平成22年10月 第2418号(10月13日)
■新刊紹介
「小さいおうち」
中島京子 著
芥川賞のあとは直木賞受賞作。二人のストーリーテラーとしての妙にゾクゾクしながら読んだ。
舞台は戦前・戦中の東京・山の手の家族。住み込みで働く女中、タキの回想という手法で、当時の中産階級の暮らしぶりを描く。
〈わたしがその仕事についた時代は、「よい女中なくしてよい家庭はない」と、どの奥様だって知っておられたものだ〉。タキと奥様の次の会話にも象徴される。
「奥様、わたし、一生、この家を守ってまいります」、「あらいやだ、あなただってそろそろお嫁に行くことを考える年齢じゃあないの」
物語は単なる回想で終わらない。奥様は夫の部下の男性と深い関係になる。それをすぐにタキは察知する。戦時下の恋愛。奥様へこう助言する。
「およしになったほうがよろしゅうございます」、「お諦めになってください」
圧巻の最終章。タキの回想ノートを盗み読みする甥の次男、健史が物語を引き継ぐ。どんでん返しの結末。タキの後悔や奥様への想いが行間から浮かび上がる。
かつて女中小説というジャンルがあった。「女中の手紙」(林芙美子)、「たまの話」(吉屋信子)などが代表作だそうだ。この本が引き継ぐ。
我らの世代は女中映画か。小学生のころ、学校の講堂で映画を鑑賞した。左幸子演じる健気な「女中っこ」を見て涙した。昨今、女中が主役の映画もなくなった。
著者は「女中小説は、これで当面打ち止めにしたい」と言う。そういわず、小説のほうではもっと続けて欲しい。
「小さいおうち」 中島京子 著
文藝春秋
п@03―3265―1211
定価 1660円
文藝春秋
п@03―3265―1211
定価 1660円