢字能力検定協会が発表した昨年の世相を表す漢字の第1位には、夏場の記録的な「猛暑」日の連続、地球温暖化を直に感じさせた「酷暑」、さらにまた、約1万度という大気圏突入時の「暑さ」に耐えて無事地球に帰還した「はやぶさ」の話題などから、『暑』が選ばれたようです。投票の応募総数約28万票中、1万4537票(5.09九%)の第1位だったとのこと。
この28万票で思い返されるのは、昨年の平成23年度予算編成での「元気な日本復活特別枠」事業の政策コンテストでのパブリックコメントの応募数です。文部科学省要望の10事業に対する教育に関心のある国民からの応募意見数は約28万票で、なんと全体の78.8%にも達したのです。にもかかわらず、10事業のうち、A〜Dの4段階で「A評価」が一つもなかったことは記憶に新しい。教育関係者にとっては頭の中がカッとなって、「熱く」なる思いだったことでしょう。
さて、中央教育審議会大学分科会の「中長期的な大学教育の在り方について」(平成20年9月に、当時の鈴木恒夫文科大臣が諮問)に関する審議は、この1月末に今期の委員の任期満了もあり、区切りとしての答申や報告が取りまとめられる予定です。そのうち、私立大学にも関わりの大きい『量的規模と大学教育の質』の審議では、@教育の質の保証と向上、A機能別分化と大学間連携の促進、B教育研究機能の充実のための組織・経営基盤強化への取組とそれらの情報公表が求められています。
そこで、一番気になるのが「量的規模」です。大学分科会委員の中にも「ダメな大学は退場してもらえばいい」といった意見の方もいるらしい。本当にそれでいいのでしょうか。今日の大都市圏への一極集中の流れの中で、地方では入学定員未充足の私立大学が38%を超え、特に中小規模大学は厳しい状況です。しかし、各大学は、それぞれの地域で特色ある各種連携活動等を通して地域貢献に取り組んでいます。人材育成を含めて地域に認められなくなったら、存在意義はなくなるのです。
ですから、地域を活性化させ、地域で活躍できる人材を育成し、地域とともに生きることが求められていると言っても過言ではないでしょう。そうでなければ、学生を含めて全てが大都市圏に集中してしまい、地方はますます疲弊してしまいます。たとえ個人商店や中小企業でも、情報化の波をかぶり新しい事業展開等を図るための素養を身につける教育機関は必要なのです。
先般、ある企業人の講演を聞く機会がありました。産業界でも近年の大都市圏集中によって、多くの企業が地方から本社等の主要部門を移転するとともに、工場等の生産部門は海外へと移してしまい、まさに地方は「空洞化」しているというのです。「生産現場の無いところに技術革新は無い」と言っています。地域の特色ある、そして伝統のある産業の火が消えてしまうのです。一極集中化は避けなければならないというのです。
歴史を振り返ってみても、あの明治維新という大改革を成し遂げた人々の多くは、江戸時代の地方分権国家の下で、各地方の「私塾」等で育った人材だったのです。大都市で育った人材だけで近代国家の幕が開いたわけではないのです。
さて、私立大学は、わが国の高等教育の約8割の「将来の日本を背負う圧倒的多数の中核的人材」の育成という重責を担っています。その責任を果たしていくためには、やはり公的財政支援の拡充が欠かせません。今日、私立大学への教育・研究等の経常的経費に対する補助率は、年々減少傾向にあります。教育への公財政支出は高等教育全体でも、対GDP比で0.5%、これは、OECD加盟28か国中27位の低さです。(OECD平均1.0%)。さらに、学生1人当たりで見ると、私立大学の学生1人当たりでは年間約17万円、国立大学の学生1人当たりは約187万円(平成20年度)となっており、私立大学と国立大学の差は歴然です。
これらのことから、私立大学、国立大学、そして公立大学への公財政支出の在り方については、その役割等も含めて、効率化の視点からの見直しが急務なのです。
いずれにしても、私立大学を取り巻く状況は厳しく、課題は山積しています。不易流行、「変わらなくてよいもの、変えるべきもの」をわきまえ、私立大学振興のためのパラダイムシフトの構築をめざし、団体の役割を果たす決意を新たにしています。
最後に、皆々様のご健康を心より祈念して年頭のご挨拶と致します。