平成22年6月 第2406号(6月23日)
■新刊紹介
「いまも、君を想う」
川本三郎 編
タイトルがいい。〈家内あっての自分だった。7歳も年下の君が癌で、こんなに早く逝ってしまうとは〉という本の帯が本を優しく開かせる。
葬式はすべきだ、という志がいい。〈人間の暮しには、日常生活とは別の時間が流れる「儀式」が必要だと思う。(中略)ひとは儀式のなかに身をおくことで死者を想い、そしていずれは自分にも必ずやってくる死について考えることが出来る〉
感傷を抑えた文章がいい。〈朝、起きて、御飯を炊き、それを家内の仏前に供えてから原稿用紙に向かう〉
それでも涙が止まらなかった。こんなくだり。
〈家内が順天堂病院に入院することになった時、相部屋でいいと言う家内を説得して個室を選んだ。(中略)「ごめんね。人生、狂っちゃったね」という家内がいじらしかった〉
〈大事な娘の死は老父にはこたえたのだろう。家内の死の直前、娘の手を握り、「俺より先に逝くな」と男泣きしていた姿が忘れられない〉
「60の手習い」で作ったという短歌がいい。
公園墓地と言う霊園で
亡き妻を思いひとり弁当を食う
いい夫婦だった。夫は私鉄に乗り込む寸前、携帯電話でヘルパーさんに妻の在宅介護を頼んだ。大きな声に中年の女性から注意された。「女房が生きるか、死ぬかなんだ!」と怒鳴っていた。
妻は、結婚の約束をしていた著者から警察に逮捕され会社もクビになり、「身を引きたい」と伝えられた。「私は朝日新聞社と結婚するのではありません」と言った。夫27歳、妻21歳の時だった。
「いまも、君を想う」 川本三郎 著
新潮社
п@03―3266―5411
定価 1200円+税
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定価 1200円+税