平成22年10月 第2418号(10月13日)
■大学は往く
新しい学園像を求めて〈1〉
福岡工業大学
就職教育と就職支援が後盾
苦難を乗り越え 先進的な経営管理と財務
連載企画の初回というのは緊張するものである。喫緊のテーマである就職を選んだ。就職氷河期といわれるなか、この3月の就職内定率91.3%と気を吐くのが福岡工業大学(下村輝夫学長、福岡市東区)。同大のモットーのひとつは「就職日本一」。高い就職率をバックアップするのが、専門・基礎教育と丁寧な就職支援。将来の目的にあわせた「履修登録のアドバイス」、教員による「オフィスアワー」、大学と家庭のコミュニケーションを図る「教育後援会懇談会」の実施。就職課職員が一人1学科を担当する「テリトリー制度」の導入。この秋、同学のキャリア形成支援プログラムが文部科学省の「平成22年度 大学生の就業力育成支援事業」に選定された。これらを下支えするのが先進的な経営管理システムや財務運営といった大学運営力。九州一を誇る就職力の源泉と、それを支える教育、研究の実際、そして大学運営力。これらの現状を学長に聞いた。
(文中敬称略)
就職内定率91.3%
「就職日本一」をめざす
福岡工業大学(福工大)は、JR九州鹿児島本線で博多駅から快速で13分。福工大前駅で降りれば目の前に緑豊かなキャンパスが広がる。2008年3月、これまでのJR筑前新宮駅の名称が「福工大前駅」に変更された。
福工大は1954年開設の福岡高等無線電信学校が前身。60年、福岡電子工業短期大学を、63年、福岡電波学園電子工業大学工学部を開設、66年、大学の名称を福岡工業大学に変更した。
97年、情報工学部を、01年、文系の社会環境学部(社会環境学科)をそれぞれ新設した。現在、理系の工学部と情報工学部、文系の社会環境学部の3学部に、約4500人の学生が学ぶ。
学長の下村が福工大を語る。「情報・環境・モノづくりの3分野を主体に、めざすのは社会に貢献できる人材の育成。これに不可欠なのが『人間力』で、それは社会的なモラルであり、自立心を持って生き抜く力です」
もうひとつのモットーは「一人ひとりに対する創造的能力とセンスを伸ばす丁寧な教育」。
「モノづくりに強い大学」と言われてきた。99年発足の「モノづくりセンター」が後押しした。下村が説明する。「モノづくりセンターは課外活動として学生は自由に利用でき、ロボット、電気自動車、ソーラーカー、ビオトープなど12のプロジェクトがあり、様ざまな分野で成果をあげています。正課でも、モノづくり教育は動機付けなど教育研究の一環として推進しています」
ロボットでは、世界大会7回出場のロボカップや、国内大会7回出場のNHK大学ロボコン、ソーラーカーでは4時間耐久レースに8回出場するなどの実績がある。
強い就職力は次の数字で一目瞭然。2010年3月卒業生の就職内定率は91.3%(うち女子学生88.9%)、文系の社会環境学部は90.2%。この数字は九州の私大でトップクラス。
高い就職内定率を支える教職員一体となった専門・基礎教育と就職支援。「その前に…」と下村が話す。「ビジネス誌の大学ランクでは九州地区で学生支援力が高い大学で1位、面倒見のいい大学、就職に力を入れている大学、小規模だが評価できる大学でそれぞれ2位にランクされました」
専門・基礎教育では、入学前教育から動機付け教育、資格取得支援など様々な取組みを行い、入学から卒業まできめ細かで丁寧な教育を行う。
就職支援では、「1年次では、企業トップや講師を招き、挨拶やマナーの大切さ、社会へ出る意義などを学び、2年次では、各種ガイダンス、グループディスカッション、個人面談で就職意識を調査、3、4年次では、保護者ガイダンス、模擬面接、年10回の筆記試験対策を行っています」
学生が多くの企業とコンタクトできるよう、OBによる企業セミナー、合同企業面談会などを実施。今年2月の学内合同企業面談会には、3日間で322社が参加、この面談会を通じて内定をとる学生も多い。
就職支援のユニークな取組みのひとつが、就職チャンスの平等を目的に始まった交通費支援制度。就職活動には出費がかさむもの。東京や大阪などの会社説明会や面談会に参加するための交通費はばかにならない。
「関東・関西・東海地区の企業を受験する場合は往復交通費を、博多駅を基点に200キロメートル以上離れた出身県の企業を受験する場合は往復交通費の半額を支給します」。一人2回までで、昨年は延べ540人が利用した。
もうひとつが、卒業後1年間は就職のフォローを受けられる「プラスワンプロジェクト」。卒業時に就職できなかった学生は、卒業後1年間は無償で在学時とほぼ同様、学内就職行事への参加や支援を受けられる。
福工大の学生のどういった面を企業は評価するのか。「人間力プラス創造力や協調性を伸ばす創成型教育で培った努力することを怠らない、結果を残す、礼儀正しい、といったあたりではないでしょうか」と下村。
地域貢献も人間力育成に大きな役割を果たす。「97年のキャンパスサミットを機に、学生と地域による周辺町内の清掃や古紙回収、校区のホームページ作成、地域の防犯パトロール、市民向けの生涯教育や図書館開放などを実施。地域との共生を図りつつ大学ブランドのさらなる向上を目指しています」
順調にみえる福工大だが、苦難の時代も。18歳人口の減少に伴い志願者も減少傾向に。そこで「05年に常務理事を議長に、学長、教職員からなる募集戦略会議を設置。さまざまなデータをもとに分析、検討を行い、ここで承認された募集活動の手法やデータを共有して教職員一体で取り組みました」
そのひとつに、事務職員は高校訪問、教員は出前授業を担当するという教員と事務職員の役割の明確化がある。06年には入試課と広報課を合体して入試広報部とし、学長が部長を兼務。こうした改革が実り、志願者は07年度から4年連続で増加を続けている。
福工大の経営理念は「For all the students」。これを旗印に大学経営を行う。MP(中期経営計画)の方針に基づきAP(行動計画)を策定。審査会〜中間報告会〜レビュー〜報告会〜成果発表会のサイクルで事業の計画性実現と継続的改善を行う。
現在、第5次MPを実施中。この経営管理システムや財務運営は外部から高い評価を受け、国公私立大学730の大学ランキングで、経営戦略では22位、財務管理などでは23位と大学運営力は際立っている。
「就職力は、この大学運営力に支えられています」と下村。「ようやく工と文の融合が出来てきたので新学科設置を含む改組を計画している」。大学運営力と就業力・教育力という二重構造の力で福工大はモットーの「就職日本一」実現をめざす。