平成22年9月 第2414号(9月1日)
■新刊紹介
「原 節子 あるがままに生きて」
貴田 庄 著
歴史上の人物ならともかく、現存する人物を一度も会わずに本にまとめた。その努力は買うが、評価は別物である。
著者は、巨匠、小津安二郎ものの書き手として知られる。原節子を選んだのは〈小津の映画に出演した俳優について、一冊の本を書きたかった〉と正直だ。
著書の最後に、主な引用文献と参考文献が9頁にわたって出ている。これらを時系列にまとめたわけだが、新しい発見はなかった。
小津との結婚の噂については、小津研究家の著者に期待した。が、〈よくよく考えてみれば、二人は結婚しない方がいいでしょう〉で終わっては隔靴掻痒。
原節子のおもしろい発言を引っ張り出しているのがいい。原節子の偶像化を打ち消す。〈好きなものを順にいえば、まず読書、次が泣くこと、その次がビール、それから怠けること〉
〈「永遠の処女」とか「神秘の女優」なんて、名前はジャーナリズムが勝手につけてくれたものですから責任は負わないけど、私だってカゼも引けばハナも出るし…〉
最終章の「その後の原節子」で、週刊誌や月刊誌、新聞の原節子にまつわる醜聞を紹介している。〈彼女のことを貶めるようなことは書かなかった〉。これでは、著者の言と整合性がとれないのではないか。
冒頭の評価だが、昨年来、評判の全共闘や連合赤軍など70年闘争を描いた大著「1968」(小熊英二著、新曜社)も当事者への直接の取材は一切なしだった。このような風潮は好ましいとはいえない。
「原 節子 あるがままに生きて」 貴田 庄 著
朝日文庫
п@03―5541―8832
定価 680円+税
朝日文庫
п@03―5541―8832
定価 680円+税