平成22年10月 第2418号(10月13日)
■ヨーロッパ高等教育改革の潮流〈2〉
ボローニャ・プロセスの達成状況
2009年4月にベルギーのルーヴァンで開催されたフォローアップ会議の報告書では、@学位制度、A質の保証、B学位等の承認と生涯学習に大きく区分され、全体で10の課題ごとに、各国の達成度が「すでに達成されている」(「A」)から「まだ着手されていない」(「E」)までの5段階で表されている。
表1は、各課題について、各国がどの段階まで到達しているか、段階ごとの国の数を一覧にしたもの。なお括弧内は、前回(ロンドン会議、2007年)の数値である。
なお、ベルギーは、ベルギー(フラマン語圏)とベルギー(フランス語圏)として、英国は、英国(イングランド、ウェールズ、北アイルランド)と英国(スコットランド)として、それぞれ別個にデータが提出されている。従って、数は48か国となっている。
まず1の課題を見ると、@学部(第1サイクル)、大学院(第2サイクル)という段階化された高等教育の基本構造の導入については、ほとんどの国で定着しつつある。A第1サイクルから第2サイクルへの接続関係についても、大多数の国で制度的に支障なく行われている。B「ヨーロッパ資格枠組み」と対応する国レベルの資格枠組みの実施については、多くの国々はまだ「C」以下である。
なお「ヨーロッパ資格枠組み」(EQF)は、EUが策定した資格のレベルで、「レベル1」から「レベル8」の八段階に区分されている。図に示したように、Aという国のある資格は、A国の資格枠組みでは「レベル7」に相当するが、それはEQFの「レベル6」と対応する。一方、Bという国のある資格は、B国の資格枠組みでは「レベル5」に相当するが、それはEQFの「レベル6」と対応する。そうすると、A国のある資格と、B国のある資格は、ともにEQFの「レベル6」に相当するということで、同じレベルと見なされるという仕組みである。ボローニャ・プロセスの、「学士」、「修士」、「博士」は、EQFの「レベル6」、「レベル7」、「レベル8」に相当する。EQFはすでに策定されているが、これと対応する国レベルの資格枠組みについては、まだ多くの国で実施段階に至っていない。
2の、質の保証にかかわる課題では、@内部評価だけでなく外部評価が行われ、その結果が公表されているか、A学生が評価に関与しているか、B外国人を評価者に加えた国際的な評価体制が構築されているか、について検証されている。
3の課題では、次のような現状である。@ディプロマ・サプリメント(学士、修士などの学位に添付される補足書類で、取得学位・資格の内容、授与機関等について標準化された英語で追加情報が記載されたもの)については、多くの国ですでに導入済みである。Aリスボン協定(1997年に欧州審議会とユネスコが合同でとりまとめた「ヨーロッパ地域の高等教育に関する資格の相互承認協定」)については、参加国はこの協定に調印し、大部分の国はこれに対応する国内法の改正もすでにすませている。Bヨーロッパ単位互換制度(ECTS)は、普及してきている。Cこれまでの学習成果を、その後の学習に加算するシステム(たとえば、職業教育により取得した資格を普通教育の資格に加算できるシステム)についても、徐々に体制が整いつつある。
ボローニャ・プロセスの今後の課題
2009年のルーヴァン・フォローアップ会議の報告書では、今後に向けて次のような課題が挙げられている。
@学生、教職員の移動を更に促進させる。卒業する学生の少なくとも20%は、外国での学習または訓練を経験しているものとする。A出身階層による不利を除去する社会的次元への配慮(マイノリティ集団に属する人たちの高等教育へのアクセスを拡大)。B卒業者の雇用可能性を改善する。C学生中心のカリキュラム改革を進める。D「ヨーロッパ資格枠組み」と参照可能な国の資格枠組みを策定する。
以上を通して、グローバルな文脈のなかで、「ヨーロッパ高等教育圏」の推進を図る。
ボローニャ・プロセスに対する批判
ボローニャ・プロセスによる大学改革(ボローニャ改革)に反対して、とくに2009年秋を中心に、ドイツ全土で、学生の大規模なデモや、大学の占拠があった。批判としては、大きく次の3点が挙げられている。
@大学の学校化:大学が、ギムナジウムの延長になってしまった。アビトゥーアのあともう三年間学校に通っているようなものである。3年で卒業するように規則化され、負担が増え、「自由な学習」というドイツの大学の伝統が失われた。
A職業準備への狭小化:幅広い教育が求められなくなった。大学の授業が、経済界が求める基準にそった狭い職業準備に偏っている。フンボルトの理念である「包括的な教育」に代わり、市場の論理を志向した大学に変わってしまった。
B大学間の移動に障害:本来、ボローニャ・プロセスは大学間の移動を促進することを目指したものであった。しかし現実には、内外の大学間の移動が困難となっている。その理由として、カリキュラムが窮屈になり、大学を移動しても、移動先の大学のカリキュラムに合わせる余裕がない。