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平成22年9月 第2416号(9月22日)

高めよ 深めよ 大学広報力  連載を終えて(下)
 広報に求められる意欲と工夫
 トップの理解を得よ アンテナと人脈づくりを

 本紙の連載企画「高めよ 深めよ 大学広報力」の連載を終えるにあたって企画の振返りをしている。(上)では、改革を行った大学が獲得した成果と大学広報の役回り…という視点で印象に残った事柄や他大学にとって参考になることを紹介。(下)では、いま、大学の置かれた状況を見据え、取材した大学のマーケティングの権威である学長、マスコミ出身の大学広報担当者、企業の広報担当者、さらに取材する側の新聞記者らマスコミ人らからの意見や助言を載せる。ねらいは、「これからの大学広報はどうあるべきか」を再考することにある。連載の最後にあたって言えるのは、厳しさを増す大学経営にあって、広報の役割はこれまで以上に大事になる。動かない水は腐る。大学は動かなければ、そう、改革しなければ生き残りは厳しい。その牽引車たる大学広報に課せられた責務は極めて大きい。

 本論に入る前に、現在の大学が置かれた状況と、そこから抜け出すには、広報は、どうすればよいのか。ここから入りたい。
 現在の大学が置かれた状況はこうだ。〈2000年前後の大学・学部増設から、いまや少子化・定員割れと時代の「回転ドア」が回った。時代は流れる。「動かない水は腐る」といわれる。大学は動かなければ、言葉を変えれば、改革し続けなければ生き残れない〉
 この厳しい状況に、大学広報はどうすればよいのか。取材した大学関係者やマスコミ人、企業の広報担当者らの意見をまとめると、こうなる。
 最初から、結論を述べるようになるが、「こうやれば成功する」という特効薬はない。大学トップの理解を得、プレスリリースの発行など広報活動の基本的なことを押さえ、それに独自性を付加させていく。これがベターである。もちろん、大学の歴史、規模、総合と単科大学などによって異なる。
 本論に入る。大学が、教育や研究、地域貢献、スポーツ、課外活動などの分野で、他大学では行っていない改革をしたり、他大学より優れた成果や成績を収めたり…それは大学の優位性だ。ブランド力につながり、受験生確保という大学の“米櫃”にも結びつく。
 しかし、そうしたことが外部、とくにステークホルダーに伝わらなければ意味はない。宝の持ち腐れ、といっていい。こうした大学の優れたことや独自性などを、内外に伝える役目を担うのが大学の宣伝広報だ。
 宣伝は費用がかかるので、大学の財政力によるが、広報はあまり関係ない。ネタ(材料)を提供してマスコミに取り上げてもらえれば役割を果たす。ニュースとして取り上げられる点では宣伝よりも効力は大きい。
 広報担当者がプレスリリースをマスコミに送れば、すぐに取り上げてくれるとは限らない。広報担当者の工夫や人脈など広報力にかかっているといってもいい。新聞記者らマスコミ人との良好な関係も大事な要素だ。
 広報担当者の工夫や人脈で、印象に残った二人の大学幹部の話。
 「入学・卒業式のプレスリリースを書くとき、今年も何人が入学(卒業)したと書くのでなく、入学(卒業)した学生には、こんなユニークな学生がいる、と特定の個人にスポットをあてる。このように、マスコミに取り上げてもらうには工夫が必要だ」(前橋国際大学・大学運営センター長、岩田雅明さん)
 「プレスリリースは“数撃ちゃ当たる”ではない。マスコミとの人間関係づくりが大事。それができれば“このニュースはオタクだけです”と特定のマスコミだけに流して、より大きく扱ってもらうことも可能だ」(千葉工業大学入試広報部長の藤井正温さん)
 広報力が発揮されるには、広報現場の意欲・工夫、そして人脈構築が大事なファクターである。広報担当者の役目、役割は極めて大きい。とくに、現在の大学が置かれた厳しい状況を考えると、その比重は増す。
 広報担当者は、マスコミは大学がらみの話題では「どういうことを取り上げるのか」と常に頭の中に入れておく。それを広報して“成功”すれば「こういうことをやればマスコミは取り上げてくれる」と自覚する。そうなればしめたものだ。
 マスコミなどが開く「広報セミナー」に参加するのも広報マインドを磨く面からお勧めだ。広報セミナーで講演する企業のベテラン広報担当者から聞いた「広報マンの心得」を紹介する。
 「広報の役目は4つの言葉に集約される。広める(大学の理念を広く知ってもらう)、創る(世相やトレンドを創る)、溜める(情報や人脈を溜めておく)、止める(イメージダウンの防止策を考えておく)。この4つを拳拳服膺すべきだ」
 「広報担当者がまず、すべきはトップの理解を得ること。広報というものはトップとの密接な関係があって、初めて力が発揮できる。トップの理解がない広報は羅針盤のない船と同じだ」
 「学内外にアンテナ張り巡らせよ。世の中の動きが自分の大学にどう関わっているのかをつかむことが必要だ。それには学内だけでなく国内外に情報のアンテナを多く広く張り巡らせることだ」
 大学が提供するニュースを取り上げる側のマスコミ人の話も参考になる。2人の教育担当の新聞記者から聞いた話。
 「広報活動では、誰に、どう伝えるかが要諦。ステークホルダーは受験生、保護者、高校教員、卒業生、地域住民、行政、就職先の企業など様々。どう優先順位をつけ訴求していくか。また、伝える手段も新聞、テレビ、雑誌だけでなくネットや携帯電話、フリーペーパー、情報誌と多様化しており、どれにするかを分析検討する必要がある」
 「広報活動というと、学外広報がメインと思いがちだが、学内広報も実は大事だ。いくら、立派な施策をやっていても、教職員の中に“他人事”としらける者がいたら外へも良さが伝わらない。教育理念や目指すべき方向性が教職員や在学生に浸透し、学内にいるみんなの満足度や意識を高めるのが肝要だ」
 取材でたいへんお世話になったマーケティングの権威でもある静岡産業大学の大坪 檀学長から聞いた「ちょっといい話」で連載を閉めたい。
 「大学がせっかくいろいろな施策を展開しているのに、受験生が集まらない場合、入試広報戦略を検討すべきだと思う。大学の在り方、活動を革新するにも入試広報戦略の立場から取り組むのが有効である。
 大学でマーケティング活動を始める場合、入試広報活動の組織化とふさわしい人材配置から始めるべきだ。入試広報部門は大学本部に置き、各学部に出先組織を配置、大学が一体となって入試広報活動が展開されるのが望ましい」

 次号から新しい連載をスタートさせる。タイトルは「大学を往く―新しい学園像を求めて―」。大学広報力の取材を通して実感したのは、広報力ある大学は独自性があり、いわゆる機能別分化を実践していた。
 このように、他の大学にはない、優れたことに取り組む大学と群像を取り上げていきたい。また、教職員、学生らが教育・研究・地域貢献・大学経営・文化・スポーツといった各分野で活躍する姿の特集も組む予定。お楽しみに。


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