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平成22年11月 第2420号(11月3日)

キャンパス・アジア アジア高等教育圏を目指して@ 
アジア版エラスムスか 「キャンパス・アジア」構想と大学間交流の推進


放送大学広島学習センター所長 二宮 皓 

 現在、中央教育審議会大学分科会の大学グローバル化検討ワーキンググループ等で、アジア版エラスムス計画ともいえる日中韓での「キャンパス・アジア」構想などが議論されている。各大学においては、それぞれの大学の理念・背景を踏まえて受け入れ準備を行う必要も出てくるであろう。このたびは、同構想の社会的・経済的背景も含め、同分野の第一人者に寄稿して頂いた。5回連載。

日中韓大学間交流・連携推進会議のスタート
 アジア版エラスムス構想として活発に議論される契機となった政策が、自民党政権下(安倍元総理)での「アジア・ゲートウェイ戦略」構想であったことは記憶に新しい。その構想を具体の留学生政策に落としたのが、あとを受けた福田元総理の「留学生30万人計画」である。中央教育審議会特別部会(木村孟座長)は急きょ、留学生30万人計画に対応する答申をまとめ、留学生政策の活性化を提言した。
 民主党政権の鳩山前総理は、東アジア共同体構想を提言し、その中で単位互換などを含めた質の保証を伴なった大学間交流の推進を力説した。2009九年10月10日の第2回日中韓サミットにおいては、「質の高い交流を行うために有識者会議を設置する」ことを提案。これを受けて当面、日本と中国・韓国の3カ国の具体的な大学間交流推進について合意され、早速に文部科学省のリーダーシップのもとに(この意味では文部科学省が高等教育政策における直接的な外交を行うという画期的なものであった)、第1回日中韓大学間交流・連携推進会議が2010年4月16日、東京において開催された。キャンパス・アジア構想のスタートである。
 この会議は、日本側が安西祐一郎慶應義塾大学顧問、中国側が呉博達教育部学位・大学院生教育発展センター主任、韓国側がソン・テジュ大学教育協議会事務総長を共同議長とするものであり、日本側委員は、中鉢良治ソニー副会長、寺島実郎多摩大学長、濱田純一東京大学総長、平野眞一(独)大学評価・学位授与機構長、コ永 保文部科学省高等教育局長(当時)で組織されていた。
 会議では、日中韓での質の保証の伴う大学間交流の拡大が、東アジアにおける学生や教員の移動(流動)が活性化し、経済活動の一体化が進展する中で、「地域全体を視野に入れた人材育成に不可欠」であること、ひいてはそれが「東アジア共同体の実現」にも貢献することで基本的な認識が一致した。
「キャンパス・アジア」構想と質保証の伴った大学間交流
 会議では、韓国の提案により、この構想をキャンパス・アジアと呼ぶことで合意した。その意味は英語の略称で、Collective Action for Mobility Program of University Studentsの頭文字をとって、CAMPUS Asiaとしている。「大学生の交流プログラムに関する協同事業」とでも訳すべきもので、EUのERASMUS計画に似た名称となっている(The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students)。その意味ではアジア版エラスムスの具体的な事業のひな形(地域限定)であるといえ、安西共同議長の提案のように、「今後、アジアへの拡大も視野に入れて進展する」ものとして期待される。
 この構想を具体的にどのように推進すべきかを検討するワーキンググループが設置されているが、その1つが「質保証」であり、もうひとつが「大学間交流」である。なおこれらのワーキンググループの第1回会合は2010年8月に東京で開催されたが、内容は非公開となっている。
 さて、公表されている検討事項を見てみると、以下のような構想の特色が明らかになってくる。
 まず、日中韓における大学間交流を進める上で最も重要な要件として、大学教育交流の質保証をどのように担保すべきか、という点を指摘することができる。中央教育審議会大学分科会での協議に見られるように、国境を超える教育サービスの提供や大学間交流プログラム(ダブルディグリーなど)において信用を失うような学位や教育プログラムを提供しないための質保証の仕組み(ディグリーミル問題)が重要な課題として提起されている。質保証の枠組みや仕組みづくり、相互の協力体制などが検討され、相互理解が図られることが期待されている。大学が自ら質保証の観点から責任あるプログラムの開発・展開を行うことが強く求められているともいえる。
 さらに単位互換や単位認定の制度設計、学位授与のためのカリキュラムなどの制度設計が質保証の観点から具体に求められる検討事項となる。つまり質保証が伴う単位互換とはどのようなものかが明確化され、共通に合意される必要がでてくる。大学においてもそれぞれの大学間の制度の違いをどのように調整・調和し、その透明性をどのように確保するのか、大いに工夫が求められる。単位互換スキームとしては今や世界には、ECTS(ヨーロッパ)、UCTS(UMAP(アジア太平洋地域))、ACTS(アセアン諸国)、その他いくつかの国際標準型システムが開発・実践されている。こうした国際社会で議論され、実施されている単位互換スキームを参考にしながら、どのような理念・哲学で、どのような方法・制度で単位を互換したり、認可したりすべきか、各大学が自ら工夫していくことになるだろう。そのことは日中韓の協議において最も難しい部分になるかもしれないし、大学間交流の質を左右するものとなるかもしれない。学生が移動すればいい、という単純な発想、留学生が増えればいい、という短絡的な発想ではもはや通用しなくなると考えられる。
 そうした質の保証を伴う大学間交流のためのガイドラインがこの日中韓大学間交流・連携推進会議で取りまとめられることになっているが、そうなれば日中韓の3カ国において了承されるものとなり、さらにはアジア地域へ発信され、大学間交流の推進において参照されるものとなるという意味で、極めて画期的である。どこまでどのような内容が準備され、合意されるのかについては現時点では不明であるが、これからの数回の会議等を通じて何らかの姿が明らかにされるものと期待している。
パイロットプログラムの早期実施
 さて同会議の今後の進め方に関する公開情報をみると、パイロットプログラムの早期実施とその支援方策を検討することになっている。パイロットプログラムとは、「キャンパス・アジア」構想のパイロットプログラムである。平成23年度予算要求の中で一部関連する項目があるのかもしれないが、要は、日中韓の大学が協力・連携して、質の保証の伴った大学間交流事業を開発し、実施するという先導的プログラムをお願いする、ということにある。その大学がどのように日中韓で公募されるのか、そのための予算措置がどのように行われるのか、など見えない部分は多いが、大学の主体的な取り組みを応援することでもって、アジアを見据えた日中韓の間の質の保証を担保する大学間交流プログラムが推進されることが期待されている。
 アジア市場でのグローバル人材が求められ、また東アジア共同体構想が依然として政策課題として位置付けられている中で、アジア版エラスムスとでもいうべきキャンパス・アジア構想による新たな大学教育の国際化、とりわけ国際的な大学間連携による人材育成が求められていることは間違いない。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shitu/1292771.htm参照)

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